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2020年東京五輪で蘇る「プロフェッサー・フクダ」の悪夢

2013年9月26日 08:00

 今年の流行語大賞はNHK朝ドラ『あまちゃん』の「じぇじぇじぇ」で決まりのようだが、IOC総会という難しい局面をしのいだ安倍首相の「状況はコントロールされている」はブラックジョークとして秀逸だった。これならフクシマ汚染水の東京だけでなく、治安問題のイスタンブール、経済不安のマドリッドだって使えただろう。東京招致の決めゼリフともなったこれを耳にしたとき、首相が5月の中東訪問で連発した「日本の原子力技術は世界一」に続き、世界中が我が耳を疑い、日本人は顔から火が出たに違いない。IOCの総会は最後のセレモニー。首相には深く追及される心配もなかったと思われる。

 結果としては日本のトップが汚染水問題の解決を世界に明言し、さらに記者会見における「原発を減らす」発言により、世界が注視する日本の原子力政策は国際公約になった。ただ後者は首相の決断次第で達成可能だが、汚染水問題は東電や政府が何を言い、何をしようとも本質的、根本的解決策はない。いうまでもなく「水は低きに流れる」自然の摂理には逆らえないからだ。

 太平洋岸にある福島原発には、事故で汚染された双葉郡をはじめとする周辺市町村から膨大な地下水が流れ込む。それらの源は福島県を東西に分かつ阿武隈山脈だ。阿武隈山脈の鬱蒼たる森にも土にも放射性物質が降り注ぎ、時間とともに量は減ったとはいえ、今も事故炉から大気中に放射能が放出されている。すなわち、もともと汚染された地下水が原発に向かって滔々と流れ込み、そこで放射性物質が大量に上積みされて海に向かう構図である。

 直近の政府見解によれば、その量は第一原発敷地内だけで1日1,000トン。そのうち400トンが1号機から4号機へ流れ込み、300トンは海へ、残る300トンは行方不明だという。事故炉へ流れて汚染される400トンの半分は事故炉へ循環させ、残りは汚染水タンクに貯蔵して海洋汚染を防いでいるというのが東電の説明だった。それが海側に設けた遮水壁を超えてしまったとか、貯水プール、貯蔵タンクに欠陥があって漏れてしまったなど、東電はさまざまな言い訳をしているが、すべてがその場しのぎの対処療法。政府が「前面に立つ」と力んだところで同じ対処療法にしかならず、いずれ破綻するのは目に見えている。

 唯一の対策は戦国時代の水攻めに倣い、原発からはるか遠く離れた双葉郡内に堰止めを設け、籠城する相手の井戸水すなわち第一原発への地下水を枯らすしかない。ところがフクシマの真実はそれも許さない。地震で地盤は液状化して施設全体が沈下しつつある。その上、原子炉建屋やタービン建屋の地下には、すでに抱え込む膨大な汚染水と流入する地下水。微妙な水圧バランスが崩れると、建屋倒壊の危険性もある。

 詰まるところ打つ手は時間稼ぎしかない。排出される汚染水すべてをタンクから10万トン、20万トン級のタンカーに移し替え、人の目の届くところで放射能の減衰を待つしかない。汚染水を積んだタンカーは日本列島を周回しながら各原発サイトに立ち寄り、東電同様に空地に増設した数十基、数百基のタンクへの移し替えを延々と続ける。すなわち時間稼ぎしか「状況をコントロール」することはできない。

 そんな負の連鎖を断ち切るには、原発の新増設や再稼働は論外、原発すべてを廃炉にするしかないが、そこで最大の焦点はオリンピックに臨む安倍首相のスタンスだ。早くも「アベノミクス第4の矢」と言い出したように五輪招致を奇貨として、経済成長、内需拡大を掲げて原発再稼働を進め、廃炉先送りを策す恐れがある。

 だがそれは、1972年ロンドン・サミットにおける故・福田赳夫首相の轍を踏むことになる。同サミット最大のテーマは第一次オイルショック後の世界不況をどうするかで、各国首脳中の最年長者だった福田首相は不況と戦争の因果関係と歴史を説き、首脳たちから「プロフェッサー」の称号を奉られた。ところが相手は故・サッチャー英首相ら手練手管の欧米首脳たちだ。日本は体よく世界経済の牽引車役を担わされ、成長率6.7%という出来もしない約束をしてしまう。

 帰国した「世界のフクダ」が発した大号令が電源開発、すなわち原発大増設だった。それが原発列島日本の原点である。今の日米欧3極の構図は当時とそっくり。ロシアが体力不足なら傍若無人な金満中国に国際的信用はなく、日米欧のどこか1極がカラ元気であっても先頭に立たざるを得ない。それが東京五輪決定の真実である。安倍首相が大先輩の失敗から何を学び、どう対応するのか目が離せない。

<恩田勝亘>

恩田勝亘:プロフィール】
昭和18年生まれ。『週刊現代』記者を経て平成19年からフリー。政治・経済から社会問題まで幅広い分野で活躍する一方、脱原発の立場からチェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなど原発にからむ数多くの問題点を報じてきた。

著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)、『福島原発・現場監督の遺言』(講談社)など。

新刊「福島原子力帝国―原子力マフィアは二度嗤う」(七つ森書館)は、全国の書店で販売中。



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