鹿児島県指宿市で、陽子線を利用した「がん粒子線治療研究センター」を運営している『メディポリス医学研究財団』が、事前に公表された金額をはるかに上回る借入れを行っていたことが明らかとなった。
その総額は70億円。同財団の事業を所管する鹿児島県は、借入れの趣旨や経営実態について分からないと話しており、すでに約53億円の公費が投入され、さらに7億円の補助金が支出される予定の同財団に、不透明感が増した形だ。
メディポリスをめぐる事業資金の動き
同財団は、鹿児島市に本社を置き、前臨床といわれる薬の動物実験を主業務とする新日本科学が中心となって平成18年に設立された。
同社が取得した旧・グリンーピア指宿の施設と広大な敷地を利用し、鹿児島県などと協同し「メディポリス構想」と呼ばれる総合的医療健康都市を目指すのが目的だ。
中核施設となっているのは「がん粒子線治療研究センター」。陽子線を使ったがん治療施設で、運営する財団には予定分も含めて60億円の公費が投入されている。
同財団のホームページに記された、108億円とされる「がん粒子線治療研究センター」にかかる事業資金についての詳しい説明をまとめると次のようになる。
【会見での知事発言】
《全体の事業費が、100億前後の事業だったかと思いますが、国からの補助金が約24億。それと相応するような金額を鹿児島県としては何らかの形でお手伝いするというのが、全体のフレームです。そして残りは、このメディポリスを実質的に経営しておられる永田さんが、自分の私財産を全部、一括して担保に入れることによって資金調達をした、そういう事業であります》。
シンジケートローン借入れ額は40億円と公表
平成21年4月23日、財団は鹿児島銀行を中心とする金融団とシンジケートローンの契約を締結することを公表していた。発表文書にはこうある。
《当財団では平成23年4月開業に向けて進めております、「がん粒子線治療研究センター」設立の事業費の内、40億円の融資を株式会社鹿児島銀行をはじめとする合計7金融機関のシンジケート団からお受けする運びとなり、本日、契約締結の合意に至りました。
本契約締結に伴う資金調達枠の確保により、総合医療都市『メディポリス指宿』構想の中核を成す「がん粒子線治療研究センター」開業に向けた事業推進の安定化が図られ、当財団が標榜する「南九州から“光”を放つ医療」の実現に向けた着実な前進が遂げられるものと考えております》。
前述した財団公表の事業資金の組み立てでは、公的な補助や貸付、寄附などによって58億4,000万円をまかなうことになっている。これに銀行団からの借入40億円を加えると、集まる資金は98億4,000万円だ。これに前述した乳がん研究への補助金(11億円)を加えると、108億円を越える資金が財団に入ることになる。
予定された事業資金は108億円。十分に財団運営ができるはずだが、実際には齟齬が生じていた。
長期借入れ金は70億円に増大
HUNTERが鹿児島県に情報公開請求して入手した財団の財務資料によれば、『長期借入金』の推移が明らかとなる。
平成21年1月から同22年3月までの長期借入金は32億5,000万円。これが平成23年度になると61億円となり、24年度では70億円にまで膨らんでいた。この年、新たに鹿児島銀行から9億円を借入れていたのである(右の文書参照。赤いアンダーラインと矢印はHUNTER編集部)。
公的融資の総額が19億円であることから、金融機関からの借入は51億円に上っている勘定だ。シンジケートローンによる借入れ額は40億円だったはずで、11億円も多く借入れを起こしたことになる。明らかに事業が行き詰まった証左だ。
公表されてきた事業資金、とくに借入れ額が大きく膨らんでいることについて、県側に見解を求めたが、こともなげに「財団の運営については詳しいことを知る立場にない」と言う。60億円もの公費を投じる事業で、これほどむ無責任な話はあるまい。
平成23年度における9億円の借入れは、資金ショートの結果であると見るのが自然だ。つまり、計画が破綻しかかっていたと言っても過言ではなく、県民への説明責任があるのは言うまでもない。知っていて隠しているのか、あるいはまったくノーチェックなのかのどちらかなのだ。
狂った収支予測
おかしな点はまだある。財団の中核施設は陽子線を使った「がん粒子線治療研究センター」のはずだが、財務資料を見ると、もっとも収入を得ているのは、同財団傘下の「シーピーシー治験病院」という臨床試験専門施設なのだ。
上記の平成23年度における収支計算書(赤いアンダーラインはHUNTER編集部)によれば、シーピーシー治験病院の収入が13億5,400万円であるのに対し、がんセンターの収入は6億7,900万円あまりにとどまっている。
今年1月の時点でがんセンターの治療症例実績は499人。稼働開始は平成23年4月なので、これが1年10ヶ月間(22ヶ月)の実績とするなら、予定の患者数を大幅に下回っている計算になる。
がん粒子線治療研究センターは、年間500人程度の治療を目標としていた。治療には保険が適応されないため、すべて自己負担となるが、その額は1回の治療で約290万円。年間500人のがん患者が治療を受けたとして、500人×290万円=14億5,000万円の収入が見込まれることになる。しかし、22ヶ月間で499人の治療実績は、想定の半数程度でしかなく、収支に狂いが生じるのは当然なのだ。
このため、予定になかった9億円の借入れを起こしたと見られるが、シーピーシー治験病院の収入がなければ、事態はさらに深刻化していたことになる。
収入の柱は人体実験
問題は稼ぎ頭の「シーピーシー治験病院」(右の写真)の業務内容である。同病院は、平成5年に治験専門施設「シーピーシークリニック」としてスタートし、平成14年に「医療法人幸良会」を設立。平成21年のメディポリス医学研究財団発足に伴い、基本財産として4,000万円を寄付し、幸良会を解散し てメディポリス内の一機関となっている。
医薬品や医薬部外品の製造・販売にあたっては、動物を使った前臨床試験を経た後、人体における臨床試験(治験)が求められる。シーピーシー治験病院はこの「治験」を専門とする施設なのだ。治験といえば聞こえはいいが、人体実験であることは間違いない。
シーピーシー治験病院に関しては、多数の中国人を含む外国からの留学生を高額な謝礼で勧誘し、薬剤の治験を行っていことが明らかとなっており、昨年12月に詳細を報じていた(参照記事⇒『鹿児島・メディポリス関連病院 外国人留学生に人体実験 』・『鹿児島・メディポリスの人体実験 留学生の証言 』)。
深まる闇
メディポリスをめぐっては、その敷地内に動物実験用のサルを大量に飼育したり、財団の中核企業「新日本科学」に動物虐待や前臨床試験のデータ改ざん疑惑が持ち上がるなど、倫理観が問われる事態となっている。不透明感を増す財務内容と合わせ、メディポリスの闇は深まるばかりだ。
ちなみに、財団理事長で新日本科学の代表でもある永田良一氏は、伊藤鹿児島県知事側に対し、計200万円の政治資金を提供していた人物である。