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福岡市・ネット閲覧規制と記者クラブ

2013年10月 7日 09:05

 福岡市(高島宗一郎市長)が今年8月から始めた庁内パソコンのインターネット閲覧制限強化。一定の閲覧制限は他の行政機関や民間企業にも見られるが、同市の場合は明らかに過剰。アダルトサイトなど、従来からある不適切情報に対する接続制限に加え、芸能、スポーツ、映画・演劇、グルメ、TV・ラジオ、果てはSNS、ブログ、ニュースにまで対象を拡げていた。
 一方、市政記者クラブ所属の新聞社・通信社などが発信するニュースは規制対象外。明らかに記者クラブの囲い込みを狙ったとしか言いようのない状況だ。
 ネットメディアやブログにまで閲覧制限の対象を拡げたことは、結果的に、言論や報道の自由を否定することにつながりかねない。しかし、“ジャーナリスト”の集まりであるはずの記者クラブ側はだんまりを決め込んだままだ。
 問題の閲覧制限について、さらに問題点を検証した。

まだあった問題点
 下は、福岡市への情報公開請求で入手したカテゴリーごとの制限状況だ(A3用紙を2分割して掲載)。従来の制限内容と、今回の変更点が分かる資料である。

カテゴリーごとの制限状況1 カテゴリーごとの制限状況2

 今回の閲覧制限強化で、「ブログ」が規制対象に加えられているのが分かる。ブログは制限ではなく「閲覧禁止」。これまでになかった厳しさだ。その結果どうなるか――福岡市には62名の市議会議員がいるが、公式ブログを通じて様々な情報発信を行っている議員は少なくない。システム上の問題があって全部のブログがひっかかる訳ではなさそうだが、それでも大半はアウトになってしまう。福岡市の職員が、福岡市議のネット上の情報発信状況を見るのに、いちいち業務との関係を確認しなければならないのだろうか。

 ブログを使って情報発信するケースは多い。政界をはじめ法曹界、経済界、ありとあらゆる分野の第一線の人間が、ブログに貴重な情報を書き込んでいるのが現代社会だ。福岡市は、自らそうした情報に接する機会を遠ざけているのである。

 ある市職員はこう話す。「市議さんのブログはもちろんですが、ほとんどのサイトが閲覧制限の対象になっています。海外の情報なども拾いにくくなってしまいました。おかしいでしょう。もちろん、業務に必要だと申告すればいいんでしょうが、サイトを開く度に神経をすり減らすような環境が、まともとは思えませんね。面倒はゴメンとばかりに、無理して情報を取ることを止めてる職員もいますよ。だって、上(上層部)が『業務に関係ない』と強弁すれば、処分されるんですから・・・。HUNTERが書いてるように、うちは(市役所は)おかしなサイトを見たり、長時間パソコンとにらめっこができる職場環境ではありません。第一、周囲が黙っていないですよ。従来の閲覧制限で十分だったはずです。セキュリティは別次元の問題でしょう。明らかに行き過ぎ。これが本当にHUNTERの締め出しを狙ったものだとすれば、あまりにも子どもじみた市政だと思いますね。情けない」。

SNS積極利用の武雄市と大きな違い
 SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を制限対象に加えたことも、時代錯誤としか言いようがない。
 佐賀県武雄市は、今年8月から市のホームページをすべてfacebook(フェイスブック)に移行したほか、市の職員にtwitter(ツイッター)のアカウントを与えて、「つぶやき」を奨励してきた。施策への賛否はあろうが、情報を公開し、市民と行政との距離を縮めようという試みには、全国の自治体から注目が集まっている。隠蔽好きの福岡市とはあまりに違う現実だ。

 「情報発信」の重要さを声高に叫んで初当選した高島宗一郎福岡市長だが、やっていることはまるで逆。市内部の情報を隠蔽し、外部からの批判までシャットアウトするというのだから開いた口が塞がらない。
 ちなみに、武雄市の樋渡啓祐市長は、毎日ブログやtwitterで情報発信している。福岡市ではこれも閲覧制限の対象となっているはずだが・・・・。

「北朝鮮・中国並み」―職員から厳しい批判
 公務員が不適切なサイトを見ることは、もちろん許されない。市はそうした観点から、不適切サイトについて、早くから閲覧制限を加えてきた。上の一覧表を見れば、納得できる制限対象になっていたことが分かるだろう。しかし、今回の閲覧制限強化は度を越えている。正常な業務に支障を来すような状況では、職員の意識は低下こそすれ、高まることはない。

 “必要な閲覧なら、許可を取れば済むこと”という反論もあるだろう。だが、運用が恣意的に映るため、確認画面から先に進む気がしないという意見が多いのは確かだ。
 総務企画局長に利用制限の対象を決める権限を付与したため、局長が「業務に関係なし」、「制限の必要あり」などと判断した場合は、インターネット利用を制限できる。その上、職員がHUNTERをはじめ市上層部に批判的なサイトの記事を読んだ場合、職務専念義務違反に問われる可能性もある。「(確認画面が出たら)気味悪くて先に進む気がしない」(市課長)という職員の反応はもっともだろう。

 市内部には次のような厳しい意見もある。「検閲や情報統制の目的が、『犯人捜し』やネットメディアの締め出しにあるとすれば、北朝鮮や中国並みだ。『犯人捜し』とは、報道関係者に市内部の現状を漏らした者を捜し出すこと。ゲシュタポがいるという他の職員の話は本当だ。誰がその任にあたっているかを知っている職員も多い。息が詰まりそうな職場であることを感じているからこそ、HUNTERにメールを送る職員が増えるのだろう。その気持ちは分かる。現に、この状況を変えて欲しいと願っている職員ばかりだ。高島市長になって、市に警察OBが大量に天下りするようになったが、今回の問題と無縁とは思えない。記者クラブは知ってて何も書かない。市にとって都合の悪いニュースを流すと、担当記者を呼んで圧力をかけるバカな幹部がいる。記者クラブはそれでも動かない。ニュース制限が問題だという意識もないのかもしれない。ネタをもらうことに汲々としているからだろう。監視する側、される側、どちらも死んでいる」(幹部職員)。

噴飯ものの「ニュース制限」理由
 ついに北朝鮮に例えられるようになった福岡市役所だが、この幹部職員が言うように、閲覧制限強化に対する市政記者クラブの動きは鈍い。下は、Q&Aの形でまとめられた職員向けの閲覧制限強化についての説明だ。「ニュース」分野全般を制限対象に加えたことについて、もっともらしい言い訳が記されている。(赤いアンダーラインはHUNTER編集部)

記者クラブ優遇.jpg

ニュースは非常に幅広い分野の情報が提供されていますので、業務上の必要性を一概に判断することは困難》―幅広い分野のニュースに接していなければ困るのは、役所ではないのか?
勤務時間中に業務に関係のない情報を延々と閲覧する可能性もある》―市職員が話しているように、市役所は、おかしなサイトを見たり、長時間パソコンとにらめっこができる職場環境ではない。大半の部署は職員同士が行き交う形になっており、机ごとに衝立で仕切られているわけでもない。個々が隠れて不適切な閲覧を行うこと自体が無理。つまり、物理的に不正ができないのである。
業務に関係のない情報を延々と閲覧する可能性》―があるのは、個室に陣取る局長級から上の幹部クラスくらい、もう一人加えるなら市長だろう。

 このあと、問題の記述が続く。
なお、本市市政記者クラブ所属の新聞社・通信社、iJAMP、及び47行政ジャーナルのサイトは、基本的に「確認画面」を表示しない設定としています》―市側がコントロールできないメディアのサイトは、締め出しますと宣言したようなものだ。また、《ニュースは非常に幅広い分野の情報が提供されていますので、業務上の必要性を一概に判断することは困難》としながら、市政記者クラブ関係のサイトはOKというのでは、理屈に合わない。

 ネットメディアやブログにまで閲覧制限の対象を拡げたことは、結果的に、言論や報道の自由を否定することにつながる。決して容認してはいけないことだと思うが、日ごろ、言論や報道の自由を盾に活躍している記者たちは、一体何をしているのだろう。

だんまり決め込む記者クラブ
 記者クラブは、主として国や地方自治体、業界団体ごとに「一般社団法人 日本新聞協会」加盟社(新聞105社、通信4社、放送23社が加盟)及びこれに準ずる報道機関から派遣された記者によって構成される組織だ。

 我が国独自の“特異な”システムであるが、日本新聞協会が発表した見解の中では、《記者クラブは、公的機関などを継続的に取材するジャーナリストたちによって構成される『取材・報道のための自主的な組織』》と定義されている。記者クラブはあくまでも個々の記者によって構成される任意団体だが、『ジャーナリスト』の集まりなのだという。

 じつは、その“ジャーナリスト”たちの多くが、今回の福岡市の閲覧制限を知っていたと思われる。実際、HUNTERの記者は、何人もの報道関係者から「(閲覧制限の)話は聞いている」と聞かされているのだ。ただ、そのほとんどが「民間や他の自治体でもやっている」という理由で、福岡市のケースを掘り下げようという意識はなかった。市政記者クラブ所属の記者が、閲覧制限に関する公文書を確認し、何が問題なのかを調べた形跡もない(調べた上で記事にしないのなら、なおタチが悪いが)。
 しかし、他の自治体で活動するジャーナリスト(こちらは本物の)たちは、一様に驚き、これまた同音に「なぜ(福岡の記者たちは)書かないのだろう」と言う。まともな反応だ。
 記者クラブだけ特別扱いされて満足なのか、はたまた問題意識が欠如しているか。背景にあるのが、役所側からネタをもらうことに慣れ過ぎた記者クラブの弊害であることは言うまでもなかろう。

 最後に、今年8月に配信した「新聞は面白いか?」で、所見を寄せてくれたある全国紙記者の一文を再掲しておきたい。記者クラブ所属の記者たちにとっては大先輩、本物のジャーナリストの言葉である。

《「新聞が面白くない」と言われる。理由は簡単である。「『面白くない記事』を載せているから」。それに尽きる。
 では、どうしたらよいか。これも理由は簡単である。「面白い記事」を書けばいい。「面白い記事」とは何か。独自に掘り起こした記事である。調査報道である。

 「脱・記者クラブ」が言われて久しい。だが、現実はそうはなっていない。難しいのも新聞社にいると分かる。だが、そこに、お上からの「垂れ流し」の記事はないか、自問自答しているのか。百歩譲って発表を受け入れたとしても、その背景を時間のある限り、締め切り時間のぎりぎりまで取材したか。記者会見はネット上で流れている時代である。その記者会見と発表記事を読者に比べられて、うならせる記事が書けたか、新聞記者ならそんな錯誤を毎日、やるべきである。

 数歩譲るとしたら、仮に記者クラブに足場を置いたとしても、寝るだけにしたらいい。本当に寝るだけだ。起きたら、現場を回ればいい。このサイトで呼ばれた「ポチ」は餌をもらうが、本物ならば獲物を狙うはずである。獲物を狙っていけば、調査報道に通じるはずである。

 ひと言で「調査報道」と言っても楽ではない。膨大なデータに向かい、足を棒にし、あらん限りの力を振り絞らなければ、行き着かない地である。最近の新聞協会賞はほぼ、調査報道が占めているのは、危機感の表れととらえたい。

 だが、なにも新聞ばかりではない。様々なメディアが同じ道を模索していることもうかがえる。ネット時代になっても、ツイッター、フェイスブックが登場したいまでも、取材手法に大きな変化があるわけではない。現場で、人にあって話を聞き、報道する。その繰り返しの中で、真実は見えてくる。

 餌を「もらうのか」、獲物を「獲得するのか」。そんな簡単な問題を一人一人の記者が常に考えていないと、新聞に未来はない。》

*文中出てくる「ポチ」とは―。
 役所側と仲良くし、公表内容をノーチェックで垂れ流す記者のこと。時に他社より早く貰いネタを記事にし、「スクープ」だと喜ぶ輩である。もちろん、役所にとって都合の悪い記事は書かない。書いても巧妙に役所擁護を行う。こうした記者が巣くうのが「記者クラブ」。本物のスクープをものにする記者は、若い頃から記者クラブの体質を嫌う。



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