今年2月に公表された政府・地震調査研究推進本部の「活断層再評価」に至る分科会の議論の中で、九州電力が作成した川内原子力発電所(鹿児島県薩摩川内市)近辺の地質調査結果を否定していたことが明らかとなった。
HUNTERが文部科学省に情報公開請求して入手した同本部地質調査委員会長期評価部会の分科会議事録によれば、平成24年に行われた会議で、九電の地質調査結果を酷評、新たな断層の存在を指摘していた。
公表された再評価の結果を確認したところ、これまでの九電などの調査を基にした「市来断層帯」が大幅に海側に延びるなど新たな断層の存在が確認されており、川内原発の安全性に疑問符がついた形。九電の原発に関する公表事項が、意図的に歪められていた可能性さえある。
(写真は川内原発)
活断層再評価―川内原発直近の活断層拡大
「地震調査研究推進本部」は、地震防災対策特別措置法によって設置され、文部科学大臣が本部長を務める政府の機関だ。同本部の下に政策委員会、地震調査委員会、さらには分科会やワーキンググループが置かれ、防災対策の強化を含む地震に関する調査・研究の一切を担っている。
地震を引き起こす恐れのある活断層について、3年間にわたって再評価するための議論を続けていた同本部が、今年2月1日に公表したのが「九州地域の活断層の長期評価」だった。このうちHUNTERが注目したのは、市来区間、甑海峡中央区間、吹上浜西方沖区間の3区間に分かれ、川内原発に近接して走る「市来断層帯」である。
公表された資料によれば、今回初めて評価対象とされた市来断層帯のうち、従来「五反田川断層」と呼ばれてきた活断層が、大幅に西の海上側に延びており、甑海峡中央区間の断層と交わる形となっていた。下は、地震調査研究推進本部が公表した市来断層帯の図だが、「市来区間』の海域側―灰色の帯部分が延長された活断層だ(川内原発の位置及び矢印など赤の書き込みはHUNTER編集部)。これによって九電が19キロとしていた市来断層(九電資料では五反田川断層)の長さが、「25キロ」となっていた。
地震の規模は活断層の長さによって変わる。地震調査研究推進本部は、新たに評価した活断層活動時の地震規模について、《地下の断層の長さなどに基づくと、市来区間、甑海峡中央区間、吹上浜西方沖区間のそれぞれが活動した場合、市来区間ではマグニチュード(M)7.2 程度、甑海峡中央区間ではM7.5 程度、吹上浜西方沖区間ではM7.0 程度以上の地震が発生する可能性がある》としている。川内原発の危険性が高まるのは言うまでもない。
酷評された九電の調査結果
HUNTERは今年1月、活断層再評価のうち、川内原発に近接する「市来断層帯」に関する議事録を文部科学省に情報公開請求。その結果、平成24年5月17日、同6月25日、同7月26日にそれぞれ行われた第16回、第17回、第18回の地質調査委員会長期評価部会の分科会議事録を入手した。
市来断層帯に関する議論では、5月17日の第16回分科会で九州電力の資料を基に議論することを確認。6月25日には川内原発沖の甑海峡にある甑断層が北に延びる可能性と、内陸を走る市来断層(五反野川断層)で海域延長部に断層が延びることを確認し、さらに詳細な検討については「原子力保安院の会議で行うべき作業」と指摘していた。下は、この時の議事録の一部である。(赤いアンダーラインはHUNTER編集部)
7月26日に行われた第18回分科会ではさらに踏み込んで、九電作成の資料について「参考資料3-1-2の解釈はとにかくひどいものである」と酷評、「最もひどいのは、地表面(海底面)にまで断層変位が及んでいるにも関わらず、断層の存在を全く無視していることである」として、未公表の断層があることを指摘していた。
「記載を慎重に」としながらも、市来断層が海域まで延びていることと甑断層が北に延びることの「2つについては事実を書かざるを得ない」と結論付けていた。(下はその議事録。赤いアンダーラインはHUNTER編集部)
活断層隠蔽の可能性
分会会の議論に出てくる「参考資料3-1-2」について、地震調査研究推進本部の事務局に確認したところ、当該資料は九電が平成21年に国に提出した『川内原子力発電所敷地周辺・敷地近傍の地質・地質構造(補足説明:その2)』であることが分かった(右はその表紙)。
「参考資料3-1-2の解釈はとにかくひどいものである」、「最もひどいのは、地表面(海底面)にまで断層変位が及んでいるにも関わらず、断層の存在を全く無視していることである」・・・・・・一連の議事録の記述から、九州電力による地質調査が杜撰であることは明らかで、意図的に活断層の存在を隠していた疑いさえある。
次稿で、活断層再評価結果と九電側資料を比較し、川内原発の危険性を探る。