福岡県情報公開審査会の会長が、九州電力の顧問弁護士を務めており、数々の訴訟において同社の代理人を務めていたことが判明した。
情報公開に関する議論の中で、九電がらみの審議自体には参加していないものの、審査会そのものの在り方に疑問を抱かざるを得ない状況だ。
県情報公開審査会は昨年11月、HUNTERが提起した原発安全協定に関する公文書非開示への異議申し立てに対し、県の隠蔽姿勢を追認する結論を出していた。
情報公開審査会への疑問
県情報公開審査会は、福岡県情報公開条例の規定に基づき設置された機関で、地方自治および情報公開制度に関して優れた識見を有する者のうちから知事が委嘱することになっている。審査会を構成する委員は7名で、任期は2年だ。
これまでHUNTERでは、原発安全協定に関する情報公開で、議事録などの関連文書を非開示にした県や、その決定を追認した審査会の判断を厳しく批判してきた。九電擁護のため隠蔽姿勢を鮮明にする県、ろくに調べもせずに県側の主張を安易に追認する審査会・・・。県民の知る権利が守られているとは思えない。
知事の後援会長が九電の前会長であるため、県の役人が九電に不利な事態を招くようなことをするはずがない。これは容易に想像がつく。しかし、情報公開の在り方を正す役目の県情報公開審査会までが、あからさまに九電寄りの姿勢をとったことは、どうにも不可解だ。
審査会の議論経過を確認するため、別途、審査会の議事録などを開示請求していたが、問題の答申が出るまでの審議状況を県のホームページで確認したところ、奇妙な事実があることに気付いた。
審査会会長は九電の顧問弁護士
下は、HUNTERの異議申立てを審議するため、昨年9月24日に県情報公開審査会が開催された時の記録だ。
出席した審査会会長に、「(事案の審査を除く)」と付記されている(赤いアンダーラインはHUNTER編集部)。
その他の審議状況も確認したところ、3 月26 日、4 月23 日、5 月28 日、7 月23日、8 月27日の計5回、会長が審査から外れている。
審議事案の名称はいずれも『警備計画の部分開示決定に対する審査請求』となっており、調べてみると、原発反対のデモにおける県警の警備計画に関する県公安委員会の非開示決定に対する審査請求だった。
つまり、九電がらみの審議のみ、審査会の会長を除外していたということだ。前述の9月24日の審議を加えると、昨年だけで6回になる。
審査会の会長は、福岡県弁護士会所属の松崎隆弁護士。県弁護士会会長や日本弁護士連合会副会長などを歴任してきた大物弁護士である。
なぜこれほどの経歴を持つ情報公開審査会のトップが、九電がらみの審議から外れたのか。県の情報公開担当に確認したところ、「過去に九電の代理人を務めていたためと聞いています」という回答が返ってきた。
この段階で松崎弁護士本人に話を聞いたが、九電の代理人を務めていたのは事実で、現在も同社の関係する訴訟で代理人になっているのだという。念のため、九電の“顧問弁護士”ではないかと尋ねてみると、やはりそうだった。
松崎弁護士の事務所のホームページを見ると、以下の訴訟で代理人を務めていたことが明記してある。
裁判史に残るような大型訴訟に関わっているが、いずれも企業側の代理人としてである。上記の訴訟に限っては、少数意見や弱者の代弁者ではなく、権力側の味方という見方もできる。どうにも情報公開審査会のあるべき性格になじまない。
問われる審査会の現状
情報公開請求制度における異議申立てや審査請求は、行政の隠蔽姿勢に対し、住民側に保障された唯一の対抗手段だ。そして、情報公開審査会は、異議申立てや審査請求を住民の立場から審議し、制度を活性化させると同時に、住民の知る権利を守るために設置される機関である。そうでなければ設置された意味がない。
ところが、現在の県情報公開審査会の現状を見ると、九電の顧問弁護士がトップである。松崎弁護士は、九電関連の審議については会議室から退席したことを明言しているが、審議結果に何らかの影響を与えたのではないかとの疑念を抱かれてもおかしくない格好だ。
何より、九電がらみの情報公開関連案件で、情報公開審査会の会長が毎回審議から外れる状況は決して好ましいことではあるまい。現に、昨年9月24日の審議では、他の委員一人が所要で欠席したことに加え松崎弁護士が審議から外れたため、たった5人で会議を行っている。
昨年1年間で、県情報公開審査会が出した答申は5件。そのうち九電がらみの審議が3件を占めるが、いずれも県側の主張を追認しており、同社寄りの結論と言っても過言ではない。もはや“李下に冠”という隣国の故事をひもとく必要もないだろう。
市民オンブズマン福岡・児嶋研二代表幹事のコメント
半年、1年はあたり前といわれる情報公開審査会の答申までの期間、さらには九電の顧問弁護士が審査会のトップを務める現状について、市民オンブズマン福岡の児嶋研二代表幹事は次のように話している。
「情報公開審査会の動きには疑問が多い。異議申立てから半年という今回のケースは珍しいものではなく、ずいぶん以前のことだが、私たち市民オンブズマン福岡も、異議申立てをしてから2年間以上棚上げにされたことがあった。
もともと情報公開審査会は、住民の権利を守るための機関のはずだ。しかし、審議に時間がかかり過ぎることは問題で、役割を果たしているのか疑問。
九電の顧問弁護士が審査会のトップであることも、県民からの疑念を招く可能性が高く、好ましい状況とは言えない。審議には参加していないはずだが、それなら答申を出した時点で、きちんと申立人に経過を明らかにすべきだろう」。
原発安全協定が締結されるまでの過程は、福岡県の隠蔽によって明かされないままだ。住民の声を受け、知る権利を守るための情報公開審査会も機能していない。
原子力行政に関する国や地方自治体、そして電力会社への不信が拭われぬまま、原発再稼働への動きだけが加速していく。