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小泉「原発ゼロ」劇場 ― 自民党を割るか、安倍延命のアシストか

2013年10月29日 07:00

自民党本部 8年ぶりに開幕した小泉劇場が大盛況だ。小泉純一郎元首相が主宰してきた小泉劇場の演目は数々あるが、第一幕ともいえる2001年自民党総裁選大興行では、「自民党をぶっ壊す」と叫んで総理総裁の座を手にする離れ業を演じた。続く第二幕は2005年の「郵政民営化」で、「イエスかノーか」の決めゼリフが観客を沸かせて、自民党は総選挙で記録的大勝を収めた。第三幕ともいえる今回の「原発ゼロ」は演題、興行のタイミングともに絶妙で、小泉純一郎という役者の芸達者さが光る。果たして発言の真意は・・・・。

拡がる波紋 
 8月にフィンランドとドイツを視察した元首相が、今後の原発政策について「ゼロしかない」と語ったとする8月26日毎日新聞報道はインパクト十分だった。訪問先が世界に先駆けて2020年稼働予定のオンガロ核廃棄物最終処分場で、帯同したメンバーが原子炉メーカーとゼネコンという原発マフィアの元締めたち。その上で「処分場も処分方法もない原発はゼロにすべき」は正論であり、原発推進、反対を問わず小泉発言の波紋は拡がる一方。その真意を巡る世論もかまびすしい。

 3・11から2年半を経ながら事故収束はもとより、汚染水タレ流しも止められない東電と政府には国内は当然ながら、海外からも厳しい目が注がれている。「原発ゼロは政治が決断すればできる。今がそのとき」という小泉発言は正鵠を射たものであり、経団連以下の原発マフィアたちが顔をしかめ、反原発、脱原発派と野党すべてがもろ手を挙げて歓迎するのは当然だ。汚染水対応に加えて再稼働への原子力規制委員会判断も目前に迫り、日本の原子力政策がどこへ向かうか、今ほど国内外が注視しているときはない。そのタイミングを捉えた巧みな石の投げ方は見事であり、現役を退いても元首相の政治カンの鋭さは政界で抜きん出ている。

発言の真意は? 
 とはいえ政治家としての評価や第三幕に賭ける本気度については別だ。第一幕、第二幕ともに自民党を壊しながら選挙では自民党を勝たせ、自らは首相在位5年という中曽根康弘元首相以来の長期政権を築き、任期満了で意気揚々と退陣した。結果はといえば、「米国のポチ」と揶揄されたように、対米追従あるいは米国スタンダードによる日本のリストラクチャリング(再構築)だった。国際金融資本の代理人と目される竹中平蔵内閣府特命担当大臣を重用した「小泉改革」により、郵政民営化をはじめとする規制緩和による少数のカネ持ちと大多数の貧乏人という米国型社会を招来したのは否めない。

 それだけに元首相には「油断のならない政治家」という印象も強い。原発推進、維持派が反発するのは当然だが、反原発、脱原発派も歓迎しながら戸惑いと警戒感があるのも確かだ。とりわけ推進派にとって気がかりなのは、小泉流政治手法が「抵抗勢力」をつくって世論を味方につけるのを得意とすることだ。

 10月22日、自民党内原発推進派で組織する「電力安定供給推進議員連盟」の会長を務める細田博之幹事長代行が、BSフジの番組で「世界の潮流は原発推進」と強調したのは小泉発言への警戒感の表れ、焦りでもあろう。党内には若手を中心に原発再稼働、新増設を狙う「守旧派」に反発するグループもあり、「小泉効果」に注視したい。

 小泉発言について「進次郎への援護射撃」の見方もあるように、後継者の進次郎代議士がリーダーシップを握るころのエネルギー政策はどうあるべきかを示唆しているようにも見える。進次郎氏本人は目下のところ「親父は親父」というスタンスだが、党内での求心力は抜けているだけに原発について言及すれば影響は大きい。さらにかつて後継に指名したものの頓挫しながら復活した安倍首相へ、小泉氏ならではの叱咤激励、批判ともとれる発言もしている。安倍首相は小泉発言を意識してか、とくにIOC総会後には「廃炉を進める」とか「原発を減らす」などと思わせぶり発言もしている。しかし、国会で小泉発言を質されると「無責任」と反論するなどあい変わらず煮え切らないが、内閣自体が再稼働に前向きで原発維持する姿勢に変わりはない。

 「推進でまとめることはできないがゼロならまとめられる」という民意を熟知した小泉発言が実体をもつとすれば、野党が一本化することによって自民党の分裂を誘うしかない。そこで最優先されなければならないのが原発作業員の処遇だ。多重請負による日当ピンハネや長時間労働など劣悪な作業環境の下で彼らは疲弊しきっている。作業員の雇用に関するセーフティネット(安全網)構築をしなければ、目前の事故収束も汚染水処理はもとより将来の廃炉もあり得ない。そんな具体策が講じられなければ「原発ゼロ」もかつての民主党野田内閣同様、安倍内閣の延命に利用されかねない。

<恩田勝亘>

恩田勝亘:プロフィール
昭和18年生まれ。『週刊現代』記者を経て平成19年からフリー。政治・経済から社会問題まで幅広い分野で活躍する一方、脱原発の立場からチェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなど原発にからむ数多くの問題点を報じてきた。

著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)、『福島原発・現場監督の遺言』(講談社)など。

新刊「福島原子力帝国―原子力マフィアは二度嗤う」(七つ森書館)は、全国の書店で販売中。



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