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福岡市、疑惑の保育園移転で「土地ありき」を偽装

2013年6月28日 10:45

移転予定地そばにはラブホテルが 社会問題となった福岡市が進める保育園の移転整備計画。待機児童解消を大義名分に、9億円もの税金を投入して移転用地を取得した市だったが、そこはラブホテルやパチンコ店が立ち並ぶ地域の一角だった。
 保護者や保育士はもちろん、多くの市民から反対の声が上がるなか、背景に“仕組まれた土地売買”があった疑いが濃くなっている。
 移転用地選定の過程については、今月13日配信の「福岡市・保育園用地取得に重大疑惑 ― 土地選定は出来レース」で詳しく報じていたが、27日までのHUNTERの取材で「はじめに土地ありき」を証明する新たな証拠の存在が明らかとなった。

6か所の移転候補地
 市内中央区で「社会福祉法人 福岡市保育協会」が運営する『中央保育園』は、市立中央児童会館に併設する形で、昭和45年に開園した。
 近年、建物の老朽化や耐震上の問題が生じたことから再整備が検討されていたが、当初計画では両施設を現在の場所で合築する予定だった。
 方針転換が行われたのは、平成23年4月以降。前年に就任した高島宗一郎市長の発案で、中央児童会館の建物に、保育園ではなく商業施設を併設させることになったためだ。

 同年7月26日に行われた「市政運営会議」では、中央児童会館と同園を合築する方針を放棄し、保育園だけを分離して再整備することを正式決定。さらに、保育園の移転先を、所管局である市こども未来局が提示した「候補地1」「候補地2」のうちの、「候補地1」とすることまで決めていた。「候補地1」こそ、現在問題になっている土地である。
 定員150名を300名に増やし、待機児童解消の目玉施策に仕立ててはいるが、市関係者の証言から後付けの大義名分だったことが分かっている。

 “天の声”による無理な方針転換は、政策決定過程で齟齬をきたすことが多い。「はじめに土地ありき」を糊塗するには、書類上だけでも「選定」を行なった形にする必要がある。やむなく市は、適当な土地を数か所選び、偽装工作を行っていた。そう断定できる証拠がある。

「土地ありき」―偽装の証明
 市内部で、問題の土地を移転用地とする方針が固まったのは同年5月から6月初旬にかけてのことだという。「ここしかなかった」―HUNTERの取材に応じた多くの市関係者は、異口同音にこう繰り返す。しかし、他の場所も探したとしながら、「候補地2」の所有権者に、土地を手放す意思があるかどうかの確認さえ行っていない。“聞く必要がなかった”と言った方が正確かもしれない。

 同年6月の段階では、移転候補地が「6か所」だったことが、市への情報公開請求で入手した資料から判明している(注:候補地5の中心部分に、別の方向の土地を加えたケースとして「候補地6」がある。事実上は5か所であるが、ここでは分かりやすいように「6か所」で稿を進める)。

 その6か所が、市政運営会議が開かれた7月26日までの間に、こども未来局内部で2か所に絞られ、土地所有者の意思も聞かぬまま移転先を決めた、という流れだ。
 しかし、常識的に考えて、市長や副市長が参加する最高意思決定の場に、買えるのかどうかも分からない土地の情報をあげて、判断を仰ぐことなどあり得ない。

 ある市幹部OBは、次のように話す。
「後になって、『じつは売ってもらえませんでした』なんて話ができるわけないでしょう。確実に買収できる土地があるからこそ、候補地として市長に提示できるんですよ。それまでに、職員が(土地所有権者の意思を)確認していないはずがない。(職員が)確認してないとすれば、市の上層部と土地所有者の間で話が済んでいたということになる。それなら職員は安心して作業を進めることができる。ただし、その場合でも『選定作業はやった。探す努力はしたんです』という証拠だけは残す必要がある。業者との癒着を隠す必要があるからね。今回はその典型的なケースですな」。
 候補地選定経過を示す文書を“偽装の道具”とする見立てだが、正鵠を射たコメントであることは確かだ。

選定資料 市は、6か所の移転候補地について、土地の形状に合わせた簡単な保育園建屋の配置図面を作成、さらに主な土地の登記簿謄本と公図を添付して、選定資料を作り上げている(右の写真参照)。

 HUNTERが注目したのは、添付された土地の登記簿と公図の取得日だ。候補地選定のための資料は候補地1から6の分まで揃っているのに、なぜか候補地2から候補地6までの登記簿しか添付されていない。候補地1の資料には、公図だけが添付されており、登記簿がないのである。

 こども未来局内の選定段階で、それぞれの候補地資料に添付されているのは18筆分の登記簿だ。その大半は、平成23年6月8日に法務局が発給したもので、わずかに同月14日発給のものがある。公図も同様で、発給日は8日か14日になっている。両日に集中して登記簿と公図を集めていたのである。(下は候補地ごとの登記簿の一部。赤いアンダーラインはHUNTER編集部)

候補地ごとの登記簿の一部

 一方、候補地1の登記簿が登場するのは、土地の売買契約書に添付された資料としてである。その日付を確認してみると、発給日はそれぞれ『平成23年10月4日』、『平成23年10月5日』(下はその登記簿の日付部分)となっている。

土地の売買契約書に添付された資料 土地の売買契約書に添付された資料

 これまで報じてきた通り、保育園移転と新たな整備場所(候補地1)を決めた市政運営会議の約1ヵ月後、問題の土地(候補地1)は北九州市の会社から福岡市内の不動産業者に売却され、所有権移転の登記が完了している(下がその登記簿の一部)。

登記簿の一部

 福岡市に残された候補地1の登記簿は、福岡市内の不動産業者による土地買収が終わった後のものなのだ。

 これが何を意味するか・・・・・・・。答えはひとつしかない。
 市側は、早い時期に「候補地1」を福岡市内の不動産業者が手に入れることを知っており、不必要な登記簿謄本を取得する必要がなかったということだ。「公用」は無料とはいえ、名義が変わることが分かっている土地の登記簿など、たしかにいらなかっただろう。「土地ありき」でスタートし、うまく偽装したつもりだったようだが、上手の手から水が漏れた形だ。

 もともと、付け焼刃で候補地選定の真似事をやらされたため、候補地6カ所の設定自体に疑念を残してしまっている。下は、移転先候補地の選定エリアを示した文書だが、なぜか「中央区今泉1丁目、今泉2丁目、警固1丁目」に限定している。保育園がある「警固小学校区」なら、赤いラインのエリアまで土地探しの範囲が拡がり、候補地となりうる別の土地を見つけることが可能だったはず。現在の場所の「近接地」でなければならないとする理由は、こじつけに過ぎない。ここでも巧妙に「土地ありき」を隠すための方便が使われている。

移転先候補地の選定エリアを示した文書

 最大の問題は、“子ども”をダシにして、不必要な土地を取得した高島市政の間違った政策決定過程にある。
 あるべき文書がなく、残された資料は偽装の道具。プロセスも不透明。これでは公費支出を認めることなどできない。「待機児童解消」という時代の要請とはまったく違う次元の疑惑が生じているのである。
 説明を求められた市長は、すべてを職員に押し付けて逃げ回る始末。化けの皮が剥がれたと言っても過言ではない状況だ。舌先三寸の市政運営に、限界が来た証拠でもある。
 タレント市長の饒舌に騙されるほど、市民は愚かではない。



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