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鹿児島市立病院 不透明感増す院長人事
任命理由は不明 決めたのは“天の声”

2013年8月21日 09:50

 所管違いの伊藤祐一郎鹿児島県知事が、院長人事に介入した疑いが浮上した「鹿児島市立病院」。HUNTERが鹿児島市に対して行った情報公開請求から、新院長選任までの過程が、記録として残されていないことが明らかとなった。
 市側に残された人事の決済文書には、鹿児島大学大学院の坪内博仁・前特任教授が新院長に決定するまでの過程を示す記録がなく、市としてなぜ坪内氏を選んだのか説明ができない状況。人事担当職員が説明に詰まる始末で、改めて不透明な人事の実態が浮き彫りとなった形だ。

歪められた院長人事
鹿児島市立病院 院長人事をめぐり知事の不当な介入があったとされる「鹿児島市立病院」(右の写真)は、昭和51年に国内初の五つ子が誕生したことでも知られる地域医療、救急救命の拠点だ。

 現在、同病院は同市上荒田の日本たばこ産業(JT)工場跡地に約170億円の事業費をかけ新病院建設を進めており、平成27年度開院の予定。その新病院計画を引っ張ってきたのが、上津原甲一前院長だった。

 7月、その上津原氏が森博幸鹿児島市長に呼び出され、唐突に退任するよう宣告される。理由は「伊藤知事の指示」。
 任期切れ間近ながら再任が当然と思われていたため、病院関係者が猛反発したのは言うまでもない。市立病院の人事は鹿児島市長の権限で行われるもの。知事が介入する話ではないからだ。

 事実関係について市長や前院長が口を閉ざす中、鹿児島市立病院労働組合が発行した機関紙「情報」の第35号に、組合員に向けた上津原前院長の一文が掲載された。伊藤知事が院長人事に介入したことを前提に、人事の背景について述べたものだった。再掲しておく。

情報 第35号

明かされぬ新院長任命の理由―決めたのは「天の声」
 HUNTERが注目したのは、この中にあった次の一節だ。
「救急医療を忌み嫌って、医局員を当院から引き上げさせた教授が何故次の院長に任命されたのか?」
「この人事がどのような経過で行われたか?」

 病院関係者が疑問に思っていたことを前院長が列挙した形式になっているが、「救急医療を忌み嫌って、医局員を当院から引き上げさせた教授」が、新院長の坪内氏を指すことは明らかだ。
 市は、鹿児島大学大学院の特任教授(7月26日付けで退職)だった坪内氏を新院長に起用することを決め、7月25日に正式発表したが、坪内氏は内科専門医で救急救命の経験はないとされる。
 なぜこのような人物を救急救命の拠点となっている病院のトップに据えたのか―病院関係者ならずとも不可解に思うのは当然だろう。
 HUNTERは、「この人事がどのような経過で行われたか?」について確認するため、鹿児島市に対し、新院長決定までの過程が分かる文書を情報公開請求していた。

任命決済 これに対し、鹿児島市側が開示した公文書は2種類。ひとつは病院事業管理者(院長)人事についての任命決済文書、そしてもう一種類が記者発表資料とその決済文書だった。

 任命決済(右の文書参照)の起案は7月25日。『病院事業管理者の任命について』と記された決済文書(鹿児島市の場合は「原議書」)には、
《このことについて、別紙のとおり任命します。(平成25年8月1日付)》
《7/27(土)~7/31(水)の期間は、副院長が職務を代理する予定です》としか書かれていない。

 添付書類は2枚だが、任命内容と坪内氏の経歴以外はなにもない。通常、組織のトップとなる人物について、なぜ任命するのかの説明なり理由が明らかにされているものだが、鹿児島市の決済文書には、肝心の部分が抜け落ちている。これでは坪内氏起用の理由が分からない。

 鹿児島市役所の人事担当に説明を求めたところ、新院長に坪内氏を起用した理由について記録された文書は一切残されていないという。任命理由は不明ということだ。
 説明責任が果たせないのではないか、と追及したところ「上からの話でしたから」と明言。院長人事が“天の声”で決ったことをあっさり認めてしまった。

記者クラブ用の発表資料人事の既成事実化、狙った証拠も
 この人事の怪しさを証明する別の証拠もある。前述したように、市が開示した文書の一方は、記者発表資料とその決済文書だ。新院長に坪内氏をあてることを公表するための書類なのだが、なぜかこの原議書の起案は「7月24日」。つまり、正式な任命決済前に、記者クラブ用の発表資料が起案されていたのである(左の文書参照。赤いアンダーラインはHUNTER編集部)。
 本末転倒もいいところだが、話が水面下で急速に進み、新人事を既成事実化しようとしたことを示す証拠である。

“天の声”を発したのは?
 ・“天の声”を発したのは市長か知事か?
 ・院長人事に介入した伊藤知事が、後継者まで指名した可能性はないか?

 その問に対する答えは、上津原前院長が記した文章に示されている。
《後任人事の件ですが、或る医師の関与が取りざたされています。この医師は現在、県の顧問でもあり最も知事と親密な関係に有りますが、坪内教授が現役時代の同門会長を務めていた方で、教授とも密接な関係に有ります。この医師が市に赴いて、坪内教授の推薦をされたと聞いております》。
 市に次期院長の推薦を行ったのは、県の顧問で知事とも親しい医師だったのである。
 これが何を意味するか、説明するまでもなかろう。



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