AKB48の篠田麻里子氏を初代区長に起用し、福岡市が昨年8月から始めたネット上の仮想行政区「カワイイ区」事業が、じつは高島宗一郎市長と会談した篠田氏の「冗談」に端を発したものだったことを、事業に携わってきた市の顧問が講演の中で話していたことが明らかとなった。
これまでの市側の説明や、記者発表で高島宗一郎市長と篠田氏が交わしたトーク内容ともまったく違う経緯。1,000万円もの税金を投入したカワイイ区事業が、じつは人気タレントと高島宗一郎市長のお遊びの延長だった可能性もあり、改めて市政運営のあり方に疑問を投げかけた格好だ。
これに関連して福岡市は19日、「カワイイ区」は男女差別を助長するものではないかといった4件の苦情申し出を受け、福岡市男女共同参画審議会で事業見直しの議論が進んでいることを理由に、篠田氏の区長退任を公表した。
市顧問―「ここだけの話ですが」
カワイイ区の発端について語ったのは、高島市長の友人で、福岡市広報戦略室の顧問を務める会社社長・後山泰一氏。発言自体は、先月31日に行われた「財団法人九州経済調査協会」(九経調)主催のセミナー『福岡市に見るシティプロモーションのいまーカワイイ区の先にあるもの』でのひとコマだった。
後山顧問は講演の中で、次のように述べている。
「たまたま、篠田麻里子さんと市長が会ってですね、たまたまそん時に、ここだけの話ですけどね、篠田麻里子がですよ、『橋本さんが区長を公募してますよね。私も区長になりたいですよ』ってね・・・。
後で話聞いて、『何言ってんだコイツ』とね、思ったんです。けど、その時に、彼女もともと福岡出身なんで、福岡に友達がすごく多いらしいんです。若い友達がいて、福岡に居ても夢がないって言ってみんな東京に来ちゃうらしいんです。
で、福岡を夢のある街にして下さいよって・・・。若い人達が楽しくて夢のある街にしていって、もっともっと福岡のこと知らせたらいいですよって。
それで、冗談で、カワイクなれるし、福岡の女の人達カワイイし、カワイクなれるカワイイ区でいいんじゃないですかっていう会話があった」。
3,000円のセミナー料金を支払った参加者だけに、《ここだけの話ですけど》と断った上、《私も区長になりたいですよ》という篠田氏の言葉、さらには《冗談で》出たカワイイ区の話が実現したとする後山氏の講演内容が事実なら、タレントと市長の冗談話―しかも、《私も区長になりたいですよ》という篠田氏の甘えに1,000万円の公費が投じられたということになる。
カワイイ区に関し、シティプロモーションだの都市戦略だのと、高尚な話をしてきた高島市長だが、実際はこの程度のレベルだったというわけだ。
この話の後、後山氏は、昨日報じた市内部から持ち出した作業途中の都市認知度調査結果を披露、次いで『佐賀がカワイイ区って言っても、多分、佐賀だったらカワイイ区、イメージつかないと思うんですよね』という暴言を吐いていた。
食い違うカワイイ区の発端
福岡市はこれまで、カワイイ区事業を始めたきっかけについて、篠田氏側から市秘書課に、「高島市長に会いたい」という連絡があり、昨年3月18日の日曜日に市役所内で会談が実現。高島市長と篠田氏の会話が弾み、福岡をファッションで盛り上げたいという話題から「カワイイ区」の実現が提案されたと説明してきた。
提案したのが篠田氏であることを市側も認めていたが、後山氏の講演での話には《福岡をファッションで盛り上げたい》などという市側の説明にある経緯は一切出てこない。
昨年8月に東京都内で行なわれたカワイイ区長に就任した篠田氏への辞令交付式では、カワイイ区事業の業務を市から委託された「電通」のシナリオに従って、市長と篠田氏の間で次のようなトークが交わされていた。
トークでは、篠田氏の友人から、篠田氏自身が『福岡で輝いて欲しい』と言われたことになっているが、後山氏が講演で披露したのは《彼女もともと福岡出身なんで、福岡に友達がすごく多いらしいんです。若い友達がいて、福岡に居ても夢がないって言ってみんな東京に来ちゃうらしいんです。
で、福岡を夢のある街にして下さいよって・・・。若い人達が楽しくて夢のある街にしていって、もっともっと福岡のこと知らせたらいいですよって》という内容。
また、《福岡に居ても夢がないって言ってみんな東京に来ちゃう》はずの友人が、トークでは『福岡のことが大好きな素敵な友人』になっており、カワイイ区の発端話はまるで違うものになっている。
どれが本当の発端話か分からないという状況は、それだけで福岡市が税金を投入した事業に正当性、公平性がなかったことを意味している。事業経過が不透明なのが高島市政の特徴とはいえ、市民生活を守るための税金が、これほど安易な理由で費消されていいはずがない。
AKB篠田氏の無責任
昨日のHUNTERの報道が配信された直後、福岡市はホームページ上の「カワイイ区」のサイトに、篠田氏の区長退任を公表する記述を掲載している。
《福岡市男女共同参画審議会では、現在、「カワイイ区は男女差別を助長するものではないか」など4件の苦情申し出を受けた議論が行われています。
このカワイイ区の意義や魅力、事業の目的を十分に伝えきれていなかったことは非常に残念なことと考えています。
カワイイ区 = 篠田麻里子さんというイメージが定着した中、カワイイ区に関するこのような議論と直接関係のない篠田麻里子さんに、これ以上ご迷惑をかけるわけにはいかないとの判断から、本日をもって区長をご退任いただくことになりました。
後任の区長につきましては、早急に選考を進めるとともに、福岡市カワイイ区は、これまで以上に、福岡の魅力や特性を発信し、交流人口の拡大や産業振興などにつながる事業に取り組んでいきます》。
まったくおかしな話で、篠田さんに迷惑をかけないために区長を退任してもらったと述べながら、次の区長を早急に選任するのだという。それでは、次の区長には迷惑がかからないとでもいうのだろうか?
そもそも、市顧問であり、講演でカワイイ区は「私がやった」と言わんばかりの自慢話を披露していた後山氏によれば、先に『区長になりたい』と言ったのは篠田氏の方だったことになっている。市内部の審議会で事業継続の是非が話し合われているとはいえ、迷惑をかけるから退任してもらった、などというのでは筋が通らない。事業の言いだしっぺが篠田氏なら、彼女に最後まで責任を持たせるべきだろう。税金を投入した事業の重要性を、人気に浮かれたタレントにしっかりと自覚させたほうがいい。
責任といえば、篠田氏及びカワイイ区の事業を業務委託された電通が、約束や契約を守っていないことが分かっている。
右の文書は、福岡市と電通がカワイイ区に関する業務委託契約を結んだ折の「仕様書」だが、カワイイ区長である篠田氏が、市主催のイベントに3回程度出演する予定だったことが明記してある。写真・動画撮影は4回だ。市側もこれまで、市主催イベントに篠田氏が3回程度参加すると説明してきているが、確認したところ、篠田氏がカワイイ区がらみのイベントに参加した事実はないという。
18日、事業を所管する市広報戦略室広報戦略課に、契約違反ではないかと確認を求めたが、押し黙ったまま、回答するそぶりさえ見せなかった。ここでも人気タレントの無責任ぶりは明らかだ。
疑惑、さらに拡大
くしくも同日、市は篠田氏の区長解任を決めたとしているが、この日はHUNTERが市に対し行なっていた情報公開請求の開示日だった。請求したのは「福岡市の認知度調査に関するすべての文書」。同調査が、カワイイ区事業継続の前提となるアリバイを得るためのインチキ調査だったことは、今週末からの配信記事で明らかにしていくが、この情報公開請求をめぐって、件の後山泰一福岡市顧問がとんでもない行為に走っていたことが判明している。
*お断り:本日の配信を予告しておりました福岡市の認知度調査に関する記事は、22日からの配信とさせていただきます。市は依然としてこの「子どもの遊び」(市職員)=カワイイ区を継続する構えですが、前提となる都市認知度が、作為的に「低い」と評価されている実態を明らかにしていきます。