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鹿児島県・中高一貫校に疑問の声
中国重視の教育方針 ― 重なる「上海研修」の悪夢

2013年9月25日 09:20

楠隼中学・高校 鹿児島県が平成27年4月の開校を目指す、中高一貫校「楠隼(なんしゅん)中学・高校」に対する批判が強まっている。
 同校は、「全国初の公立全寮制男子校」を謳い文句に、鹿児島県が肝属郡肝付町(現・県立高山高校)に設置する新設校だ。ロケットセンターがある立地を活かしたJAXAとの連携や、産・学と結んだエリートの育成を売りにしているが、県教育界にその前途を危ぶむ声は少なくない。先行き不透明な男子だけの一貫校に、投入される公費は約50億円。しかし、事業として成り立つかどうかの見通しもたっておらず、今月末にも始まる伊藤祐一郎知事に対するリコール(解職請求)運動で、失政のひとつに上げられる予定だ。
 楠隼中学・高校の今後を、教育現場の教員達はどう見ているのか?複数の方々に話を聞いた。

ムダな学校
【教員A】 本来、県立学校は県民の児童・生徒のためにあるべきものであり、県費を他県から呼んだ子らに支出するのはおかしくないでしょうか。
 鹿児島では、他に作ってほしい学校が幾らでもあります。佐賀県と鹿児島県には、原発はあっても、県立大学(公立大学)はありません。熊本にも、宮崎にも、長崎にもあるのですが。若者人口を増やそうというのであれば、県外への流出を食い止めるためにも、あるいは他県から若者を呼び込むためにも、県立大学こそあってしかるべきだと思います。徳之島や鹿児島市では、特別支援学校や施設の設置要望が出されています。県に建ててほしい学校は他にあるのです。
 「楠隼」は廃校となる高山高校の後継となる学校ではありません。男女共同参画を叫ぶ県が、あえて男子校をつくる意味も分かりません。はなから女子生徒はシャットアウトです。同じく廃校の決まった有明高校のこともありますが、地元の一般県民の子らが、自宅から通える学校ではないのです。家の近所にあるのに、寮生活などありえません。これはムダな学校なのです。

採算無視
【教員B】 全国から生徒が果たして何人来るものか。自分の子を中高の6年間、他県の実績のない未知数の学校に送り出すだろうか。県の教職員の多くは皆「成功しない」と見ているし、勤務先としては避けたいと思っている。そもそも県は試算も事前調査も行なっていない(このことは県教育庁高校教育課に確認済み)。しかしながら、9月県議会には学校補修費およそ7億円が計上され、さらに、寮の整備に42億円かかるという。合わせて49億円もかかる学校を作ろうとしているのだ。まさに狂気。誰がこの学校を求めているのか?一部の利権がらみの人たちの話が漏れ聞こえてくるのはなぜか?

いびつな教育方針
【教員C】 9月6日、県教委が学校のグラウンドデザインを示した。そこに描かれているのは、まさに漫画チックな、いびつな鹿児島県ならではの学校の姿である。キーワードは「宇宙」と「中国だ」。

 内之浦の宇宙センターに近いことを理由に、「宇宙学」なる講座を開設しようとしているが、それなら、理数科のある錦江湾高校(鹿児島市)、国分高校(霧島市)に開設すれば済む話だ。
 英語ディベートなども掲げている。それでは、なぜ、数年前に、同じ大隅の地にあった志布志高校英語科を県は潰したのか。志布志高校は、県内唯一の英語科を有し、3年間、文科省のSuper English Language High School(いわゆるSEL-High)の認可校として、英語ディベートのできる生徒の育成を目ざし、全国大会にも出場するほどの活躍を見せていた。
 同校は県本土東端にあるため、鹿屋市以東の生徒しか通えず、長い間、寮の整備を県に要望し続けていた。それが叶っていたら、今も志布志高校英語科は存続していることだろう。
 時を同じくして、選択科目として中国語、韓国語を学習し、現地の学校とも交流のあった鹿児島東高校の国際教養科も募集停止となっている。なぜか?

 「楠隼」の売りの一つは、中国に一番近い日本の学校ということなのだろう。中学2、3年次に中国語会話を導入。英語検定、漢字検定、数学検定と並んで、中国語検定の取得も目指すという。中学3年の2学期には、「チャイニーズキャンプ」が企画されている。これだけではない。「海外大学企業連携研修」なるものが中学3年の3学期と高校2年の1学期に組まれている。ここでの「海外」が「中国」であることは誰の目にも明らかだ。つい先日、知事は北京に渡り、清華大学との学術交流の提携協定を結んでいる。おそらくはこの研修は北京、上海への旅行なのだろう。ここで、またあの上海航空路線維持とつながることになる。

時代錯誤
楠隼中学・高校 話を聞いた3人の教員は、いずれも楠隼の設置手法や教育方針に否定的だ。鹿児島には進学校として有名な男子中高一貫校「ラ・サール」があるが、こちらは私立。独自の教育方針でエリートを育ててきたが、同じことを公立でやろうとする鹿児島県に、懐疑的な意見が多いのは確かだ。男女共同参画、教育の機会均等といった観点からも疑問としか言いようがない。「楠隼は時代錯誤」(教員OB)との批判は、決して的外れではない。

中国重視は知事の方針?
 教育内容にも首を傾げたくなる。「宇宙」はさておき、「中国重視」の姿勢が露骨過ぎるのだ。楠隼のパンフレット()には、「チャイニーズキャンプ」、 「中国語検定」、「中2、3で中国語会話の導入」といった文言が並んでいる。なぜこうまで中国にこだわるのかといえば、伊藤知事の中国重視があるからにほかならない。
 知事リコールの原因のひとつは、公費を使った職員の上海研修だ。鹿児島―上海間の航空路線を維持するため、税金を使って搭乗率を上げるという非常識な施策は、伊藤知事の中国好きが高じた結果である。
 こんどは教育現場で中国通を育てようということらしいが、悪化した対中関係が好転する見通しが立たない今、鹿児島だけに中国のプラス面が入ってくることはあり得ない。中・高生の段階で中国重視の教育方針を押し付けることに、反対する意見があるのは当然だろう。

杜撰な計画
 最大の問題は、この学校の先行きが見えないことだ。
 教員B氏が話しているように、県は楠隼の事業試算を公表していない。校舎は現在の県立高山高校を再利用するため新築ではないが、それでも7億円の改修費を計上。生徒集めの切り札は、どうやら「寮」の豪華さらしく、個室にエアコン完備、総工費は42 億円だ。これから先、関係職員の人件費、生徒の募集、校内設備や備品などにさらに膨大な費用がかかることが見込まれており、どこまで予算が膨らむのかさえ分かっていない。しかし、民間なら当然あるべき事業の試算が、この学校に関しては存在していないのだという。鹿児島県らしいと言えばそれまでだが、失政のツケを押し付けられるのは県民なのだ。
 薩摩川内市の産廃処分場建設費は、78億円から100億円に増え、鹿児島市の松陽台では無用な県営住宅330棟の整備が計画されている。いずれも県民無視で進められてきた伊藤知事案件だが、事業として成り立つかどうかの「試算」はなく、破綻必死の状況となっている。
 楠隼の運営に失敗したら、そのツケを払うのは県民。教育現場で「上海研修」の二の舞を演じさせてはなるまい。



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