福岡市が民間企業に業務委託した都市認知度調査が、昨年8月から同市が始めたネット上の仮想行政区「カワイイ区」や、高島宗一郎市長が進めるシティプロモーションのアリバイ作りの一環で、その結果を意図的にねじ曲げ「市の認知度が低い」とする仮説の実証に利用している実態が明らかとなった。
同調査をめぐっては、市長の友人で市の顧問を務める会社社長・後山泰一氏が、完結していない調査データを持ち出して公表していたことや、関連文書の開示を求めたHUNTERの情報公開請求の内容を第三者に漏らすなど、守秘義務違反を繰り返していたことも分かっている。
業務委託された調査の内容
問題の認知度調査は、昨年12月に福岡市が民間業者に業務委託した「戦略的広報に関する調査」。市の公募に応じた7業者の中から、審査によって市内中央区のマーケティング専門会社が選ばれ、首都圏在住者などの福岡市に対する認知度と市民の意識を調べ、1月に速報を提出した後、2月に中間報告、3月に最終報告する予定となっている。
3ヶ月という短い期間での業務であるため、選ばれた業者が行っているのはインターネット上での調査。40項目程度の設問を用意し、自社でアプローチ可能な対象者に対し、シティプロモーション調査は首都圏、福岡市、九州圏でそれぞれ500の1,500サンプル、市民の意識調査では市内で1,500サンプルを集めるとしている。
しかし、サンプル数が少ないこととインターネット上での調査であるため、その精度には疑問が残る。さらに、5人体制で実施する調査に対し、契約金額はなんと約600万円。他の複数の業者に尋ねたところ、「しょせんネット上の調査。ノウハウさえあれば数十万円で実施可能」との答えが返ってくるほど、法外な金額だった。
結論ありきの可能性
じつはこの認知度調査、業務委託を行なうにあたって、あらかじめ結論が用意されていたふしがある。
先月31日に行われた「財団法人九州経済調査協会」(九経調)主催のセミナー『福岡市に見るシティプロモーションのいまーカワイイ区の先にあるもの』ので講演した市顧問の後山氏は、問題の認知度調査結果を紹介した折、次のように話していた。
「じつは、仮説を、カワイイ区を作る時に、本当は意外と福岡って、誰もあんまり知らないんじゃないかなと―。多分、みんな福岡のことを知ってるもんだという慢心があるんじゃないかなと―。福岡って九州の雄だし、みたいな変な自信があって、福岡のことをみんな知ってるっていう前提のもとにプロモーションとかしてないかな。そういうまず仮説的に自分達は違うんじゃないかなと思った」。
つまり後山氏は、『福岡の認知度は低い』という自分なりの仮説を前提に『カワイイ区』を立ち上げ、それを立証するために、問題の認知度調査を行わせたということになる。ムダな事業の継続に、アリバイが必要だったというわけだ。
ちなみに、後山氏がカワイイ区の立ち上げと方向性をリードしたことは、この話の続きでハッキリとする。
「いろんな人に話を聞くと、福岡の魅力は何ですか―ほとんどの女性男性に聞いて、まぁ、女性の人いらっしゃるんで、申し訳ないですね。みんなに聞いてくと、『カワイイ女の子、メシがうまい』これしか言われない。100人中80人ぐらいに言われ、1回、広報会議に行って、観光の人達と、カワイイ女の子とラーメンがいいんじゃないですかって言うと、それ、言い尽くされてますし、そんなことって誰も引きませんよ興味なんて、って言われてですね。あっ、これだ、こういう風な感覚を打ち壊さないと、やっぱり今あるのにアンチテーゼを作らないと、絶対ブランドにならない。だったら福岡にとってアンチテーゼ、でも、世の中にとってはあたり前、これを作っていこう。そん時にですね、このカワイイ区って言うのを作るきっかけになったんですね」。
このセミナーで、カワイイ区の発端は、高島市長と会談したAKB48の篠田麻里子氏の冗談だったという裏話を披露した後山氏だが、方向性を決めたのは自分だと言わんばかりの饒舌ぶりだ。
捻じ曲げられた調査結果
後山氏の講演内容からは、問題の調査結果(速報)の杜撰さと、データを都合のいいように使っていた実態が明らかとなる。
「福岡って場所を、地図上で指せた人って何人ぐらいいらっしゃると思いますか?・・・中略・・・じつは福岡って場所を指せた人は30%なんですね」(後山氏)。
福岡市への情報公開請求で開示された文書を前に、市広報戦略室に確認したところ、後山氏が話した「地図」とは次のものだという。
おそらく、この地図を見て、即座に福岡市の位置を示すことができる人は少ないのではないだろうか。何人かに見せて試してみたが、大半が首をかしげるといった結果だった。設定された質問が雑なため、回答結果に信頼を置くことができない内容なのだ。
そもそも、地図上で福岡市を示せるかどうかで、福岡市の認知度をはかるということ自体、あまりに乱暴なやり方である。同様に関東地方の白地図を提示して、首都圏在住者30人に横浜市の位置確認を求めたところ、正解者は2割にも満たなかった。
後山氏は、意味のない調査結果を持ち出し、ことさら福岡市の認知度が低いという印象を植え付けようとしただけのこと。詐欺的手法と言っても過言ではあるまい。
調査結果を捻じ曲げていることは、後山氏の言う「30%」という数字が、決して低くはないということが、速報の別のデータ(下に掲示)で証明されていることでも分かる。
前掲の地図上では、北九州市の位置は福岡以上に分かりやすい。ために認知度は40%程度あるのだが、示された八つの都市の中で、福岡市の29.6%という数字が北九州に次ぐ高いものであることが分かる。女性の認知度が低くなっているのも特徴だが、これは他の都市についても同様で、福岡市だけに限ったことではなかった。
後山氏は、セミナーにおける講演で資料を配れないのをいいことに、調査結果を自分の都合のいいように利用したのである。
業務委託の不透明さ―ちらつく電通の影
この認知度調査は、業者選定の段階から不透明さが際立っている。公募に応じた7者の提案を審査したのは、市内部に設置された「事業者選定委員会」なのだが、委員はわずかに3人。広報戦略室所属の課長2人に、なんと後山氏本人が加わっていた(下、参照)。お手盛りも、ここまで来れば犯罪の臭いさえする。
選定の結果、福岡市中央区のリサーチ専門会社との契約に至るのだが、この業者の代表は、電通との関係が極めて深い。
同社のホームページには、代表者の紹介で次のように記されている。
《 1987年より(株)電通リサーチ企画調査部に在籍 この間、(株9電通・(株)電通九州のマーケティングセクションと組み、主に定性調査(グループインタビュー)を担当》。
調べてみると、会社設立後も電通との取引が多いのが特徴だ。
カワイイ区の業務を福岡市から委託されているのは電通。しかも、初代区長となったAKB48の篠田氏の事務所が指定した契約だったことが明らかになっている。一連のカワイイ区がらみの契約に電通の影がちらつく形だ(下の文書参照)。
歪む福岡市政
二階建てバスに1億5,000万円、市役所改装に3億3,000万円、そしてシティプロモーション・・・。高島市政における都市戦略の軸となっているのは「観光」、多用されるのは「インターネット」である。
そのため、市長選挙前からの友人だという後山氏を市の顧問に据え、新設した広報戦略室を中心に市政運営を行っているのが実情だ。
その方向性についての是非は別稿に譲るとして、高島市長や顧問の思い込みを、現実のものにするため、税金を使ってムダな事業を行ない、さらには入手した調査結果をねじ曲げることが許されるとは思えない。
カワイイ区、そして認知度調査の失敗は(あえて失敗と述べておきたい)、高島市政の歪みが顕在化した結果である。