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踏みにじられる住民の声
土建国家の象徴―鹿児島・県営住宅問題

2013年2月 4日 09:05

 地方分権を否定する政治家など、どこを探してもいないといった状況の昨今。地方のことは地方で決めるという理想の基本は「住民の意思」にあるはずなのだが、自治体トップが独裁に走った場合には、中央集権以上にタチの悪い結果をもたらしてしまうことがある。
 その典型が鹿児島県で、尊重されるべき住民の意思が無視され、薩摩川内市では産廃の最終処分場建設をめぐり地域社会そのものを崩壊させたケースもある。
 伊藤祐一郎知事の号令一下、巨額な公費を投入して、最終処分場建設や運営状況が不透明な財団(指宿市・メディポリス医学研究財団)への助成がまかり通っている同県だが、こうした愚行のひとつに、鹿児島市松陽台町に計画される県営住宅増設がある。
 県、さらには身近な市までが住民の声を踏みにじる現実を追った。(写真は鹿児島市役所)

計画失敗を糊塗するために県営住宅
 「ガーデンヒルズ松陽台」は、平成15年に鹿児島県県住宅供給公社が販売を開始した住宅団地だ。「商業施設ができます」などといった嘘八百の勧誘文句を並べて、約11haの予定地に戸建用地470区画を販売する計画だったが、売れたのは170区画程度(平成23年2月までの実績)。売れ残りは公社の経営を圧迫する。

土地.jpg そこで浮上したのが「店舗等用地」などと説明してきた3区画の土地に加え、ガーデンヒルズ松陽台で最大の面積を占める区画約5.6 ha(右の写真)を、すべて「県営住宅」にしてしまおうというものだった。
 税金投入で公社の穴埋めを行うというじつに安易な発想だが、驚いたのは松陽台の住民。県や住宅供給公社からは事前に何の相談もなく、いきなりの記者発表だったため、反対運動を開始し、県や鹿児島市に陳情や要請を繰り返してきた。

 住民の声など一顧だにしない伊藤知事だが、松陽台で県営住宅を増設するためには鹿児島市の都市計画を変更する必要がある。そのため地元住民らは市に対し、都市計画変更を思いとどまるよう、必至の運動を展開してきた。県と対峙しながら、同時に身近な市にも運動を続けるという2正面での活動を強いられてきたわけで、関係者らの疲労の色も濃い。

強引な都市計画変更 
 鹿児島市の都市計画変更にともなう、これまでの動きをまとめた。

【平成23年】
4月30日 松陽台住民が鹿児島市長宛あてに県営住宅増設計画反対の要望書提出
12月19日 鹿児島市長宛に2度目の要望書提出(県議会あての反対署名添付:反対111世帯、84.2%)


【平成24年】
6月 4日 県住宅供給公社が地区計画変更案を鹿児島市に提出
同月11日 県および公社職員が計画案を記した文書配布
7月11日 鹿児島市長・鹿児島市議会あてに、地区計画変更案に反対する陳情書提出
10月13日 鹿児島市都市計画課より一方的に市側説明会開催の通知
同月22日 松陽台住民が鹿児島市に計画反対と住民説明会延期を直訴(国交省からの出向副市長が、
その場で要請を拒否。『住民代表の町内会長を『エゴだ』と批判。
同月27日 松陽高校で都市計画変更にともなう住民説明会開催。同日付けで近隣町内会の代表らが、
鹿児島市長への再度の要望書提出
11月4日 鹿児島市議会・建設委員会が反対陳情を審査(1月までの継続審査となる)
同月27日 ガーデンヒルズ松陽台地区計画の市原案の縦覧(12月11まで)
12月17日 松陽台町内会長が市に計画反対の意見書提出
同月29日 鹿児島市都市計画課から意見書への回答


【平成25年】 
1月 7日 ガーデンヒルズ松陽台地区計画の市原案の縦覧(2回目・21日まで)
同月21日 松陽台町町内会長が市に計画反対の意見書提出
(町内会の98 .6%にあたる138 世帯が意見書に賛同)
同月29日 市都市計画審議会にて、県の松陽台地区計画変更案承認
2月 4日 鹿児島市議会で地区計画反対陳情の審査予定

 昨年、HUNTERの取材に応じた鹿児島市都市計画課は、住民への説明会実施後、市原案の作成→市原案の縦覧→市案策定→2度目の縦覧→都市計画審議会の開催→都市計画の正式変更と、予定通りに作業を進めることを明言。今年度中に市としての作業を終わらせる構えを示していた。
 そして、その通りにことは進み、市側が住民とじっくり向き合うことはなかった。開かれた説明会などはアリバイ作りの場でしかなく、住民側の質問や異議にはまともな答えを出していないのだ。

届くか住民の声―きょう市議会で陳情審査 
 松陽台に住むある主婦が、HUNTERの取材に応えて次のように話してくれた。

旗.jpg 「私たちの住む松陽台町には、住民が気軽に集まれる集会施設が1つもありません。『今は無くても将来は出来る』と県住宅供給公社は説明してきましたが、その予定地に県営集合住宅ができると聞いて、驚きと憤りを感じています。
 東日本大震災以降、人々の絆が叫ばれている中、どうやって新興住宅地に絆が生まれるのでしょう。価値観の多様化が進み、町内会加入世帯率が減り、近所づきあいも希薄になった今日、みんなで集まれる施設を望む声が高まるのは当然でしょう。
 行政は、子ども会の活動がどれだけ大変かご存知でしょうか。毎回自宅から約3km離れた小学校体育館、教室を借りて行なってるんです。参加者や協力者も当然少なく、これでどうやって絆を育み、子どもを守れと言うのでしょうか。
 これから20年後、30年後、この地域でも否応なく高齢化が進みます。住宅しか存在しない地域が、果たして幸せな街でしょうか。
 店舗、公共機関、金融機関、医療機関など一切なく、子育てを含め、社会環境が整っていないのです。
 土地を売る時には、そうした施設を整備すると言っておきながら、都合が悪くなると空き地は全部県営住宅にして失政を隠そうと言うわけですよね。そのうえ県や市は、説明や計画撤回を求める私たちの声も、まったく聞き入れようとしませんでした。
 これでは住民主権など実現できるはずがありません。口先だけ地方分権などと言っていますが、知事や市長の権限強化に過ぎないんじゃないでしょうか。絶対に許せない」。

 県住宅供給公社の甘言に乗せられ戸建用地を購入した住民は、詐欺的商法に引っ掛かっただけでなく、十分な説明と計画見直しを求める声さえ満足に聞いてもらうことができない状況なのである。

 鹿児島市議会に対しては、昨年7月に松陽台住民らが地区計画変更案に反対する陳情書を提出していた。しかし、鹿児島市は、この陳情が継続審査となっていたのをいいことに、先月29日、都市計画審議会を開き、県の松陽台地区計画変更案を承認している。議会軽視もはなはだしい市政運営だが、4日、改めて市議会で陳情書の審査が行われる予定だ。
 住民にもっとも近い存在の市議会が、どのような答えを出すか注目ではあるが・・・。



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