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福岡・保育園移転-不必要な「定員増」明らかに
― 福岡・中央保育園移転疑惑の真相(2) ―

2013年8月 1日 09:25

鹿児島 601-1.jpg 市民の反対をよそに、市内中央区にある認可保育所「中央保育園」(運営:社会福祉法人福岡市保育協会)の移転強行を決めた高島宗一郎福岡市長。風営法は無視するわ、在園児保護者らの反対意見は黙殺するわとやりたい放題。置き去りにされたのは子どもたちである。
 市が掲げたのは「待機児童解消」という大義名分。しかし、中央保育園の移転問題に関しては、この理屈が通らないことが明らかとなってきた。

天神・舞鶴地域―待機児童は「49人」
 福岡市が開示した資料から、新たに待機児童数についての実情を示す記述が見つかった。
 今月4日、中央保育園側が求めた施設整備補助金の審議に供された市作成文書の記載をもとに、高島市長が主張する「待機児童解消」が、まやかしに過ぎないとする記事を配信した(⇒「福岡・高島市政 『待機児童解消』のまやかし」)。それに続く「証拠」の判明である。
 結論から先に述べておくが、中央保育園の定員を150名増やすことは、待機児童解消が実現したと見せかけるための“数合わせ”に過ぎない。

鹿児島 601.jpg 右は、中央保育園の運営母体「社会福祉法人福岡市保育協会」が提出した施設整備補助金の申請について、「福岡市社会福祉施設整備費等補助対象施設選定委員会」が審議した時の資料だ。
 選定委員は、補助金申請者から提出された書類を精査した上で、この用紙に個別意見と「適」・「否」の別を記入する。

 注目したのは、赤いアンダーラインで示した箇所。そこには、「天神・舞鶴周辺地域」の待機児童数は「47人」と明記されている。

 高島市長は、天神地区における保育のニーズが高いと主張してきた。しかし、待機児童の数でいうと、舞鶴地区を入れても50人に満たないというのが実情。未入所児童数にしても両地区合わせて「79人」なのである。
≪注:役所が言う「待機児童」とは、保育所への入所を望みながら定員等の関係で入所がかなわない子どもの総数(未入所数)ではなく、未入所総数から特定の保育所だけへの入所を待つ子どもの数を差し引いたもの。“どこでもいいから入所させたい”というケースだけを「待機児童」と呼んでいる≫。

 補助金申請にあたって市側がまとめた別の文書の一部には、中央保育園では「未入所数 20人」、もよりの保育園は「未入所数 29人」となっていたことが分かっている。待機児童数は、未入所数の半分程度と見るのが通常であり、中央保育園がある天神・今泉地域の待機児童数は、「25人」ほどということになる。

 今回、新たに出てきた文書の「天神・舞鶴周辺地域」の待機児童数は「47人」という記述からは、天神から舞鶴にかけての広いエリアであっても、50人程度の定員増で対処できることが明白となった。

数合わせに利用された中央保育園 
 一方、新たに整備される予定の中央保育園の定員は、現在の150人の倍となる300人だ。待機児童数が50人に満たない地域に、150人もの定員増が必要だとは思えない。未入所児童のすべてを引き受けたとしても、80人という数字でことは足りるのである。

 そもそも、すべての子どもに公平な保育環境を与えるとすれば、現在の待機児童解消策ではとても足りない。
 福岡市の場合、平成23年度は待機児童が727人で、未入所児童数は1,490人。24年度は待機児童893人に対し、未入所児童が1,746人といった状況。市が公表している待機児童数の約2倍が、希望する保育所入所を断られているというのが現実なのだ。
 市における現在の待機児童は約700人、すると未入所児童はその倍の1,400人程度ということになる。これをすべて解消するとなれば、現在の市の計画では到底間に合わない。

 福岡市をはじめ国や行政が謳う待機児童解消策は、根本的な保育行政の改革ではなく、目の前の数字を操って、見せかけの改善策を打ち出すための方便に過ぎない。
 700という数の待機児童を減らすにあたって、中央保育園で新たに「150人」の定員を確保することは、市にとっては魅力だったろう。だが、一箇所だけの定員を増やしても意味がない。全市的に不足する保育所の定員に対処するためには、地域ごとに適正規模の施設を整備すべきなのだ。

 実際、保育の現場からは次のような声が聞こえてくる。
「中央保育園の定員が300人になるという話ですが、天神周辺で、待機児童がそんなにいるわけではありません。これは単なる『数合わせ』。おそらく、無認可保育所の子どもたちが、大挙して中央保育園に移ってくることになるでしょう。そうなると、本当の意味での『待機児童解消』にはならないはずです。天神地区だけ定員を150人増やしても、市内に散在する待機児童を救うことはできないんです。だれもかれもが天神で働くわけではないんですから。高島市長が、市全体を見ていない証拠でしょうね」(40代・ベテラン保育士)。

糊塗された「土地ありき」
 何度も報じてきたが、もともと中央保育園は、市立中央児童会館に併設される形で運営されてきた施設だ。そのため、再整備に当たっての当初計画では、合築が基本となっていた。

 方針を転換し、児童会館の建物に商業施設を同居させるように指示したのは高島市長。その結果、保育園がはじき出され、単独移転することになったという経緯がある。
 平成23年7月、市政運営会議でこの方針が確認されたが、なぜかこの時点で移転用地が決め打ちされていたことも報じた。「はじめに土地ありき」だったことは明白だ。
 移転用地の面積が広かったことから、中央保育園の定員を大幅に増やす方向となったが、これは後付けの話に過ぎない。
 子育て支援策に窮していた高島市政が、目の前に提示された広い土地を前に、中央保育園の定員を大幅に増やして数合わせに利用した―待機児童解消の掛け声に糊塗された形となっているが、これが移転計画の真相なのである。

*前掲、「福岡市社会福祉施設整備費等補助対象施設選定委員会」の審査用書類について、市がとんでもない行為に及んでいたことが分かった。次稿で、その詳細を報じる。



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