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西日本新聞の選挙妨害(下)
―記者の背後に自民党の影―

2012年12月27日 12:10

 選挙用のビラに小川洋福岡県知事とのツーショット写真を使用したことで、西日本新聞から選挙妨害に等しい記事の洗礼を受けた福岡7区の民主前職・野田国義氏陣営。
 親密な関係を築いていたはずの小川知事側からも裏切られた形となったが、野田陣営の反撃は早かった。
 記事が出た今月8日のうちには、同紙に法的な対応を視野に入れるとした厳しい抗議文を送付、さらに知事側にも真意を質していた。
 たまたま問題の記事について取材に訪れていたHUNTERの記者は、それから数日間、野田氏陣営と小川知事側、さらには西日本新聞とのやり取りの模様を確認。一連の流れを正確につかんでいた。
 結論は、新聞による選挙妨害。しかも、相手陣営(自民党)にそそのかされた結果である可能性が高い。
(右は、今月8日の西日本新聞の記事)

公選法上の問題点
 野田氏陣営には、西日本新聞が選挙用ビラの問題を報じた8日早朝から記事の内容についての問い合わせ電話が相次いだという。同紙側がどう言い訳しようと、記事が選挙に影響を与えたことは事実なのだ。

 陣営側は、同日午前に事実関係を整理し、弁護士などの意見を聞いた上で抗議文をまとめ、FAXと郵送で西日本新聞に送付していた。抗議内容は昨日報じた通りだが、法的措置を視野に入れていることを明記したものだった。

 公職選挙法は、新聞や雑誌が虚偽の事項を記載したり、事実を歪曲して記載するなど表現の自由を濫用して選挙の公正を害することを禁じており、違反した場合は、その新聞や雑誌の編集を実際に担当した者および経営者を、2年以下の禁錮または30万円以下の罰金に処すると規定している。
 西日本新聞の報道内容に、《虚偽の事項》や《事実の歪曲》があった場合は、法に触れるということになるのだ。

 問題の記事は、野田氏陣営が知事とのツーショット写真を使ったことについて「無断」であることをことさら強調。知事側から野田氏側への抗議文書送付や『遺憾』であるとの知事側コメントを補強材料としている。

 一方、野田氏陣営は、前稿で記した通り一貫してツーショット写真の性格や使用履歴について「問題ない」とする見解を示しており、取材した2人の西日本新聞記者に対しても「使用の許可を求める必要がない写真」であることを再三話している。

 署名記事を書いた記者とのやり取りでも、それは明らかだ。

 西日本記者:知事との写真を法定ビラに使われていますが、知事の許可を取っていないことは間違いないんでしょうか?
 陣営担当者:無断と言われれば無断でしょうが、少し違いますよね。何度も説明しましたが、断る必要のない写真なんですよ。そのことはさっきの記者さんにも説明したと言ってるじゃないですか。

 しかし、8日朝刊の記事では、陣営側の『無断と言われれば無断でしょうが』の部分だけを利用する形で《知事側の了解を得ていなかったことを認めた上で》という記事の記述の裏づけにされている。陣営側の『断る必要のない写真』、『使用の許可を求める必要がない写真』といった説明はどこにも出てこない。
 西日本新聞は、意図的に、記事の狙いを弱める陣営側の主張を省いたのである。
 これが公平・公正を謳う新聞のやることなのだろうか。

逃げた西日本新聞
 同紙のお粗末さは、記事作成の過程で野田氏陣営に強要まがいの取材を行っておきながら、自社に向けられた陣営からの抗議文に対して何の回答もしなかったことだ。

 野田氏陣営の担当者は、抗議文を送ったのち、日を置いて2度も抗議文に対する西日本側の見解を求めていた。
 これに対し同紙は、社内で調査中、あるいは改めて記事にするなどと曖昧な対応に終始。業を煮やした野田氏陣営が文書での回答を求めたが、いまだに同紙の回答や見解は返ってこないという。
 他者には平然と刃を向けるが、自分達に危険が迫れば逃げ出す新聞社なのである。

狂ったシナリオ
 知事の事務所が、野田氏の事務所に電話を入れてきたのは7日夕。知事の後援会事務所長は、なぜか野田氏陣営の“所長”を呼び出したというが、このふたりは面識もなく、電話で話したこともないのだという。

 そもそも、野田氏陣営で「所長」と呼ばれている人物は、ボランティアで事務所を手伝っているだけで常駐しているわけでもない。今回の選挙戦における権限など一切なかったというのが実態だ。

 確認したところ、知事の事務所が「所長」に電話を入れてきた7日夕に電話を受けた野田氏の事務所スタッフは、「小川事務所」と名乗る電話が、まさか知事の事務所からとは思わなかったという。
 とりあえず「所長」と連絡を取ろうとしたのだそうだが、なかなかつかまらず、数十分遅れての対応となっていた。

 野田氏の事務所スタッフは困惑気味にこう語る。
「電話は、てっきり小川さんという方の事務所にいらっしゃる『所長』の友人からだと思っていました。それで連絡を取ったんですが・・・」。
 仕掛けた側”のシナリオに、狂いが生じていたのであるが、そのため、西日本新聞の動きがおかしなものになっていく。

 知事側と「所長」との話がどのような内容のものだったのか誰も知らされていないうちに、西日本新聞八女支局の記者が早くもビラ問題の取材に訪れていたのである。
 ただし、この段階でも「所長」には「知事の事務所が文書を送ったそうです」という程度の認識しかなかった。

 強気でコメントを求める西日本の記者に、事実関係が不明だとして野田氏陣営が回答を拒否したのは当然のことで、《事実関係がはっきりしているからコメントしろとの傲慢な姿勢に終始》、《『それで済むのか』と強要に近い言動が続いた》(野田氏側が西日本新聞に送付した抗議文より)という野田氏側の同紙に対する抗議は、以上のような経過を踏まえたものだった。

 それではなぜ、西日本新聞はすばやく動けたのか?ヒントは、野田氏陣営の担当者と西日本新聞記者とのやりとりに隠されていた。

背後に自民党 
 陣営担当者の、「あなたの社の記者は、一体誰から知事側の話を聞いたのか。知事本人か、それとも知事の事務所か。こちらが事実関係をまったく把握していないなかで、それも明示せずにコメントしろと迫るのは傲慢ではないか。『うちの者』は誰からの示唆で動いたのか?」との問に、西日本新聞の記者は何も答えていない。

 何度聞いてもこの点については答えなかったというが、その後の取材で、西日本新聞の県政担当記者が情報を得たのは、自民党県議団からだったということが分かってきた。

 つまり、自民党側が野田氏の選挙用ビラの問題点を県政記者クラブ所属の記者に示唆し、知事側および野田氏陣営に取材するよう仕向けたということになる。
 これに飛びついたのが西日本新聞の記者だけで、他紙は一切報じることがなかったというわけだが、動きの早さから見て、自民の一部と西日本新聞の共同作業だった疑いが濃い。
 HUNTERが、西日本新聞の記者を「権力の犬」と断じる所以である。

不可解だった知事側の動き
 写真を無断で使われたとして野田氏側に抗議したとする知事側の対応も不可解だった。

 野田氏側は、記事が掲載された8日の段階で知事の後援会事務所に電話し、これまでの経緯を確認のうえ真意を問い質したが、その内容は次のよなものだった。

  • 知事側が対応した「所長」は、ボランティアの代表の形で手伝いに来ているが、選挙に関する権限を有していない。今後の対応は前政策秘書が行う。
  • 問題の写真は、福岡県知事選挙において民主党が小川洋知事を推薦すると決し、推薦状を交付した時に、関係者はもちろん、マスコミ各社も立会した場所で撮影されたものであり、本件写真について、小川知事側から使用目的などを限定されたことはなく、むしろ広く頒布する目的を持った印刷物等に使用されることを、知事自身が承知していたはず。
  • これまで野田氏は、知事が国に陳情を行う場合は、その段取りから案内までの一切を担当してきており、何度も同じ時間を共有し、ビラにある県南地域の振興はもちろん、福岡県の未来について様々な形で意見交換し、深い信頼関係を築いてきたはず。
  • この時期に、抗議だのビラの回収だのという申し入れをされるのは、選挙妨害と見なすが良いか?

 この問答で知事側の真意が確認できなかったため、野田陣営は事態を静観する。

小川知事からの電報 知事側は、県議会の一般質問で自民党の桐明和久議員(八女市選出)がビラ問題について質問する12日の直前(11日)になって、再び野田氏側に文書を送付している。
 しかし、1度目も2度目も抗議の意思表示はあるものの同じ内容で、「申し入れ書」となっていた。あて先は、権限がなく対応できないことを確認していたはずの「所長」となっており、知事側の苦しい状況がうかがい知れる。

 自民党サイドから特定候補への支援を咎められた知事は、やむなく抗議の意思表示をしたということだろう。県議会での答弁も、これに沿ったものだった。

 ただ、知事も自民党も、そして西日本新聞も重要なことを見逃している。
 知事は、多くの衆院選立候補者に対し、「為書き」と呼ばれるポスター状の必勝祈念(選挙事務所にズラリと並ぶ「祈必勝」と大書されたもの)を届けており、野田氏の事務所にもそれが掲示されていた。さらに、野田氏の出陣式当日には、右のメッセージ電報も届けられていたのである。

 知事が野田氏を応援していたことは事実で、野田氏が知事とのツーショット写真を使用したことで、特定候補の支援をしたとして咎められることはあるまい。

 西日本新聞の8日朝刊の記事は、野田氏の選挙が不利になることを見越した、選挙妨害以外の何ものでもない。
 自民党側と意を通じた記事であったとするなら、ことは重大である。



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