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羽田・D滑走路と新人代議士の闇報酬
― 族議員(2) ―

2013年10月21日 08:50

宮内秀樹後援会事務所.JPG 海洋土木を専門に扱う、いわゆる「マリコン」の業界が、多額の政治資金提供を続けていた国会議員は限られている。自民党が野党に転落した2009年ころまでは、業界で組織された政治団体「さんそう会」が、集中して二人の政治家を支援していた。対象は、元参議院議員で国家公安委員長を務めた経験を持つ泉信也氏と、元国土交通副大臣だった渡辺具能元衆院議員。両人とも旧運輸省第4港湾建設局長経験者、つまりマリコン業界に仕事を与える側の立場にいたである。政・官・業が組んだ、自民党における、典型的な族議員育成システムだが、その渡辺氏引退にともない、後継者となったのが渡辺氏の元秘書・宮内秀樹代議士だった。

再掲 宮内氏との一問一答
 宮内氏をめぐっては昨年、建設会社2社から報酬を受け取っていながら、意図的に選挙向けの経歴から省いていたことが発覚、HUNTERで詳細を報じていた。
 ここで、昨年の総選挙前、福岡4区内にあるホテルのロビーで宮内氏に取材した時の一問一答を再掲しておきたい。

 記者:ここに宮内さんのホームページ上の経歴がある。間違いないか。
 宮内:電話でお話ししたように、渡辺先生(具能・前衆院議員)のところでお世話になる前、半年くらいは建設会社にいましたが。

 記者:なぜ経歴に入れないのか?
 宮内:政治的な経歴だけで十分のはずですから。

 記者:建設会社から報酬をもらっていたのはその1件だけか?
 宮内:それだけです。

 記者:違うのではないか。ほかにあるのではないか?
 宮内:いやいや。ないない。ないですよ。回りくどいですね。

 記者:それなら、単刀直入に聞く。ほかに2社から報酬をもらっていたはずだ。
 宮内:いや~・・・・・。

 記者:堀を埋めてから取材に来ている。本当のことを話してもらえないか。最近まで報酬をもらっていたことが分かっている。
 宮内:それは、顧問ですから・・・。このあいだまでだったですが。

 記者:顧問でも正社員でも同じ。報酬をもらっていたことは事実ではないか。もっと正確に言うが、平成21年の解散・総選挙以後今年の9月まで、3年間だ。
 宮内:それくらいになりますかね。

 記者:もう1社ある。
 宮内:ほかにはないですよ。

 記者:平成21年の夏から参議院選挙(22年)までの期間。A社(大手マリコン)の下請企業から。
 宮内:A社ではないです。

 記者:やっぱりもらっているではないか。
 宮内:短い間ですから。

 記者:国交省が世話したという証言があるが?
 宮内:国交省は関係ない。ない、ない。それはない。

 記者:保険はどうしていたか?
 宮内:今は国民保険ですよ。

 記者:今がどうかではない。9月までは社会保険ではないか?
 宮内:そうだったですね。

 記者:平成21年からの2社については、勤務実態がなかったことが分かっている。たまに顔を出す程度だったと聞いているが?
 宮内:会社には時々、顔を出してましたから。

 記者:マスコミの調査表にも、建設会社のことは記入していないのではないか?
 宮内:そうだと思います。

 記者:なぜ建設会社勤務について記入しないのか?
 宮内: ・・・・・・・。

 記者:隠したい気持ちは理解するが、ルール違反だ。政策うんぬんの前に、経歴をごまかすのは良くない。
 宮内:分かります。

 記者:最後に、宮内さんの主張なり、言い分なり、言い訳なりがあれば、きちんと書くが?
 宮内:いや、何もありません・・・。

 当初、闇報酬を否定していた宮内氏だったが、記者の追及に、渋々事実関係を認めた形となっていた。業界との関係を意図的に隠したことも問題だが、建設会社からの給与が、政治資金規正法が禁じる“企業献金”だった可能性もある。

 宮内氏に報酬を支払っていたのは、広島にある大手マリコンの子会社と、神奈川県川崎市に本社を置く建設会社である。このうち、HUNTERが注目したのは、3年にわたって宮内氏に報酬を与え続けた川崎市の業者と、宮内氏を結ぶ線だった。
 宮内代議士が報酬を受けるようになったきっかけは何か。HUNTER取材班は、その後の追跡取材で、この真相を知ることになる。

羽田・D滑走路
 2010年、羽田空港の「D滑走路」が共用を開始した。D滑走路は、神奈川県寄りの多摩川河口付近の海上に建設された羽田で4本目の滑走路。従来からあった埋め立て方式と、世界初といわれる「ジャケット工法」による桟橋を組み合わせて整備されている。

 ジャケット工法とは、海洋エネルギー施設―例えば、埋蔵する石油や天然ガスといった資源を採取、生産したりするための海上プラットフォーム建設や港の桟橋に使われてきた工事手法で、羽田のD滑走路は、これを転用したことで注目された。滑走路の長さは2,500m、総事業費約7,000億円をかけ2007年3月に着工、2010年10月に完成し、供用を開始している。

見返り
 じつは、宮内代議士と川崎市の建設業者を結びつけたのが、このD滑走路なのである。渡辺元代議士の周辺や建設業界関係者を訪ね歩き、宮内氏サイドへの闇報酬の実態を知る人物であるA氏にたどり着いたのが今年5月。何度も交渉を重ねるうち、A氏がようやく重い口を開く。
 以下は、宮内代議士が川崎の建設業者から報酬をもらうに至った詳しい経緯を知る、A氏と記者のやりとりである。

 記者:宮内氏と川崎市の業者をつなげたのは誰ですか?
 A氏 :渡辺先生(具能・元代議士)ですよ。平成21年の衆議院の解散直後くらいでしたかね。

 記者:どういう経緯だったんでしょうか?
 A氏:D滑走路の工事に、新日鉄エンジニアリングという会社が入っていた。JVで。で、平成20年頃だったと記憶しているが、それまで新日鉄の下請けになることが多かった川崎のS社が、なぜかこの工事だけは仕事をもらえないという状況だった。そこで、S社が、旧知の渡辺先生に泣きついた。

 記者:渡辺さんはどうしたんですか?
 A氏:新日鉄の役員を呼んで、S社を下請で使ってやったらいいじゃないかと話した。それでS社はD滑走路の仕事をもらうことができた。

 記者:口利きですね。
 A氏:口利きといった類のものじゃない。A社が困っているんじゃないか、と言っただけ。新日鉄側が配慮したんじゃないか。

 記者:どんな工事だったのでしょうか?
 A氏:なんでも滑走路では、世界で初めて使う工法の、ある一部の工事をS社が受け持ったと聞いている。詳しい内容は専門ではないので分からない。とにかく、仕事はもらっている。S社はずいぶん潤ったはずだ。

 記者:その工事が宮内さんへの報酬につながったということですか?
 A氏:そう話を急がないでもらいたい。渡辺さんは、この時、S社に貸しをつくった。そして、平成21年に衆議院が解散になって、渡辺さんがS社に宮内の給料を出してやってくれと頼むことになった。解散すれば渡辺さんは一候補者。民主党が追い風の中だったから、万が一のことを考えたんだろう。宮内も公設秘書じゃなくなっていたから。

 記者:D滑走路の仕事の見返りということですね?
 A氏:そういうことになるのかな。宮内もS社のことはよく知っていたし・・・・。ただ、渡辺先生は、ご自身が落選した時のことを考えて、宮内の生活を心配していただけ。『その時(落選した時)は頼む』、という感じだったんだから。

 記者:しかし、実態は少し違うでしょう。平成21年の衆院選の時期から昨年後半まで報酬が存在しているし、宮内さんは社会保険まで加入している。しかも、宮内さんは衆院選後も渡辺さんの秘書だったでしょう。
 A氏:たしかにそうだが、渡辺先生はS社がどのように宮内の面倒をみているのか知らなかった。HUNTERの取材が始まってから、どうなっているか知ったんじゃないか。私もそうだ。

 A氏とのやり取りは、まだまだ続くが、宮内代議士に対する川崎市・S社の報酬がD滑走路の仕事に絡む「見返り」だったことは明らか。そうなると、渡辺氏側への形を変えた企業献金だった可能性も生じる。もちろん、宮内代議士が衆院選候補者となり、福岡4区での活動を行なっていた時期にもらった報酬にも疑念が残る。裏づけ取材は、さらに続いた。

つづく



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