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福岡市・中央保育園移転計画の実態
― 情報公開請求放置の背景 ―

2013年9月 6日 09:40

 HUNTERの記者による2件の情報公開請求を受けた福岡市が、福岡市情報公開条例に定められた公開・非公開の決定や、請求者への通知を放置していた。
 記者が請求したのは、高島宗一郎市長が移転強行を決めた市内中央区の認可保育所「中央保育園」(運営:社会福祉法人福岡市保育協会)に関する文書。1件は同園の移転予定地について、不動産鑑定評価を依頼した際の決済文書にある「鑑定見込み額900,000,000円~1,000,000,000円」の算出根拠。もう1件は、平成25年7月17日付「中央保育園の移転について」と題された、子ども未来局作成の文書にあった「幅広く色々なご意見を伺い」という文言についての詳細が分かる文書である。
 疑惑に包まれた土地売買の実態と、風俗街への保育園移転を決めた高島市長の言い分を検証する狙いだ。
 請求に対して市が出した答えは、いずれに対しても「非公開」。該当する文書がないという。これが何を意味するか―。(写真は福岡市役所)

「価格ありき」の証明
 事業を所管するこども未来局は、中央保育園の移転予定地を購入するにあたって、市の不動産鑑定評価委員会に価格評定を依頼した。この際の資料となったのが、民間の不動産鑑定所に委託して作成させた「不動産鑑定評価書」だ。
 鑑定依頼の決済文書には、『鑑定見込み額』として、「900,000,000円~1,000,000,000円」と記されており、この鑑定額に沿って鑑定料「768,000円~791,000円」をはじき出していた。下はその決済文書の一部である。

決済文書の一部

 福岡市に対し、HUNTERの記者が情報公開請求を行ったのは、この決済文書にある鑑定見込み額「900,000,000円~1,000,000,000円」の算出根拠だ。
 行政機関が使う数字には、後々の説明のため、裏付けとなる基礎資料が必要となる。巨額な公費支出をともなう今回のケースでは、土地取得費の算定がどのような流れで行われたのか、詳しい記録が残って当然なのだ。
 正式な評価が出る前の段階で、どうして市は「900,000,000円~1,000,000,000円」という見込み額を出し得たのか―説明するための資料こそが、情報公開請求の対象文書だったのである。

 しかし、結果は「非公開」。該当する文書がないという。
 それでは、見込み額の算出はどのようにして行われたのか―3日、市こども未来局の吉村展子局長に聞いたところ、同席した課長が「路線価格を基に算出した」と明言。翌日の再確認でも同様の回答を繰り返している。
 鑑定委託の決済文書の起案、決済日はいずれも平成24年5月11日。この年の路線価を調べてみた。

路線価

 赤い星印(☆)が移転予定地だ。周辺の路線価はどこも1㎡あたり40万円台で、50万円台はない。仮に50万円/㎡としても、移転予定地の面積が1,470㎡であることから、総額は50万円×1,470㎡=7億3,500万円程度。どうやっても「900,000,000円~1,000,000,000円」という数字を導き出すことはできない。算出根拠は路線価ではない。

 ここで、「7億3,500万円」という当時の路線価に近い数字があることに気付く。
 問題の土地は、平成23年7月の「市政運営会議」で事実上購入が決定している。その1か月後に、北九州の会社から福岡市の不動産会社「福住」に売却されるのだが、この時の売買価格が約7億7,000万円。この価格は、平成22年から24年にかけての路線価とほぼ一致している。

 これに対し、市は一貫して「高値」で予算組みを行っていたことが分かっている。
「総括シート」添付資料 平成23年の市政運営会議の折、所管局であるこども未来局が基礎資料として作成した「総括シート」の添付資料には、問題の土地の取得費の見込み額を、『812百万円(552千円/㎡)』と記している(右参照)。しかし、当時の周辺路線価は、1㎡あたり50万前後。総括シートに記された『552千円/㎡』という金額ほど高いとはいえず、同様の数字もない。

 不動産鑑定評価を委託した際の決済文書にある「900,000,000円~1,000,000,000円」にしても、前述の通り無理をして高い金額を設定している。いずれも高値誘導。一連の流れは、路線価を越える価格設定が存在したことを示唆しているとしか思えない。分かりやすく言えば、「はじめに金額ありき」ということなのだ。

 北九州の会社が福住に土地を売った時の価格が約7億7,000万円。そして福住は福岡市に8億9,900万円でこの土地を引き取らせる。同社の転売益は約1億3,000万円。市民が疑惑を抱くのは当然で、中央保育園の保護者らが住民監査請求を提出している。

「幅広く色々なご意見」―じつは一部の関係者のもの
 市が非公開決定を下したもう1件の情報公開請求で、HUNTERの記者が求めていたのは、平成25年7月17日付「中央保育園の移転について」(子ども未来局作成)で、幅広く色々なご意見を伺い」とある中の「ご意見」が誰からのもので、どのような内容だったかを示す記録だ。
 下はその「中央保育園の移転について」の問題の部分だが、この一文は、今年7月、高島市長が移転強行を発表した際の発言内容と一致している。

「中央保育園の移転について」より

 こども未来局に確認したところ、この一文は市長の動きをまとめたもの。つまり《幅広く色々なご意見を伺》ったのは市長で、その内容を記録した文書はないとの回答。誰から意見聴取したのか追及すると、中央保育園の運営母体や保護者、現地視察の際に話を聞いた相手がそれに該当するのだという。

 つまり市長は、移転強行を決めるにあたって、有識者や議会関係者の話を聞いたわけではなく、アリバイだけを残して話を打ち切ったということなのだ。
 《幅広く色々なご意見を伺》ったなどと表現すれば、あたかも慎重に事を進めたかのように映る。しかし実態はこの程度。じつは第三者の意見など聞いていなかったというのが実情である。
 中央保育園の移転を急ぐあまり、透明性や幅広い合意といった「市長公約」が反故にされた形となった。

 2件の情報公開請求をめぐっては、市が請求を放置し、福岡市情報公開条例に違反する事態となっている。実施機関は市長。そのため市長名での回答を求めているが、おそらく高島市長は逃げる。予告しておきたい。



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