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「福島原子力帝国 ― 原子力マフィアは二度嗤う」 
― 著者・恩田勝亘氏に聞く ―

2013年11月 7日 07:20

福島原子力帝国 ― 原子力マフィアは二度嗤う かつて「週刊現代」の記者として数々のスクープを連発したフリージャーナリスト恩田勝亘氏が、新著を上辞した。書名は「福島原子力帝国―原子力マフィアは二度嗤う」(七つ森書館)。福島第一原発の事故後、『福島原発・現場監督の遺言』(講談社)につづく2冊目となる。原発と向き合って36年、人生の大半を、原子力ムラの実相を報じることに捧げてきたといっても過言ではない恩田氏。69歳にして衰えぬ執筆意欲の源泉はどこにあるのか―新著の紹介を兼ねて、恩田氏に話を聞いた。

3.11以後の変化
 ―― 3.11以前と以後では、ジャーナリスト活動に大きな変化はありましたか。
 恩田:多くの執筆依頼をはじめ、多忙を極めましたが、何よりの変化は取材する側がされる側になったことです。2007年の柏崎・刈羽原発事故後に出版した『東京電力・帝国の暗黒』が、3.11までは唯一の東電批判本で、フクシマを予見していたとして注目されたからでしょう。長年の記者生活で相手の立場がわかるだけに、自分にできることは応えよう、と。それによって原発と東電の何が問題なのかを理解されるなら、と国内メディアも海外メディアにも時間の許す限り協力しました。

 そこまではいわば想定の範囲内でしたが、戸惑ったのは講演依頼がきたことです。私は文章を書くことで生きてきたので人前で話すのは不得手で、依頼があってもテレビや講演は断っていました。ただ長い人生で世話になって義理があるところから頼まれたときは困りましたね。そこで講演の素人であることを承知の上で、どうしてもと請われた場合だけ数回受けましたが、自分の基本はあくまでも取材して書くところにあると考えています

原発マフィアへの怒り 
 ―― 原発問題で恩田さんを突き動かしてきたのは何でしょうか。
 恩田:動機は単純でして、最初に原発と出会って感じた憤りですね。弱いものの上に胡坐をかいて恥じるどころか、それに安住する電力会社に我慢ならなかったからです。被曝しながら働く人たちが、多重下請けシステムの末端にいくほど劣悪な労働環境に置かれ、地元住民の不安や不満はカネと権力で抑え込む。原発の科学技術としての問題は当然ながら、政治、経済、社会的存在としての原発とは何か、その本性を見極めたいという一心でした。

 政財官学の原発推進派は自ら手を汚すことなく安全地帯に陣取り、日々の危険は作業員に負わせ、事故を起こせば住民に被害を及ぼしながら、自分は指示を出すだけ。それどころか自分の家族だけは真っ先に避難させる。彼らの人間性はフクシマで証明されましたが、そんな卑劣な連中への義憤といえばいいんでしょうか、原発マフィアが日本に君臨するほど日本が、日本人が壊れていくことに危機感を抱いていました

原点・福島・原発マフィア
 ―― 新著を書くきっかけは何でしたか。
 恩田:原発関連最初の著書も、先の東電関連のそれも七つ森書館で、3.11後も当然のように同社の依頼に応えなければと思いましたが、『週刊現代』で長くつきあった講談社の編集者の依頼も断れないので単行本としては先にそちらに手をつけました。フクシマ以後は原発関連本のラッシュでしたから、自分ならではのものは何かを考えてまず講談社の本を仕上げ、次いで今回の七つ森書館の本に取り組みました。事故から1年以上経ってやることは何かを考えると、原発取材の原点になった東電福島の地元に焦点を当てながら、原発とは何かという当初からのテーマを幅広い視点から捉えてみようということでした。取材・執筆にとりかかってから病気入院するというアクシデントもありましたが、何とか出版にこぎつけたというところです。評価についてはまな板の鯉と思っています。
 
 ―― もっとも訴えたかったことは何でしょう。
 恩田:人間として、日本人としての哲学、宗教、倫理観に照らして原発は原爆と同じであり、科学技術としても核燃料サイクルという絵空事が成立するわけもない。それにも拘らず原発にしがみつくマフィアたちの醜悪さと、彼らに引きずられていくとどんな悲劇が待っているかということです。自然の摂理に逆らい、人間と動植物すべての生命を危機にさらす原発からの一刻も早い決別を決断すべきときであり、それこそが日本発の真のグローバルスタンダードになると考えています。

東電解体を
 ―― 福島第一の行方をどう見ていますか。
 恩田:暗いですね。どこからどう見ても私が生きているうちには解決しないでしょう。事故炉が一体どうなっているかもわからないのに、汚染水処理をはじめとする事故収束への的確な対応ができるはずありません。何よりも事態を暗くしているのは、事故当時からの東電に企業としての統治能力、すなわちガバナンスが欠けていることです。それは民主党政権も自民党政権の国も同じですね。確たる原発観がないから政府自体が東電の下請けに甘んじてきた。五輪招致で尻に火が点いたからでしょう。安倍首相が『事故収束に世界の知恵を借りたい』と言い出したのは事実上のお手上げ宣言です。今後の廃炉を含めてとにかく気が遠くなる時間を必要としますが、時間を短縮するには東電を一度解体して異なる組織に改めるしかない。死に体なのに生きているかのように見せかけるのは問題の先送りにしかなりません。

再稼働反対 
 ―― いまさらでしょうが、原発再稼働の是非と理由について聞かせてください。
 恩田:もちろん再稼働には断固反対ですが、今は我慢比べです。安倍内閣は東電と同じく思い切りも踏ん切りも悪い。そこは小泉元首相の政治判断の方がはるかに的確です。物事には勝負時があり、それを逃がすと延々と同じ過ちを繰り返します。原発を動かさないと電気代が上がり、日本経済が立ち行かなくなるというのは手垢にまみれた推進派の脅しですが、近視眼の最たるもの。これまでも石油価格が暴騰して大騒ぎなったことは何度もありますが、そのたびに節電技術と発電効率が大幅上昇して電力重要を抑える効果を果たした。短期的な電気料金の値上がりと「原発ゼロ」がもたらす将来的な計り知れない利益を考えれば答えは自明でしょう。老齢化による自然減だけでなく、事故による悲劇が加わって日本は10数年後から人口が激減することもエネルギー政策上の重要ポイントです。ここで再稼働を許したら日本はフクシマを繰り返すことになります。

闘志
 ―― これからの活動予定は?
 恩田:私のようなヘソ曲がりで世渡りの下手なジャーナリストは苦労しますが、我慢ならないことには闘争心が湧いて取材・執筆したくなります。だから今後も原発を軸にしつつ、山積している国内外の問題も追いかけていきます。世界すなわち地球、宇宙も包括した視点から発信していくのが、自分たちのような仕事をする者の務めだと思っています。どこまで続くか、ともかくやり続けるしかないと思っています。
 ―― ありがとうございました。

【恩田勝亘:プロフィール】
昭和18年生まれ。『週刊現代』記者を経て平成19年からフリー。政治・経済から社会問題まで幅広い分野で活躍する一方、脱原発の立場からチェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなど原発にからむ数多くの問題点を報じてきた。

著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)、『福島原発・現場監督の遺言』(講談社)など。

新刊「福島原子力帝国―原子力マフィアは二度嗤う」(七つ森書館)は、全国の書店で販売中。



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