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鹿児島県知事リコール最前線
― 広がる署名活動 ―

2013年11月 5日 07:15

リコール署名活動中 伊藤祐一郎鹿児島県知事に対するリコールの署名活動が始まって、1か月近く経った。街頭署名はもちろん、説明会でも多くの賛同者が集まっており、その広がりは増すばかり。年齢、性別、職業、支持政党に関わらず、多種多様な人々が、異口同音に伊藤知事に対する「NO!」の声を上げているのだ。リコールの声を聞いて引っ込めたものの、知事が打ち出した公費を使った上海研修や港湾地区への体育館建設に、県民の怒りは収まっていない。
 さらに、薩摩川内市の産廃処分場や鹿児島市松陽台の県営住宅増設、最近クローズアップされてきた再来年春開校予定の全寮制中高一貫男子校「楠隼中学・高校」にも批判が向けられている。必要性も採算も無視した巨額の税金の無駄遣い―反発が起きるのが遅かったくらいだが、9年間に及ぶ傲慢県政への怒りが、ここに来て噴出しているとも言えるだろう。改めて、リコール運動の最前線を取材した。

リコール亭
 先月末、鹿児島市名山町のレトロな飲食店街「名山堀」のど真ん中にある、リコール運動の拠点「リコール亭」を訪ねた。この場所は、落語家・三遊亭歌之介さんの所有地。歌之介さんのご好意でテントを立てさせてもらっているという。

署名簿 応対した市民団体「県知事リコール組ネバーギブアップ」の事務局長・能勢謙三さんはこう話す。「準備段階で手間どりましたが、やっと受任者に署名簿が行き渡り、活動にも活気が出てきました。じつは、署名簿にリコールの請求代表者のハンコが必要で、これに大変な時間を要してしまいました(右の写真)。代表者は78人。2万枚の署名簿の1枚1枚に、捺印を行ったわけです。全部で156万のハンコを押したんですよ。これだけでもすごいことだと思っています。たった20人ほどの集まりから始まったんですから。それが全県に広がっただけでもありがたい。これからです。手ごたえも感じています。なにより、強大な権力を持つ知事に対し、こうして立ち向かうことの意味を理解して欲しい。鹿児島県政は知事のものではなく、県民のものです。変えなければいけません」。静かながらも、固い決意を秘めた語り口だった。こうした多くの「個人」が、署名活動を支えている。

広がる活動
鹿児島 870.jpg 請求代表者や受任者による署名集めの手法は様々。友人、知人を訪ねて話し込み、署名の必要性を説きながら、こつこつと数を増やしている人もいれば、鹿児島中央駅の前や天文館といった人の多く集まる場所に出向き、署名を集める人もいる。街頭での県民の反応は非常によく、声をかけるとほとんどの人が署名に応じているという。たしかにこの日、声をかけられた県民が、署名を断るといったケースは皆無だった。
 夫婦で受任者の話を聞き、署名しようとした奥様がご主人に止められ、憤然とペンを執ったケースもあったという。取材中、署名に訪れた60代の男性に話を聞くことができた。

 記者:なぜ署名しようと思ったのですか?
 男性:わたしは知事の応援をしてきた立場の者です。しっかりやっていると思っていたが、どうにもやり方がおかしいと思うようになりました。

 記者:具体的には?
 男性:やはり上海研修とドルフィン(体育館建設のため、前倒しで閉鎖されるとされた商業施設「ドルフィンポート」)。県民に何の相談もなく、降ってわいたような話。進め方が明らかにおかしい。これは辞めさせなければと思うようになったんです。

 記者:リコールに対する周囲の反応は?
 男性:私の回りはリコール賛成が多いのですが、気になっていることがあります。マスコミに友人が多いのですが、酒の場では声高に知事批判をしているのに、そうした記事がなぜか出てこない。一体何やってんだ、とね。

 記者:鹿児島の県政記者クラブは「青潮会」と名前まで付いているんですが。ご存知ですか?
 男性:知ってます。何も書かないんですよね(笑)。

 同じく、署名を終えたという40代の主婦(鹿児島市在住)にも話を聞いた。

 記者:署名した理由は?
 主婦:上海研修はひどい。税金使ってやることではないですよね。体育館だって、県民の声を聞いて計画を立てるべきだった。リコールになって止めるのは卑怯。薩摩隼人のやることじゃない。篤姫様の時代なら切腹ものでしょうに。

 記者:鹿児島県政について、なにか見方が変わったとか?
 主婦:薩摩川内の処分場や松陽台の(県営住宅の)ことは、何が問題かよく分かっていませんでした。今回のリコールがきっかけになって、その内容が分かりました。止めさせなきゃ。絶対ダメ。何百億もの税金がですよ、知事の独断で垂れ流されるなんて。北朝鮮じゃあるまいし。私、(リコール署名の)声かけ頑張りますよ。もちろん知事をクビにするため。あ、もうひとつ。記者会見の映像を見ましたけど、伊藤さんがあんなに傲慢な態度で記者さんたちに接しているなんて知りませんでした。みんなに見るように言ってます。見た人全員『ああ、嫌だ』と言いますもん」。

 原発反対の立場で署名を呼びかける人もいる。薩摩川内市の男性(50代)の話。

 記者:なぜ署名活動に協力を?
 男性:原発反対ですから。薩摩川内は原発と産廃処分場のふたつの迷惑施設を抱えようとしています。いずれ処分場に原発のゴミが捨てられるでしょう。それを避けるためには、原発を止め、処分場建設をやめさせるしかない。フクシマ(福島第一原発の事故)以降、原発の恐ろしさが分かったにもかかわらず、まだ『再稼働』だという。知事がその急先鋒ですよ。川内原発や処分場建設を止めるには、知事を変えるしかない。

 選挙で選ばれた人間を解職しようというのだから、ハードルは高くなる。鹿児島県の有権者数は、およそ140万人。総数が80万を超える場合にあたるので、地方自治法が定めた計算式に従えば、まず(140万-80万)×8分の1=75,000。これに40万×6分の1≒67,000と40万×3分の1≒134,000を加えると、およそ276,000人が請求に必要な数となる。請求が有効となった場合、60日以内に住民投票が行われ、有効投票総数の過半数の賛成で、知事は失職する。現在の鹿児島県内の県民感情を考えれば、不可能な数字ではない。事実、リコールの成立に向けて、様々な立場の人が活動の輪を広げ始めていることを実感した。

公約無視の傲慢県政
鹿児島県庁 リコールに向けた活動が広がるのは無理もない。伊藤知事は、平成16年の就任早々、人工島建設反対の公約を撤回し、恥ずかしげもなく建設推進に舵を切った。昨年の県知事選でも、反原発を掲げた相手候補に対し、「私も脱原発派」などと焦点ぼかしを図った上、当選するやいなや、川内原発再稼動を支持する発言を行っている。

 度々の公約無視の理由は、「局面が変わった」という一言。県民から寄せられた署名や陳情、嘆願といった声は、完全に黙殺してきた。知事が耳を傾けるのは一部の利権亡者の声だけなのかもしれない。
 前出の主婦の言葉通り、多くの県民から総スカンを食っているのは、記者会見等で見られる伊藤知事の傲慢な態度だ。上海研修の正当性を訴えた折も、「県民に国際感覚がない」などと、上から目線で見下す発言を行っている。実情を知る人が、署名を断るはずがない。

リコールをめぐる県内メディアの姿勢
県政記者室(青潮会) 伊藤知事リコールへのこの勢いは止められない。ただ、気になるのは、取材に応えた60代男性が話しているように、地元メディアの取り上げ方が小さいこと。報道管制が敷かれているのは分かるが、平成22年に行われた阿久根市のリコールであれだけ騒いだメディアが、知事へのリコールでは鳴りを潜めたままだ。前阿久根市長のリコールが成立した背景には、メディアの大々的な報道があった。両者の違いは置くとして、リコールという民主主義の根幹に関わる重大な事案の背景について、メディアには詳しく報じる義務があるはずだ。

 それがどうだ。たまに出る記事は、上海研修など自分達が扱ってきた素材ばかり。リコール運動の趣旨に示された薩摩川内の産廃処分場や松陽台県営住宅といった巨額の税金を無駄にする事業についてはほとんど書こうとしていない。問題意識が欠如しているのは分かるが、これでは「権力の犬」。在鹿児島のメディアは、県民の味方ではなく、知事の味方ということになる。反論する気持ちがあるなら、知事リコールに立ち上がった人たちの思いを少しでも原稿にしろと言っておきたい。

リコール阻止派の狙いは利権確保
 県内では、“署名をするな”という脅しや圧力が知事を支える企業・団体から出ているという噂さえ出ている。実際、受任者のひとりはこう話す。「私の友人は地元の企業に勤めています。その友人に、《リコールの署名した人はみなわかるので署名はしないように》という内容のメールが届いたんです。こんなことって許されるのでしょうか」。
 九電のやらせメール事件が教訓になっているはずだが、鹿児島には、まだそうした連中がいるということだ。裏を返せば、伊藤知事を支える側がリコールの動きに危機感を覚えている何よりの証拠ということになる。

 県や一部財界がリコール阻止に動いているのは、自分たちの利益を減らさぬためだ。決して県民や県の未来を考えてのことではない。鹿児島は政・官・財の癒着が、あまりに顕著で、県民もこれを容認してきたといわれる。リコールを機にその構造が崩れ、「県民のための県政」が実現することを祈りたい。
 伊藤知事は、定例会見の中で「リコールを起された知事は50年で1人」と言った。さらに「鹿児島県の名誉がかかってきますので、おやりになるとしても清々粛々やってほしいと思います」とうそぶいた。その知事に、署名を終えた20代男性(会社員・鹿児島市在住)の声を届けておきたい―「伊藤知事は鹿児島の恥。鹿児島県人の名誉と誇りにかけて、リコールへの署名を呼びかけます」。同じ“名誉”でもずいぶん違うものだ。

追記
 読者からのメールでよくあるのは、「いつ、どこで」署名をすることができるのか、という質問である。「何度か天文館に行ってみたが、空振りに終わった」という人も少なくない。確かに、受任者の数もおよそ1400人となり、署名場所として提供される店舗や住宅も増えている。しかし、その場所などの周知が足りていないのが実情だ。署名できる場所や、説明会、街頭署名の日時・場所をお知りになりたい方は、『県知事リコール組 ネバーギブアップ』のホームページ(⇒http://recall-kagoshima.jp/)を見ていただきたい。あと1ヶ月が勝負だ。

<鹿児島取材班>



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