29日、日本維新の会が進める「大阪都構想」の行方を占う堺市長選の投・開票が行われた。結果は、同構想に真っ向から反対してきた現職・竹山修身氏(63)の大差による勝利。自民、民主、共産といった各政党からの支援が功を奏した形だ。
一方、大阪府と大阪・堺の両政令市を再編することを軸にした都構想を、「1丁目1番地」と位置付けてきた日本維新の会。看板政策が否定されたことで、橋下徹共同代表(大阪市長)の求心力低下が避けられない事態となった。
橋下氏による一連の従軍慰安婦発言、説明不足の都構想―敗北の原因は様々だろうが、一番お粗末だったのは総力戦で臨んだといわれる維新陣営の舞台裏だったようだ。敗戦が決った直後、複数の維新関係者が稚拙な選挙戦の全容を語った。
「じぇ、じぇ、じぇ」 国会議員が戸別訪問
維新陣営の一員として選挙戦に参加したスタッフはこう話す。「国会議員に計3回の堺入りを義務付けたんですが、これが行き当たりばったり。なんと、大阪維新の関係者を付けて、戸別訪問に行かせたんです。『じぇ、じぇ、じぇ』ですね。名簿にある地域の有権者宅を回って来いというんですが、反応見て○×までつけろというわけです。これって国会議員のやることですか?しかも、もろ選挙違反でしょ。堺に入った議員さん達は、お付き合いだから仕様がないという感じでしたが、内心ヒヤヒヤもんだったでしょうね。選挙中、国会議員に戸別訪問やらせる陣営なんて初めてでした」。
公職選挙法が選挙期間中の個別訪問を禁じているのは言うまでもない。この話が事実なら、組織的に選挙違反を犯したしたことになる。
公選法無視?
別のスタッフの証言。「まったく、陣営の行き当たりばったりには驚きました。大阪維新の会のビラが大量にあったんですが、これをポスティングしろということになったんです。ところが、ビラには住所も電話番号も記載されていませんでした。確認団体用(*)のビラだから大丈夫だと説明されましたが、誰かが選管に確認しろと騒いでましたね。とにかく危なっかしい。終盤になってからか、応援に来た国会の先生たちを何班かにわけて、街頭に送り出すんですよ。メガホン待たせて。それで街頭活動やれってんですから。これって違反でしょう?同じ陣営で、何組もが選挙運動できるはずないですもんね。でも大阪維新の地方議員さんたちは『平気だ』ってんですから・・・。公選法も何もあったもんじゃない。もう二度とゴメン」。
【注:『確認団体』とは、選挙期間中に当該選挙区において所定の条件を満たした上で一定の政治活動が許される政党または政治団体。知事選や市長選のほか参院選(所属候補10名以上が要件)や地方自治体の議員選挙(所属候補3名以上が要件)に適用される。堺市長選での維新陣営の確認団体は、日本維新の会ではなく『大阪維新の会』だった。】
見えない候補者
応援部隊のひとりとして、維新候補者の事務所に何日も詰めたという男性は、呆れ顔で次のように話す。「私ですね、ずいぶんな日数選挙事務所にいたんですが、一回も候補者に会っていないんですよ。別のスタッフも同じ。大阪以外から来た連中で、候補者の生の姿を見た人は数えるほどしかないはずですよ。普通、候補者は朝か夜には事務所に寄って、スタッフの労をねぎらうものでしょう。それがないんですから。一体感が生まれるわけがない。大阪維新がコントロールしていたのかもしれませんが、この候補、何を考えていたのか・・・・。まぁ、負けるべくして負けたということでしょうね」。
「都構想」浸透せず
別の同党関係者は明らかな戦力ミスだと指摘する。「都構想について、分かりやすく説明できる政治家が少なかったのは事実。維新の会内部で、都構想への思いが共有されていない。相手陣営は『堺はひとつ』のワンフレーズで勝負。こちらも同様の『ワン大阪』なのだが、なぜ堺が大阪にならなきゃいけないのかがうまく説明できなかった。そもそも、都構想については、全体像はもちろん、堺がどう変わるのかという具体論がない。市民にしてみれば、別に堺市が東京みたいにならなくていいわけだし、橋下さんが言うような“世界との競争”の必要性も感じていない。都構想がつぶれて困るのは橋下維新で、市民にとってはさして重要なことではなかったんだ。そのあたりの市民の思いを、維新の会自体が汲み取れていない。勢いだけでやってきた報いだ。太閤秀吉じゃないけど、都構想は『夢のまた夢』だな」。
詭弁、強弁の連続
都構想への反発が予想以上であることに気付いた大阪維新は、選挙戦終盤になって、姑息な戦法を取りはじめる。「都構想は住民投票で決る」という、これまでになかった主張を前面に出したのである。25日の街頭演説で橋下共同代表が言及したが、陣営もこの“詭弁”に便乗した。
ある選挙スタッフの打ち明け話。「26日になってから、候補者のポスターにシールを貼れという指示が出ました。《都構想は住民投票で決る》みたいな文言でした。言い訳にしか思えませんでした。争点をぼかそうという苦肉の策だったんでしょうが、選挙前は堺市長選が都構想の成否を握っていると言っておきながらですよ、敗色濃厚となって住民投票と言われてもピンと来ないですよ。何のための総力戦だったのか・・・。ばかばかしくて、『やってられるか』、となった人も多かったですね。喫茶店で時間つぶしてたスタッフもいましたしね」。
思えば、橋下共同代表のこれまでは詭弁、強弁の連続だった。従軍慰安婦発言をめぐっては、その罪をマスコミに押し付け、原発再稼働反対は、わけの分からない理由で、いつの間にかうやむやにされた。甚大な被害をもたらした台風18号が上陸した時は、大和川に氾濫の恐れがあるとして、住民30万人に避難を勧告しておきながら、自身は自宅でツイッター三昧。堺市長選の対立候補だった竹山陣営の批判を行っていたという。台風被害の現場視察に出向いた竹山氏に対し、橋下氏はツイッター。橋下氏に批判が集まったのは言うまでもないが、その後の反論も見苦しかった。「素人の市長が危機が去った後の堤防の状況を見ても、何の対策をしなければならないのか分かるわけがない」。これでは選挙に勝てるはずがない。都構想を「夢のまた夢」にしたのは、提唱者である橋下氏自身なのかもしれない。
分裂の可能性
もともと維新内部では、堺市長選の候補として、読売テレビアナウンサーの清水健氏や衆院議員の馬場伸幸氏の名前があがっていた。しかし、橋下氏の従軍慰安婦発言で支持率が急落する中、いずれも辞退。ようやく「大阪維新の会」で副幹事長を務めていた西林克敏市議を擁立したが、大阪市と堺市を大阪府とくっつけて再編しようとする都構想への有権者の理解は得られず、敗れる結果となった。
党内では、慰安婦発言以来、橋下氏を中心とする「大阪維新」に対する厳しい見方が拡がっており、旧太陽の党グループとの対立が進めば分裂の可能性もある。
自民、民主もご都合主義
維新惨敗を受けて、各政党はいっせいに都構想や維新に対する冷やかなコメントを出した。しかし、橋下維新が日の出の勢いだった頃、自民も民主も都構想実現に向けての法案整備に協力的だったはずだ。この点について、両党がどう説明するのか聞いてみたいが、ご都合主義が橋下維新だけではないことは確かだ。