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噴き出した保育園移転問題―愚行重ねる福岡市 
アリバイ作りに「環境調査」のお粗末

2013年6月17日 10:35

環境調査中 政策決定過程を示す記録も残さぬまま、公費9億円で土地を購入するなど、疑惑まみれの実態が明るみに出た福岡市の保育園移転計画をめぐって、市がさらなる愚行を重ねていることが分かった。
 本来、移転先用地の売買契約が行われる前に実施すべき現場の環境調査を、今ごろになって専門団体に依頼。14日から22日までの予定で、隣接するパチンコ店の換気口から出る排気ガスの影響を調べさせていることが確認された。
 地元紙報道などで騒ぎに火がついた直後だけに、通年が当然の調査をわずかな期間だけ実施し、批判かわしの材料を手に入れておこうという市側の魂胆が透けて見える。

疑惑発覚 あわてて調査
 福岡市は、市内中央区にある福岡市立中央児童会館に併設されている「中央保育園」(運営:社会福祉法人福岡市保育協会)を分離して再整備する方針を平成23年7月に決定。新たな保育園建設用地として、9億円をかけ近接の土地を取得した。

 問題はこの土地を取り巻く環境。移転先のすぐ近くにはラブホテルが密集しているほか、隣接する建物はパチンコ店。学校や保育園などが一定の距離内にある場所での風俗営業を禁じた風営法の趣旨を踏みにじる形で、強引な移転計画が進められている。

 下の写真は、先週15・16の両日、中央保育園の移転予定地として市が取得した土地で、「環境調査」を行っている車両の様子を撮影したものだ。車のダッシュボードに、環境調査を行っている旨を表記した紙が置かれているのが分かる。

「環境調査」を行っている車両 1 「環境調査」を行っている車両 2

 なぜ「環境調査」が必要なのか?下の2枚の写真を見ればその答えが分かる。
 隣接するパチンコ店の建物の側面にズラリと並んでいるのは、駐車場の換気口だ。市の目論み通りに保育園の移転計画が進めば、排気ガスが保育園に降り注ぐ格好となっているのである。

パチンコ店の換気口 1 パチンコ店の換気口 2
   風俗街であることや避難経路の不足といった問題に加え、排気ガスによる子どもの健康被害が確実視される状況で、保護者らが移転反対を訴える理由のひとつとなっていた。この状態で移転を受け入れる保護者などいないだろう。

「今更何を!」
 市側は、唐突に始められた調査が、排ガスの影響を確認するためのものであることを認めている。だが、本来なら計画段階、それも土地の取得前に終わっていなければならない調査だ。順番がまるで違っている。保育園移転に関する一連の報道で騒ぎが拡大したため、市側が新たなアリバイ作りに走った格好だ。

 そもそも、季節によって風向きが変ることを考えれば、通年での調査が必要なはず。報道を受けてあわてて排ガスの影響調査を行うにしても、わずか10日間のデータを取ったところで意味があるとも思えない。またしても税金のムダ。愚行に愚行を重ねる市政の現状がそこに在る。

中央保育園移転予定地について これまで報じてきた通り、問題の土地は、平成23年7月に高島宗一郎市長による事実上の決済を経て移転予定地と決められ、昨年6月の議会報告(右の文書)を経て、7月に正式公表されている。土地の売買契約は今年4月だ。パチンコ店は3月に営業を始めたとされるが、建物自体はそれ以前に出来上がっており、環境調査を行う時間は十分にあった。

 土地の売買契約を結ぶ前に、保育園整備計画と照らし合わせ、立地場所として適正か否かの確認をするのは当然だろう。それを怠ったことは、「はじめに土地ありき」(市関係者の話)を証明しているようなもの。つまり、子どもの命は二の次にされたということになる。

 ある中央保育園関係者は、次のように話している。
「何を今更!という感じです。土地を買った後に調査をしても意味がない。悪い結果が出たら、移転を中止するとでも言うんですかね。そんなことはないでしょう。その証拠に、測定自体をありえない場所でやっている。排気ダクトの真下を測定せずに違う場所でやっているじゃないですか。どうせ、『ほら、ちゃんと測定しましたよ。数値上は大丈夫でしょ?園児の健康に影響は与えませんよ』と言うための茶番ですよ」。

市民からも批判の声
 市に対する不信感は、確実に拡がっている。中央保育園の移転に関する疑惑について、市内南区在住の40代主婦はこう語る。
「許せない。報道や知人の話を聞いて、こども病院の人工島移転問題を思い出しました。子どもたちの命を守ることが軽視され、一部の人間の思惑だけが先行していますよね。土地取り引きの疑惑があるとすれば、徹底的に暴き出すべきだと思います」。
 
 中央保育園の移転計画は、ある意味「こども病院人工島移転」よりタチが悪い。福岡市民の矜持にかけて、この愚かな計画を許してはいけない。次代を担う子どもたちを守るのは、現在の市民の義務でもあろう。



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