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徳洲会 ― 鹿児島知事選でも総力戦
伊藤知事支援で問われる選挙違反の有無

2013年9月24日 07:55

徳洲新聞 徳田毅衆院議員(自民・鹿児島2区)の選挙をめぐる公職選挙法違反事件で強制捜査の対象となっている医療法人「徳洲会」。グループ内の職員を大量に動員して選挙運動に従事させ、報酬を支払っていたとされるが、同様の選挙手法は徳洲会理事長である徳田虎雄氏が衆院議員だった時代から続いていた。
 一方、傲慢な県政運営のせいでリコール(解職請求)を起されることが確実となった伊藤祐一郎知事。初当選時に弁護士から1億8,150万円を借入れたり、2期目の選挙で県から補助を受けている財団のトップから寄附を受けるなど、不透明感が否めない。
 ともに県政界に大きな影響力を持つ存在だが、両者は切っても切れない関係にある。徳洲会による伊藤氏への「選挙支援」―その証拠が、徳洲会が発行している新聞に残されていた。

「徳洲新聞」で伊藤知事支援を明記
 徳洲会が伊藤知事の選挙支援について明記していたのは、同グループ内向けに作成されている「徳洲新聞」の2004年(平成16年)7月26日号。 「皆の応援が当選に結びついた 参議院議員選挙と鹿児島県知事選の結果」と題された記事で、知事選の総括を行っていた。
(徳洲会HP⇒http://www.tokushukai.jp/media/shinbun426.html

 記事冒頭にはこうある。《今回の参院選と鹿児島県知事選で、徳洲会グループは徳洲会の理念と哲学に賛同し、医療と福祉に協力してくれる候補者を、党派を超えて応援した》。 
 記事には、この年行われた参院選で、自民党亀井(亀井静香)派の候補者を中心に、民主党の候補者なども応援したことを明記、当選議員の氏名を列記していた。

 知事選についてのくだりはこのあと。『鹿児島県知事選では伊藤祐一郎氏が圧勝』の小見出しで、次のように記している。
 《鹿児島県知事選では、 徳洲会グループと自由連合が推す新人で元総務省総括審議官、伊藤祐一郎氏(無所属)が他の3候補を破って初当選。選挙中は徳田秀子、徳田毅の両徳洲会理事をはじめ、自由連合鹿児島、奄美の両本部が総力を挙げて応援に走り回った
 知事選は23年ぶりに投票率が60%台に乗る激戦。今回、伊藤氏を応援したことに関し、「鹿児島県民にとって一番いい人物、歴史の分岐点にふさわしいと思った」と徳田理事長は言う。
 伊藤氏は、「救急ヘリの導入」も公約に掲げているが、救急ヘリは徳田理事長が20年来の構想を持つもの。当選後の記者会見で伊藤氏は、「1年以内に救急ヘリを開設する」と改めて公約の実現に向けての発言を行った。同時に、給与の2割カット、交際費の公開などを発表、「鹿児島を全国に売り込む・セールスマン・に徹する」と話している》。

 伊藤知事は昨年の知事選で3回目の当選を果たしたが、徳洲新聞の記述にあるのは、初当選した平成16年の選挙のこと。無所属で立候補した伊藤氏は、自民党有力県議らとの争いになった保守分裂選挙を勝ち抜き、初当選を決めた。
 当時、毅氏の父で徳洲会理事長の虎雄氏は現職の衆院議員。すでに筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発病していたが、自身が立ち上げた政党「自由連合」の代表で、知事選では同党が伊藤氏を推薦していた。
 「自由連合」は、政党とはいえ虎雄氏の個人商店。各種選挙で擁立する候補者から財務までのすべてを虎雄氏の意向で決めていたが、実態は徳洲会の政治団体だった。
 徳洲新聞の記述によって、徳洲会グループが、伊藤氏を《徳洲会の理念と哲学に賛同し、医療と福祉に協力してくれる候補者》として支援していたことは明らかだ。伊藤知事の《応援に走り回った》という徳田秀子氏は虎雄氏の夫人、徳田毅氏が渦中の自民党議員である。

ドクターヘリ、鹿児島市立病院、徳洲会・・・
鹿児島市立病院職員組合機関紙 興味深いのは記事にある「救急ヘリ」、つまりドクターヘリについての記述だ。
 今年7月、鹿児島市立病院の院長人事に伊藤知事が関与していた疑いが浮上した。右は、取材の過程で入手した同病院職員組合の機関紙だが、歪められた人事の裏に、ドクターヘリがらみの背景があったことを、事実上更迭された前院長が書き残していた。
・ドクターヘリの基地をめぐり、県と市立病院側に争いがあったこと。
・市内谷山に別の新病院建設計画があること。

 平成23年12月に鹿児島県が運航を開始したドクターヘリの基地の場所をめぐっては、運行主体である鹿児島市立病院と県が対立。結果的に市立病院側の主張が通ったが、知事はこれに不満を抱いていたという。
 また、市内谷山の新病院の事業主体こそ「徳洲会」だとされ、建設が実現すれば市立病院との間でドクターヘリの奪い合いになるとの指摘が出ていた。
 平成16年からつづく徳洲会と伊藤知事の関係、そしてドクターヘリ、線はつながっていると見るべきだろうが・・・・。

医師会の反応は?
 徳洲会と日本医師会との関係は、決して良好とは言えない。年中無休、謝礼お断りといった独自の経営方針を掲げ全国の自治体で進出を図ってきた徳洲会に対し、それぞれの地元医師会が猛反発。各地で激しい争いを展開してきた歴史があるからだ。

 鹿児島県でも事情は同じ。選挙を前にした「徳洲新聞」2004年(平成16年)7月5日号では、虎雄氏の言葉として、医師会と対立した他県のケースに続いて、政界進出のきっかけとなった鹿児島での出来事に触れている。
《私は以前から奄美に病院をつくるために、鹿児島に病院を建てる構想を抱いていました。しかし鹿児島では、知事の後援会長は県医師会長で、医師会は県の各種選挙や国会議員選挙で最大の集票マシーンとして政治力を誇示していました。私は、政治力学を変えないと病院新設は困難と考え、衆議院選挙に立候補することを決意しました》。

 しかし、この新聞が配布された直後の知事選で、徳洲会が支援した伊藤氏が当選。医師会一辺倒だった歴代県政に対し、同会が風穴を空けた選挙だったと言えよう。
 県議会関係者が当時を振り返る。「この時(平成16年の知事選)の徳洲会の動きは凄まじかった。まさに総力戦。グループを挙げて伊藤さんの選挙を支援していた」。
 鹿児島県医師会の面々は、この伊藤知事と徳洲会の関係をどう見るだろう。

最福寺人脈
 最福寺の“篤信者ご芳名” 伊藤知事と徳洲会の接点は意外なところでも見つかっている。
 今年、朝鮮総連中央本部(東京都千代田区)の競売をめぐり、全国の注目を集めた宗教法人が鹿児島市内にある。池口恵観氏が代表を務める宗教法人「最福寺」だ。最福寺は、いったん5億円を納付し、朝鮮総連の土地、建物を45億1,900万円で落札したが、残金の手当てがつかず、購入を断念していた。

 その最福寺を訪ねてみると、石塔の下に寄附者のものと思われる「篤信者ご芳名」が刻まれており、その先頭には「徳田虎雄」、次に「徳田秀子」の名が・・・(右の写真)。
 伊藤知事と池口恵観氏との関係は、県庁内部でも知られている。ある県庁職員の話。「知事はよく最福寺に行っていましたね。県庁内では有名な話ですよ。最福寺は、野球選手や歌手など、有名人が通うことで知られています。知事もその一人。最福寺の池口さんが、鹿児島県のフィクサーだという人間もいるくらいですから。徳洲会と伊藤知事をつないだのは、池口さんじゃないんですかね」。

徳洲会、知事選での動きは?
 それにしても徳洲会の選挙戦術は凄まじい。ある種、宗教と言っても過言ではあるまい。平成16年7月26日号の徳洲新聞の中で、虎雄氏は次のように語っている。

《今回の選挙では、徳洲会の理念と哲学を理解し、弱者の立場に立って行動する人を応援しました。私は職員の皆さんが心を合わせ、一生懸命選挙運動に取り組み、努力してくれたことに感謝しています。人にお願いするには、勇気を出して頭を下げて頼まなければなりません。その結果、皆さんは多くのことを学んだのではないでしょうか。たとえば、人とのつながりが思っていた以上にいいものだとか、仕事以外の自分の能力に気が付いた人もいるでしょう》。

《今回の選挙で 「応援を頑張った」と言う人がいましたが、その頑張りは本物でしょうか。「まだやり足りない」と言えた人こそが本物だと思います。我がことと思えば、あれもこれもやれたのにと思うのではないでしょうか。皆さんが自分の実力だと思っている10倍、ひょっとすると100倍の実力があるかもしれません》。

 洗脳と言っても過言ではないこの調子で、選挙運動に力を入れるよう仕向けられていた職員たちが、計3回の知事選で伊藤氏を支援していた可能性がある。徳田毅議員のケースと同じような選挙違反はなかったのか―、検証が求められることは言うまでもない。



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