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僭越ながら:論

やり直す関係はあってもいい

2013年7月 8日 06:45

 「信頼」という言葉がある。これを確かなものにするためには、対話を重ね、合意された内容が実現できるよう行動することが必要だ。言行不一致が見えた場合、世間ではこれを「背信行為」と呼ぶ。信頼は一瞬で消滅する。しばしば起こりえる話だ。そうなると、関係修復は容易ではない。
 人と人とのつながりは、じつは髪の毛の細さほどもない頼りない一本の線で保たれている。切れやすい。しかし、いったん切れた絆であっても、双方が再生への気持ちを抱き続けることができるなら、やり直す関係があってもいいだろう。

自民党と読売新聞
 さて、参院選である。政党や各候補者の公約がずらりと並ぶ。幾度となく繰り返されてきた光景ではあるが、有権者は、目前に提示された候補者の主張を信じ、一票を入れる。そして騙される。何十年間、同じことの繰り返しをやって、今日(こんにち)がある。「今度こそ」、と思ってはみても、投票する先が見つからないという現実が、この国に閉塞感をもたらしている。

 騙され打ちのめされようと、日々の暮らしは待ってくれない。前に進むため、とりあえず「アベノミクス」とやらにかけてみようということで、安倍政権と自民党への支持率は高い。だが、翻って考えれば、経済格差や膨大な借金財政を招いたのは、他ならぬ自民党ではなかったか。原発を推進してきたのも自民党だ。

 一時の株高や円安に浮かれてはいるが、実体経済が好転する確たる兆しは、いまだに見えてこない。そこにあるのは、自動車など一部の輸出産業と、マネーゲームに狂奔することができる金満投資家およびファンドという化け物の高笑いだけだ。付け加えるとすれば、「国土強靭化」に名を借りた公共事業のばら撒きに湧く建設業者といったところか。

 報道各社の選挙情勢調査によれば、その自民党が圧勝し、単独過半数を得る勢いだという。浮かれた首相はさっそく、このところ封印していた「憲法改正」を叫びはじめた。衣の下に隠していたはずの鎧(よろい)が、公示後2日で丸出しになった形だ。政権の真の狙いが、9条の改正と国防軍の創設、そして原発推進にあることは周知の通りである。後押しをやっているのが、読売新聞であることもハッキリしている。読売新聞 社説

 戦後、原発を国是とするために大きな役割を果たしたのは、原発の父とまで呼ばれた故・正力松太郎氏率いる読売新聞だった。以来、同紙は原発推進を社是としている。福島第一原発の事故が起き、安全神話とやらが崩れてもなお、原発が必要なのだという。原子力村の一員が、日本一の部数を誇る新聞社である点、病巣はよほど深いと言わねばならない。

 憲法改正も読売の社是だ。そして、その主張を実現しそうな人物が、首相として二度目の登板を果たし、参院選で憲法改正に必要な議席数を確保する可能性が出て来た。読売の高揚感はいかばかりか。7日の朝刊。同紙は社説で、堂々と原発推進の必要性を宣言し、そのために勝たせるべきは自民党だと、誰にでも分かるように書いている。メディアによる、これほど露骨な選挙運動は見たことがない。

しっかりしろ!民主党
 一方、公約は破られるためにあるということを知らしめたのが、民主党だったことに疑いを差し挟む余地はあるまい。しかし、幼稚な政権運営ではあったが、自民党のようなズルさや、利権の臭いが少なかったのは確かだ。いささか曖昧さは残るものの、民主党は紛れもなく「リベラル」である。共産主義でもない。宗教団体の手先でもない。これを殺してはなるまい。「しっかりしろ!民主党」と叱咤激励するしかない。
 報道は中立たれ、と言う向きもあるだろう。「それなら読売はどうなんだ」と反論しておく。

 東日本大震災が、政治の進め方に多大な影響を及ぼしたことは衆目の一致するところだろう。民主党の歴代首相が頼りなかったことは事実だが、非常事態だったことを考えれば、いま少し、この政党を育てる努力をしなければならなかったのではないかという自省の念が頭をもたげてくる。中道の立場で、軍産複合体が支配する国になることを阻止する勢力が、やはり必要なのである。

 自民党の公約が実現に向かえば、早晩この国は“戦前”に逆戻りする。止めることができるのは、民主党しかない。失敗の経験が飛躍につながることは、時の首相が体現してみせてくれたのだ。あとは、民主党に、有権者との切れた絆を紡ぎ直す覚悟があるのか、ということに尽きる。いまのところ、迫力不足は否めない。しかし、やり直すことのできる関係は、あってもいい。



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