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渦中の中央保育園々長 保育室面積不足を放置
背景に福岡市の甘い監査指導 ― 子ども置き去りの証明

2013年7月12日 09:50

 移転問題に揺れる福岡市中央区今泉の中央保育園(運営:社会福祉法人福岡市保育協会)の園長が、定期監査で保育室面積の不足を指摘されながら、5か月間も放置していたことが、市への情報公開請求で明らかとなった。この間、一部の子どもたちが、規定の面積より狭いスペースに押し込まれていたことになる。
 面積不足の実態をつかんだ福岡市が正式な文書指導を行ったのは、なぜか5か月後。園側はこのタイムラグを利用し、不適正な状態を続けていた。
 保育所が監査で改善指導を受けた場合に義務付けられた「改善報告書」の提出はさらに遅れ、指摘から約9か月も経ったあとだった。
 市と保育園側の馴れ合い監査の裏で、主役の子どもが置き去りにされた形。杜撰な施設運営を続けてきた同園の園長と、市の杜撰な監査の在り方に批判の声が上がりそうだ。(写真は、移転問題に揺れる「中央保育園」)

保育室面積不足―意図的に放置か
 市監査指導課が、中央保育園に対し2歳児保育を行っていた部屋の面積が不足していることを指摘したのは、平成23年11月8日の定期監査において。児童30人が入る同室で必要とされる面積(『基準面積』)は59.40㎡なのに対し、実際の室面積は55.81㎡しかなかった。3.59㎡も不足していたことになる。

 「基準面積」は、0~1歳児室の場合、児童数に3.3㎡を、2~5歳児の部屋だと児童数に1.98㎡を掛けて算出する。厚生労働省令(「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準保育所の設備基準」)で定めた基準によるものだ。

【参考条文】
第32条  保育所の設備の基準は、次のとおりとする。
1、乳児又は満2歳に満たない幼児を入所させる保育所には、乳児室又はほふく室、医務室、調理室及び
  便所を設けること。
2、乳児室の面積は、乳児又は前号の幼児一人につき1.65㎡以上であること。
3、ほふく室の面積は、乳児又は第一号の幼児一人につき3.3㎡以上であること。
4、乳児室又はほふく室には、保育に必要な用具を備えること。
5、満2歳以上の幼児を入所させる保育所には、保育室又は遊戯室、屋外遊戯場(保育所の付近にある
  屋外遊戯場に代わるべき場所を含む)、調理室及び便所を設けること。
6、保育室又は遊戯室の面積は、前号の幼児一人につき1.98㎡以上、屋外遊戯場の面積は、前号の
  幼児一人につき3.3㎡以上であること。

指導監査結果 保育環境を守る観点から、基準面積と実際の室面積の違いは必ずチェックされており(市側説明)、面積が足りない場合は厳しい指導を受けるのが通例。このため、室面積が不足する状態で保育を行っていた中央保育園に対しては、もっとも重い評価区分「A」による文書指導となっていた(右の文書参照・クリックで拡大)。

 しかし市が、文書による正式な指導の通知を出したのは、監査実施から5か月近くも経った平成24年の3月22日。この間、同園の2歳児が入る部屋は、面積不足のまま放置されていた。
 同園の場合、部屋面積を広げることが不可能なため、2歳児のうちの誰かを別の部屋に移すなどの改善策を講じなければならなかったが、関係者への取材で、何の対策もとられていなかったことが分かっている。
 HUNTERの取材に応じた複数の保育士によれば、保育士のほとんどが、園長から監査指導の内容を聞かされておらず、面積不足が生じていることさえ知らなかったとしている。

 市側は、監査実施日である平成23年11月8日に、園側に対し口頭で室面積が足りないことを指摘していたと明言しており、同日付けの監査資料にも記載がある。
 中央保育園の園長が、室面積不足を認識していながら、子どもの保育環境改善を放置したことは明らか。保育士らに知らされていなかったことを考えれば、園長が意図的に面積不足を隠した可能性も否定できない。

改善策先送りの実情
 園長の、その後の対応もふざけたものだ。市が平成24年3月に中央保育園に示した監査指導書には、「改善報告」を5月22日までに提出するよう求めている。しかし、園側が報告書を提出したのは同年7月20日。室面積不足を口頭で指摘されてから、9か月あまりも後のことだった。その文面に、保育に対するこの園長の姿勢がにじみ出ている。

「新年度は配慮して行きます」

 『新年度は配慮して行きます』―前年11月に指摘されたのは室面積不足という重大な違反行為だ。にもかかわらずこの園長は、5か月間これを放置したあげく、堂々と新年度にならなければ改善しないことを宣言しているのだ。『配慮』などいうという言葉は、約束を表すものではあるまい。
 さらに、改善報告は新年度が4カ月も過ぎた時点。この『新年度は』という文言に従うならば、実際の改善はさらに翌年度(25年度)ということになってしまう。開いた口が塞がらない。

面積不足ごまかした可能性も 
 問題はまだある。前述した2歳児室の面積不足を、監査の時点でごまかそうとしていたふしがあることだ。
 児童30人あたりの基準面積を「59.40㎡」と述べたが、これは修正された数字。実際に園側が監査用に提出した資料には、基準面積を「55.04㎡」と記入していた。これだと室面積が「55.81㎡」であることから、面積不足には問われない。偽装を疑われてもおかしくない数字の記入だ(下はその資料の問題の部分。赤い数字は正しい基準面積。二重線の数字が室面積)。
 ただ、監査に当たった市職員は、その場で基準面積の間違いと、面積不足を把握しており、間違いなく口頭で指摘を行っていたという。

偽装を疑われてもおかしくない数字

甘い監査指導
 そもそも市は、11月に室面積不足という重大な違反を把握しながら、なぜすぐに正式な指導文書を送らなかったのか、担当課長に疑問をぶつけてみたが、「監査対象が多いため、これが普通」(同課長)なのだという。もっとも重要視されるべきは保育の環境のはずだ。これでは何のための監査なのか分からない。

 この件について市側に詳細な説明を聞くうち、市の監査自体が杜撰であることの証拠も見つかった。
 同園には6室があるが、記者が計算したところ、平成22年度、23年度と続けて、すべての部屋の基準面積が違う。だが、正確な基準面積を記した文書はない。市側を問い質したところ、中央保育園が提出した資料にある基準面積が違っていることを認めた上で、口頭での指導を実施していたという。しかし、監査書類には記録が残されておらず、改善指導を行った証明ができない状況だ。こうした甘い姿勢が、2年連続で間違った基準面積の記入を許した形となっている。(下の資料参照。赤い書き込みはHUNTER編集部)

間違った基準面積を記入

 ところが、2歳児室の室面積不足を指摘された翌年、すなわち平成24年度の中央保育園に関する監査資料では、基準面積は1箇所を除き正確に記されているものの、今度はすべての「室面積」が変わっている。上の資料の室面積と下の資料の室面積を比べれば一目瞭然だ。

平成24年度の中央保育園に関する監査資料

 各室の改装などが行われていないことを確認していた記者が、さらに市側を追及したところ、24年度になって、かつて中央保育園の設立申請が出された折の数字に戻っていたと言い出した。
 それでは、それまでの監査は何を基準に審査していたのか分からない。この点については、市の担当課長でさえ首をひねる始末。書類上の数字だけ見て、確認を怠ってきた結果なのだ。
 中央保育園への監査結果からは、市の甘い監査の実態が浮き彫りになっている。

問われる園長の資格
 中央保育園の園長は、保護者や保育士の全員が反対している同園の移転計画を、市とともに推進する構えだ。
 またこれまで、移転反対を唱える保護者の代表らを「一部の保護者」などと差別的に扱い、保育士に対しては「移転に反対をするなら職を辞してからやりなさい」と再三にわたり指導してきたのだという。
 保育環境の改善を怠っていた園長に、偉そうなことを言う資格があるのだろうか。少なくとも、子育てを語る資格がないことだけは確かなようだが・・・・・。



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