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川内原発EPZ 20キロの根拠データ 「なかった」
伊藤鹿児島県知事の「嘘」明らかに

2013年3月11日 10:20

鹿児島県庁 鹿児島県の原発事故に関する杜撰な態勢が浮き彫りとなった。
 今年2月の記者会見で、川内原発(鹿児島県薩摩川内市)に過酷事故があった場合の原子力災害対策重点区域(EPZ)の対象を、原発から半径20キロ圏にするとの方針を示していた伊藤祐一郎鹿児島県知事。「20キロ圏」という方針を示すまでの過程で積み上げられた議事録やデータを、HUNTERが県に情報公開請求したところ、1か月かけたあげく、文書不存在を通知してきた。
 県側は20キロについて、「公表していない」と強弁し、関連文書の存否を隠蔽する構えだったが、11日になって会見で知事が発言したEPZ「20キロ」の前提となる県独自の放射性物質の拡散シミュレーショ ンがなかったことを認めた。
 伊藤知事は、科学的根拠がないまま、EPZの対象区域を20キロに限定しようとしていたことになる。
 東日本大震災の発生から2年、福島第一原発の事故の教訓は生かされていない。

「20キロ」方針―会見で明言した伊藤知事
 発端は今年2月1日の伊藤知事の定例会見。原子力規制委員会が原発で事故が起きた場合に住民を避難させる放射線量を毎時500マイクロシーベルトとする基準案を公表したことを受けて、記者団から何度もEPZの対象区域について尋ねられた知事は、次のように答えていた。

放射性物質の拡散シミュレーショ ンを私どもなりにやりましても、まだまだこの基準(毎時500マイクロシーベルト)でも20キロ圏内に入るのです》。

《最終的に結論を出そうと思っていますが、今の科学的な知見等々で判断すると、20キロ圏で十分かと思いますので、計画上は20キロ圏を前提として、ただ一 方では30キロ等々のモニタリングや一旦SPEEDIをかけた時の、万が一、特に異常時というのがありますよね,平常時でなくて異常時の時にどうするか 等々を含めて、それを頭の中に入れた上で対応するということでいいと思いますし、そうなると一般的に20キロ圏の市町村については、市町村の避難計画を 作っていただくということになりましょうね》

《今、全体的な整理をしていますので、大体そういう方向で検討すればいいのかなと、全体の法体系がそういう形になりつつあるのかなと思いますし、先ほど言いました、そういった何かあった時の避難のやり方等々を含めて、鹿児島県の場合は、大体そういう形で全体をカバーできるのかなと思っていますが、ファイナルアンサーはもう少し検討したいと思います》。

 この後、20キロにするのか30キロにするのかについて何度も確認を求められた知事は、苛立ちを隠せなかったようで《同じことを聞かないでください。もう先ほど答えました》として質疑を打ち切っていた。

 会見では、知事がEPZの対象地域を「20キロ」にする方針で検討していることを明言しており、この時点で「公表」したのは紛れもない事実だ。さらに、《放射性物質の拡散シミュレーショ ンを私どもなりにやりましても》と発言しており、県独自で圏域について検証した結果であることを示唆していた。この場合、知事が言うシミュレーショ ンの結果などが残るのは言うまでもない。

放射性物質の拡散シミュレーショ ン不存在―県が認める
公文書不開示決定通知書 会見での発言を受けたHUNTERは、2月3日付けで、県に対し次の内容で情報公開請求を行った。

  • 鹿児島県知事が、原子力災害対策重点区域を原発から半径20キロ圏とする方針を公表するまでの過程に関するすべての文書(各種会議の議事録、各種データ、関係官庁などからの文書、九州電力から提出された文書を含む)。

 これに対し県は、1か月の開示決定期限ギリギリの3月5日付けで不開示決定を下し、HUNTERの記者に不開示決定通知を郵送してきた。この間、担当の県原子力安全対策課から、請求文書の内容についての問い合わせや確認は一切なかった。

 原子力安全対策課に抗議したところ、担当職員は「20キロ圏にすると公表したことがない」と強弁。今年2月1日の定例会見における伊藤知事の発言について指摘したが、データや議事録の存否を明らかにせず、「20キロ圏にすると公表したことがない」との言葉を繰り返すばかりとなった。

 何らかの理由で放射性物質拡散データや内部の検討結果を開示できないか、あるいは初めからないかのどちらかである。

 11日、再度の確認に対し、同課は20キロ圏との当初示した方針について、「公表していない」と繰り返した末、知事が会見で《私どもなりにやりまして》と話していた放射性物質の拡散シミュレーショ ンが、「存在していない」ことを明言した。知事発言は嘘だったと認めた形だ。

 放射性物質の拡散シミュレーショ ンも行わないまま、「やった」として当初20キロの方針を示した伊藤知事は、嘘をついてまで恣意的な決定を下そうとしていたことになる。同時に、鹿児島県が一連の事実関係を隠蔽したことは、住民に対する情報開示の重要性を知らせた福島第一原発の事故の教訓を無視したに等しい。

 不開示決定後の今月13日、県は川内原発から30キロ圏にある市町を対象にした防災説明会を開き、一転して原子力災害対策重点区域の範囲を「30キロにする」方針を示している。20キロの根拠を追及されて、方針を変えたと見られてもおかしくない格好だ。

 なお、鹿児島県の情報公開に対する姿勢をめぐっては、平成23年11月、HUNTERが行った産業廃棄物の管理型最終処分場「エコパークかごしま」(仮称)や、鹿児島市松陽台町の県営住宅に関する情報公開請求に対し、開示・不開示の決定自体を拒否するという前代未聞の「暴挙」に出て問題化したほか、昨年9月には請求をかけた記者に情報公開請求の内容を補正するよう強制する「命令書」を出すなど、恣意的な運用が続いている。



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