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福岡市・保育園移転問題があぶり出した高島市政の実相

2013年6月19日 09:40

 福岡市が市内中央区今泉で進める「中央保育園」(運営:社会福祉法人福岡市保育協会)の移転事業をめぐり、数々の問題が顕在化した。
 約9億円をかけて市が取得した移転用地の選定過程は疑惑まみれ、さらに用地周辺にはラブホテルが密集し、隣地はパチンコ店という、およそ“子育て”とは縁遠い状況だ。
 一連の動きで思い起こされるのは、「こども病院」の人工島移転問題。不透明な移転先選定の過程、現地建替え費用の水増し、そして「はじめに土地ありき」・・・・・。どれもが、今回の中央保育園の移転問題とオーバーラップする。
 最終的に、こども病院人工島移転を決めたのは、高島宗一郎市長である。平成22年の市長選挙以来、高島氏は市民にどのような約束をしてきたのか――振り返ると同時に、選挙目当て、あるいは人気取りのための嘘がどのような現状を招いているのかを確認しておきたい。
(写真が問題の保育園移転用地。ビルを挟んで2軒のラブホテルの看板が見える)

市長が約束した「市民目線」・「透明性」・「情報公開」
 はじめに確認しておきたいのは、高島市長の「公約」である。選挙前の平成22年10月に行われた公開討論会では、自身のマニフェストの重要施策として、<情報発信>の在るべき方向性を示していた。そこには、こう記されている―《今市役所で何が起きているかを市民目線で伝えていきます》(下参照)。

マニフェストの<情報発信>

 次に公表されたのは、初当選後に市長として市民に提示した「公約」である(下参照)。この中では、意思決定過程の透明化や十分な情報提供を約束していた。

「公約」徹底した情報公開・情報発信

 市長会見での発言も確認しておきたい。 
【平成22年12月7日 就任会見】
 大きな、検証ポイントとしては2つあると思うのです。一つは建設費に関して1.5倍という見積もりになった不透明な経緯を明らかにする。ここに関しては多くの市民が何らかの意図があって一定の結論が出るような方向にもっていったのではないかという疑念を持っています。ここをきちんと払拭しなければいけないということが一つです。

【平成23年1月18日 市長会見】
 『こども病院移転計画調査委員会』を設置します! 多くの市民がこども病院のアイランドシティへの移転を決定した経緯への不信感で、現在の市政に大きな不信感を抱いています。 その不信感を払拭するために、こども病院のアイランドシティ移転を決定したプロセスの合理性、妥当性について検証し、その中で現地建替え費用を1.5倍とするに至った不透明なプロセスも明らかにします。 また、広く公開する場で、様々な立場の人たちが検証を行うことにより、より多くの市民の理解を促します。

 答え自体にはそれぞれ思いはあるにしても、その結論に至るまでの経過、プロセスに関しては多くの方が納得いただけるものを提供できるのではないかと思っています。今回私はこのこども病院に関しては結論もそうですが、その結論に至るプロセスを非常に重要と考えています。多くの市民が納得できる形で一つの結論を導き出すという地方自治としてのチャレンジを、私はこの福岡でしていきたいと思います。

【平成23年5月24日 市長会見】
 私は選挙公約で言っていましたとおり、もう一度、そのプロセスの合理性・妥当性を検証させてほしいと。そして、アイランドシティがいいとなったんであれば、堂々と胸を張っていくようにしようと。そしてもし、そのプロセスなどに関してですね、重大な問題があるのであれば、それは場所の変更もありえると、こういったことでお話をしてたわけでございます。

 当時、市政における最大の課題は、こども病院人工島移転の是非。高島市長は、一貫して市民目線に立った政策決定過程の透明化を主張していたことが分かる。後述するが、5月の会見では《プロセスなどに関してですね、重大な問題があるのであれば、それは場所の変更もありえる》とまで言い切っていた。

こども病院移転計画調査委員会が鳴らした警鐘
 市長の発案で実施された「こども病院移転計画調査委員会」は、こども病院の人工島移転を認める結論を出したものの、最終報告書では次のような表現で、疑惑を招いた福岡市の姿勢に警鐘を鳴らしていた。その一節も紹介しておきたい。

《市の仕事の進め方(ガバナンス)に課題があったとの意見が出され、市が行ってきた意思決定のプロセスに対し、納得できない、疑念を拭い去れないという意見があることを市は重く受け止めていただきたい。
この理由として、具体的には、まず、アイランドシティ移転の検証・検討を市役所内部のみで行い、この過程を真摯に市民に説明し、理解を得ようとする姿勢に欠けていたことがあげられ、こうした仕事の進め方が、市役所の信頼を損ない、ひいては、「アイランドシティありき」であるかのような受け止め方をされる要因となっており、結果として、喫緊の課題であるはずのこども病院の建替えをここまで停滞させてしまっている。市にはその事の重大性を十分に認識し、こども病院をこれからどうするのか、という課題に取り組んでいただきたい》。

生かされなかった調査委員会の警鐘
 「こども病院移転計画調査委員会」の最終報告が出されたのは平成23年の5月だ。その約2か月後の7月26日、高島氏は市政運営会議で市立中央児童会館と中央保育園を分離整備する方針に転換。疑惑の土地を保育園の移転用地にすることまで決める。

 これまで報じてきた通り、保育園移転を決定する過程には、「市民目線」、「透明性」、「情報公開」といった高島氏が叫んできた概念のかけらも見えない。福岡市への情報公開請求によって明らかになったのは、移転用地決定理由を示す文書の不存在、土地代の捏造といった疑惑を証明する事実ばかり。もちろん、市民目線など皆無だ。調査委員会が鳴らした警鐘は、高島氏には届いていなかったのである。

暴走の結果
 こども病院人工島移転問題の教訓が生かされなかったことで、またしても子どもを犠牲にした暴走がまかり通ることになる。冒頭の写真と下の周辺図を見れば、一目瞭然だ。

中央保育園地図2.JPG

 保育園移転用地の隣にはパチンコ店、ビルを挟んでラブホテルが2軒、その前にもラブホテル。なんと、移転用地から半径200メートル以内に、ラブホテルが7軒もあるのだ(別にレンタルルームが1軒)
 移転予定地周辺を4日間、昼・夜それぞれ1時間ほど歩いてみたが、平日の昼間でもカップルが平然とラブホテルに入っていく状況だ。ラブホテルを責めているのではない。こうした場所に保育園を移転させることが非常識なのである。

 風営法は学校や保育園、病院などを「保護対象施設」として規定しており、そうした施設から一定の距離内での風俗営業を禁止している。問題の土地に昔から保育園があったとすれば、保育園建設以後に出されたラブホテルやパチンコ店の営業許可は認められなかったということだ。見方を変えれば、市が行っていることは一種の「脱法行為」なのである。暴走以外のなにものでもあるまい。

高島市政の実相
 高島市長は就任直後、《多くの市民が納得できる形で一つの結論を導き出すという地方自治としてのチャレンジを、私はこの福岡でしていきたいと述べ、その後《プロセスなどに関してですね、重大な問題があるのであれば、それは場所の変更もありえる》とも明言している。

 現状はどうか?――中央保育園の移転をめぐり、在園児の保護者だけでなく、多くの市民が「反対」を表明している。移転の経緯は不透明というより疑惑そのものだ。市長に政治家として、子どもの親としての自覚があるのなら、市民との約束は守るべきだろう。「過ちて改むるに憚ることなかれ」。市長はこの論語の教えを知っているはずだ。

 最後にもうひとつ、市長公約の第一番目を紹介しておきたい。市長が、こども病院の移転問題についての考え方を示したものだ。

公約「こども病院移転」

 これまでの取材で浮かび上がったのは、「商業施設」を優先した結果の保育園分離策だ。「はじめに土地ありき」の疑惑も存在する。市長にとって一番大切なのは『子どもの命』だったはずだが・・・・・。



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