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鹿児島県に見る権力とジャーナリズムの関係

2013年8月23日 10:10

権力を擁護? ジャーナリズムの最大の使命は権力の監視だ。しかし報道内容によっては、結果的に権力を擁護することにつながるケースも少なくない。
 伊藤祐一郎知事へのリコールの動きが顕在化した鹿児島県に関する報道で、権力側の主張を垂れ流す事例が目立ち始めた。背景にあるのは、伊藤県政による情報操作。目的はリコールに対する牽制だ。
 改めて「上海研修」に関する報道内容を検証した。

上海研修見送り報道
 22日から23日にかけて、鹿児島県が実施している公費を使った上海研修に関する報道が相次いだ。県が10月以降、上海研修事業を見送る方針を固めたとするものだ。
 新聞、テレビ、いずれの報道内容も同じで、県の方針を伝えた後、中国東方航空の上海便搭乗率が回復したことを、数字をあげて説明している。その中から、搭乗率に関するいくつかの報道内容を拾ってみた。

MBC南日本放送―《5月に32.2%、6月が46.3%と落ち込んでいましたが、派遣が始まった先月は58.8%、今月は75.8%と回復し、「路線維持に必要とされる搭乗率50%」を超えています》。

朝日新聞―《5月が32.2%、6月は46.3%まで落ち込んだが、派遣が始まった7月は58.8%に回復。8月は約70%と見込まれている》。

南日本新聞―《7月から実施している研修などで同月の搭乗率は3カ月ぶりに、安定運航に必要とされる50%を上回り、8~11月も同様の水準を確保できる見込みとなっている》。

西日本新聞―《今年5月は32%と低迷し、6月は46%だった。7月は59%に回復し、8月は予約ベースで69%に達した》。

KTS鹿児島テレビ《一般的に路線維持のために必要な搭乗率は50%以上ですが、上海線を運航する中国東方航空によりますと5月は32.2%だったものの研修が始まった先月は58.8%、今月は75.8%と回復してきています。また、9月、10月も予約状況から50%を確保できる見込みだということです》。

NHK―《先月の搭乗率は前の月より12.5ポイント高くなり、路線の維持に必要とされる50%を上回って58.8%になりました》。

 22~23日の報道に先立ち、NHKは今月12日の時点で次のようなニュースを流していた。
 《利用の低迷が続いていた上海・鹿児島便の先月・7月の搭乗率は、県職員らの派遣事業が始まったため、前の月に比べて12ポイントあまり高くなり路線の維持に必要とされる50%を上回って60%近くとなりました。
 県は、上海・鹿児島便の路線維持のため研修として県の職員や教職員、それに民間からあわせて300人を先月から来月までの間に上海に派遣する事業を行っています。 事業が始まった先月は90人あまりが上海に派遣され、各地を視察しました。
 県によりますと、この結果、先月の搭乗率は前の月より12.5ポイント高くなり、路線の維持に必要とされる50%を上回って58.8%になりました。
 人数でみますと、日本人の乗客は6月の393人から192人増えて585人となった一方、外国人の乗客は81人減って297人でした。
 上海・鹿児島便の路線維持をめぐっては、経済界などを中心に民間からも1500人を超える規模で上海へ派遣する動きが出ている一方で、県の職員らを上海へ派遣する税金の使い方に対して批判があがっています》。

権力側の広報
 結論から述べておくが、一連の報道はお粗末極まりない権力側の広報記事である。
 表現に多少の違いはあっても、報道内容はほぼ同じ。上海研修の継続見送りと、その要因が鹿児島―上海便の搭乗率回復であることを伝えるものだ。先鞭をつけたのが前掲したNHKの12日配信のニュースだろう。

 ニュースソースは主として県。中国東方航空に確認しているメディアもあるようだが、県側の意図に沿った報道であることは、疑う余地がない。最大の問題は、権力側が主張する数字を何の検証もなく垂れ流したことだ。

「搭乗率」への疑問
 鹿児島―上海線に就航しているのは中国東方航空だ。使用している機体は「エアバスA319」という小型ジェット旅客機で、座席数は120席あまりしかない。
 週2便の運行だから、月4週~5週として月間約1,000人分ほどの座席数があることになる。わずか1,000人と言った方が良いかもしれない。

 県が実施している研修派遣の人数は、7月から9月までの3ヶ月間で300人。月平均100人として、毎月の搭乗率は10%程度上がることになる。一連の報道にある搭乗率上昇分『12.5ポイント』という数字は、あたり前のことであって、経済界の伊藤県政への協力を考えれば、むしろ少ないというべきだろう。

 垂れ流された“8月の搭乗率”も怪しいものである。この数字について、どのメディアも「75.8%」「約80%」などと報じているが、分母となる数字が通常の月とは違うことに、どの記事も触れていない。
 じつは中国東方航空の8月の便は、14日(水)と31日(土)の2便が欠航となっている。2便が欠航ということは、通常の月より240席程度少ないということ。分母が1,000席ではなく760席であることを、報道各社は承知していたのだろうか?

 そもそも、公費を使った上海研修が社会問題化して以来、機体の座席数や欠航について解説した記事に接した覚えがない。大半の報道は、搭乗率だけを問題にしており、これは県側の公表した数字を根拠とするものだ。各社とも中国東方航空に確認しているようだが、月によって分母が変わっていることを考慮した形跡は皆無といってよい。役所の言い分について、検証を怠っている証左であろう。

 忘れてはならないのは、搭乗率が上がったからといって、伊藤県政が強行した上海研修の公費支出が正当化されるものではないということだ。税金を使って航空路線を維持するなど、正気の沙汰とは思えない。
 さらに、鹿児島から上海に行く人が若干増えたとしても、鹿児島県への冨の呼び込みにはつながらない。必要なのは、中国側からの訪問客を増やすことのはずだが、冷え込んだ日中関係の影響で、当分これに期待するのは無理。見せかけの搭乗率アップでは、根本的な問題は解消されないのである。
 いずれの報道も、きちんとその事実を伝えきっていない。

リコールへの牽制―問われるメディアの姿勢
 一連の報道は、伊藤県政による情報操作の疑いが濃い。上海研修事業を実施した結果、搭乗率が上がって路線継続への希望が出たとする県側の主張には、県民に対して施策の成果が上がったことをアピールする狙いがある。

 一方、県知事に対するリコールを進める県民は、上海研修や人気の商業施設を壊して必要性が乏しい体育施設を整備するという、税金のムダ遣いについての責任を問うている。
 悪評ばかりの上海研修について成果を強調する県の狙いは、県民の批判をかわすこと。リコールへの牽制と言っても過言ではあるまい。
 検証不足のまま県側の主張を報じることは、報道がこのたくらみに加担したことになりはしないだろうか?

 メディアがジャーナリズムとしての使命を忘れ、権力側の主張を垂れ流した場合、結果として悪政をのさばらせることになる。そのことは歴史が証明しているはずだが・・・・・。



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