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有明海再生事業の闇(1)
覆砂工事 ― 不正の実態

2013年4月23日 09:50

 今月18日、福岡県柳川市の漁業者らが、有明海で実施されている海底に海砂を撒く工事で不正があり、水質が悪化したなどとして、県監査委員に住民監査請求を提出、22日に一部補正し、正式に受理された。
 請求対象となった工事は1件。福岡市に本社を置く海洋土木の専門業者2社が共同企業体(JV)を組んで施工したものだが、県は平成24年3月、この工事に不正があったとして2社に対し「厳重注意」を行っていた。
 この際JV側が県に提出した不正の顛末を記した報告書の主張は、監査請求で指摘された不正の内容との間に大きな隔たりがある上、県の不良業者に対する対応も形ばかりのものだったことが分かってきた。しかも、不正はこの工事だけにとどまらない。
 HUNTERが県に情報公開請求して入手した文書をもとに、巨額な公費を投じて進められてきた有明海再生事業の非常識な実態を報じていく。

覆砂に年間20億円 報じられていた不正の手口
 福岡県は、有明海の水質を改善する目的で、柳川市沖などの海中に砂を撒く、いわゆる覆砂(ふくさ)と呼ばれる事業を行っており、毎年約20億円の予算がつけられてきた。

 監査請求の対象となったのは、平成22年度に県が発注した「福岡県有明海地区水域保全創造工事14(2)第3工区」という覆砂工事。最終的な契約金額は1億9,002万3,750円で、福岡市の「博多湾環境整備」と「宮川建設」がJVを組んで受注していた。両社は、マリコンと呼ばれる海洋土木の専門業者で、博多湾における浚渫工事などを九州地方整備局や福岡市から数多く受注している。

 一方、今回県から開示されたのは、平成24年に県が両社に対し厳重注意を行うまでの過程を示した文書やJV側から県に提出された“言い訳”を記した報告書など。
 発端となったのは、FBS福岡放送の報道で、有明海に撒かれた海砂の量と、長崎県内で採取・搬出されたはずの砂の量が合致していない上、工事の施工記録に添付された写真にあった海砂運搬船が、じつは当日長崎県内に停泊していたという事実を暴いたものだった。
 この報道を受けた県が、関係業者に対し調査を行ない、厳重注意という“措置”を下していた。ちなみに措置は一般的に言う「処分」と異なり、ごく軽い“おとがめ”である。

「偽造」認めたJV側報告書
 覆砂工事における不正について調べていたHUNTERが、改めて県にこの事案についての公文書を開示請求。事案の概要を示す文書を入手していた。
 下は、その中の監査請求が指弾した工事についてのJV側の報告書―どの程度の虚偽行為(文書では『誤り』と記述)があったのかについて記したものだ。(黒塗りは県、赤いアンダーラインと矢印及び数字はHUNTER編集部)

報告書 (1)  報告書 (2)

 黒塗りばかりで判然としないように見えるが、簡単に言えば、実際に使用すべきものとは違う海砂を、これまた計画とは違う船を使って運搬し、結果的に1,175㎥少ない量を施工したという内容。実態が県への報告と違う内容である以上、インチキ工事だったと言われてもおかしくはあるまい。

 この後、虚偽申告の理由について縷々述べられているが、前掲の文書で虚偽をことさら「誤り」としている点、一方で出来高管理書類の記述について「偽造もしくは間違い事項」と表現している点などを勘案すると、JV側の身勝手な言い訳を信用することは出来ない。「偽造」とは虚偽の手法を表した言葉のはずだ。(下の文書、黒塗りは県、赤いアンダーラインはHUNTER編集部)

報告書 (3)

不正の温床
 柳川市の魚業者らが県に提出した監査請求書には、次のようにされている。
《特記仕様書1に規定されている海砂の規格を故意に偽装し、規格外の不良海砂を工事区域に多量に搬入投入》

 これに対し、JV側は、時化(しけ)が続いたことで海砂搬入計画が狂い、竣工検査に間に合わせるため、やむなく「海砂ストックヤード」にあった海砂を工事に使ったとしている。計画とは違う海砂を使って施工したのは事実なのだが、“採取地が同一の砂”という論法で、「規格外」を否定していた(前掲文書、赤い矢印で示した①参照)。いったん撒かれた海底の砂を確認することは困難で、そのことを見越した言い訳ともとれる。

 監査請求を行った漁業者側の話やこれまでの取材結果、さらにはJV側の報告書の記述等からして工事計画とは違う海砂が当該工事に使われたのは事実だ。本来、これだけでも「処分」に値すると思われるのだが、なぜか県は問題をことさら過小に評価し、内々で処理していた。厳重注意までの顛末は、公表されなかったのである。

 じつは覆砂をめぐって県が厳重注意にしたのは、監査請求の対象となった工事を施工した博多湾環境整備と宮川建設だけではない。不正はもっと大掛りであることが、今回入手した公文書から浮き彫りとなる。

 つづく



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