HUNTERが提起した記者クラブの運営実態についての質問取材に対し、福岡市役所の記者クラブ(『福岡市政記者会』)が、事実上の回答拒否で応えてきた。
記者クラブの存在意義や、記者室が税金で成り立っていることを承知で説明責任を放棄する姿勢は、ジャーナリズムの「死」を意味している。
それでは、福岡市政記者会がとった方針に対し、他の報道関係者たちはどのような感想を抱いているのか。何人かの現役記者およびフリーのジャーナリストにHUNTERの質問文書と記者会側の「回答文書」を見せた上で、考えを聞いた。
質問と「回答」
それぞれの意見をご覧いただく前に、HUNTERの市政記者会に対する質問事項と、記者会側の「回答」を再掲しておきたい。
《質問》
《記者会回答》
質問1から4について、一括してご回答いたします。
福岡市政記者会では、記者クラブの目的や役割等にかんがみ、その都度、適宜、適切に判断しております。
【地方紙記者】
記者クラブからの回答、お粗末過ぎて開いた口がふさがらないの一言ですね。
これまで行政機関や企業などに対する取材で、文書で回答を求めた経験が数多くありますが、ここまでひどい回答は滅多にありません。まして、相手に説明責任を果たすよう求めて真相を追及し、読者・視聴者に伝えることを使命とする報道機関が集まった記者クラブの総意として、こんなお粗末な回答がなされたとは、信じがたいことです。
そもそも、一括して回答するたぐいの質問事項ではなく、非常識です。いまどき、ここまで木で鼻をくくったような低レベルの回答をする役所や会社は珍しいでしょう。
これまで行政機関や企業を追及する取材をしたことのあるジャーナリストであれば、恥ずかしくてこんな回答はできないないでしょう。もし、自分たちの取材に行政機関や企業が同じような回答をすれば、紙面や画面で厳しく指弾するはずです。
記者クラブ制度がさまざまな問題点を抱えているのは事実であり、4項目の質問などは痛いところを突かれた内容かもしれませんが、そうであればなおさら、真摯に回答し、記者クラブは「市民の代表として権力を監視するために行政機関内に確保している場所」であることを丁寧に説明すべきです。言論のプロなのですから。
九州の中心地である福岡市の市政記者クラブには、各社の優秀な記者が配置されているはずであり、記者クラブへの質問は、各社ともそれぞれの会社側(デスクや部長など)に確認した上で回答するのが常です。今回の対応は同業者から見ても、まったく不可解です。
【全国紙記者】
私は一記者として、記者クラブは使いようによってはとても有用なものだと思っております。
だからこそ、「記者クラブそのものが悪い」といった印象が広まって、記者クラブという「遺産」がなくなることを危惧します。悪いのは記者クラブそのものではなく、使い方を間違えている記者や役所です。
記者クラブをなくすことで得するのは役所側、権力側だと思います。特定秘密保護法案でも明らかなように、権力はなるべく記者や市民を遠ざけようとします。
目指すべきは、記者が記者クラブを使いこなすこと、そして、組織に属さないジャーナリストや市民側に開く形で発展させることだと思います。
ハンターの記事「記者クラブ検証」でも明らかなように、今回の回答は不十分で不適切ではありますが、記者個々人には記者クラブや取材活動について考えがあるはずで、その一例として、個人的な意見をお答えさせていただきました。
【地方紙記者】
「非常に乱暴で、不誠実な答え方と感じました。もし何らかの取材で、記者クラブ側が取材対象者からこんな回答を得た場合、とうてい納得せず、もっと詳細な回答を引きだそうとするはずです。
仮にも10社以上の記者の加盟で成り立つ記者クラブが、クラブ総会を開いてまとめた回答が、このお粗末な内容というのはとても信じがたいです。幹事社の独断による回答など、何かの手違いがあったとしか思えません。
【全国紙記者】
一読して、唖然、というのが正直なところ。
日頃、取材先に対して明確な回答を求めておきながら、程度の低い役所や不祥事を起こした企業のような回答ぶりで、あきれてしまう。中でも1と4に関してはまったく質問に対する答えとなっていない。不誠実極まる。
2と3に関しては100歩ゆずるとしても、1と4に関しては、再度質問を投げかけた方が良いのではないか。
【フリージャーナリスト】
市政記者会に関する質問と回答を拝見しました。記者会所属外のメディアやフリーランス記者からすれば極めて単純な疑問であり、当たり前の質問です。記者会の回答を読んであ然としました。まったく回答になっていません。
欠陥だらけの特定秘密保護法をめぐる国会質疑での政府答弁がはるかに誠実に見えてきます。福岡市政記者会の回答は「木で鼻をくくる」そのもの。
その都度、都度に適切に対応するというのは、日ごろメディアが批判する政治家答弁そのもので、何も答えていない。記者会として何の基準もないというのは信じ難いことです。質問への回答を保留する意図がわかりません。福岡の市政記者会は特殊な集まりで、記者会所属メディアの市政報道はしっかりフィルターにかけて読む必要がありますね。
例えば、市政記者会所属の記者達が、福岡市を対象とした取材を行うとする。記者の質問に対し、市側が、記者会と同じ「目的や役割等にかんがみ、その都度、適宜、適切に判断しております」という文言で応じた場合はどうするのか?今回の記者会の「回答」を是とするなら、文句は言えないだろう。
同様に、全国の記者クラブが、福岡市政記者会の姿勢と同じだと見られた場合は、真剣に「権力の監視」という本来の使命を果たそうとしている記者達の足を引っ張りかねない。「マスコミも俺たちと同じじゃないか」―取材対象となった役人や政治家は、喜んで福岡市政記者会の「回答」を引き合いに出すだろう。その時、「よその記者クラブのやったこと」で済ますわけにはいかないのだ。なぜか?
記者クラブに対して質問や要望が出された場合、各社の記者はいったん所属する会社に持ち帰って上司などの考えを聞く。その上で、記者クラブの総会において各自の意見を出し合うのが普通だ。つまり、今回の市政記者会の「回答」の内容は、クラブに記者を送り込んでいる各メディアの考えだった可能性がある。市政記者会には、NHK、読売、朝日、毎日、日経、共同など全国に記者を配置するメディアが参加しており、国や全国の自治体で会社としての姿勢が問われることになるのだ。ことは福岡市政記者会だけの話ではなくなる。そうした意味で、記者会の「回答」はまさに「自殺行為」、他の報道関係者から厳しい声が上がるのは当然だろう。
【50代男性:サラリーマン】
いや、ちょっと・・・・。答えになってなっていないですよね。本当に記者クラブがこんな回答を出したんですか?HUNTERがいじめたんじゃないですか?だって、世の中で起きる出来事の真相を追究するのが記者の役目でしょう。聞かれる側に回って、役所みたいな真似したんじゃ、シャレにならないでしょう。
【40代男性:会社社長】
言いだしっぺがいたはずだけど、こんな下らない回答を良しとした記者クラブ全体の見識を疑う。政治家や役所とマスコミの間では通じる文言かもしれないが、一般社会では到底認められない話。この人たちが書く記事の底が知れる。
【20代女性:会社員】
答えになっていないですよ、これ。相手にケンカ売ってるんでしょうねぇ。
【高3・女子生徒】
何これ。答えになってない。1番(「記者会見の主催は記者クラブ、福岡市のいずれでしょうか?」)なんか二択やろ。ホントに記者さんたちの書いた答え?うそ~。マスコミ志望、やめようかな~。
いずれも揃って「答えになっていない」との評価。記者会の文書を見て、高3女子生徒がマスコミに嫌悪感を抱いたことは想像に難くない。やはり誰が見ても記者会の姿勢は「不誠実」と映るらしい。
日ごろ、記者会と市側のやり取りを見聞きしているというある市職員からは、次のような辛らつな批判が寄せられた。「福岡市役所の記者クラブは、完全に市の広報戦略室にコントロールされている。市長会見での突っ込みはいつも甘いもので、役所の言い分を精査もせず、そのまま記事にしている。HUNTERが唱える『権力の監視』など夢のまた夢。それこそ『ポチ』の集まりなのだから」。
どうやら、HUNTERの見立ては間違っていないらしい。福岡市政記者会は、ジャーナリズムの本旨を踏みにじっている。そして、こうした姿勢が、とんでもない市側の行為を許していた。