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西日本新聞の選挙妨害(上)
―蠢く「権力の犬」―

2012年12月25日 09:30

 選挙期間中、大半の新聞・テレビは立候補者が不利になるような報道を見送るのが通例だ。
 選挙結果に影響を与え、候補者側から訴えられることを避けたいがための防衛策に過ぎないのだが、16日に投・開票が行われた総選挙期間中、候補者の実名を出してそれこそ選挙結果を左右しかねない記事を掲載した新聞社があった。九州地区を主地盤とする西日本新聞である。
 記事は、民主前職が県知事との写真を「無断掲載」したとの内容で、見出しに候補者名を明記する念の入れよう。だが、候補者側には何の違法性もなく、他紙が記事化を見送った話だった。
 取材してみると、記者が県政界の一部とつながり、民主前職を窮地に陥れることに手を貸したとしか思えない実態が浮かび上がってきた。

「無断掲載」強調の実名報道
西日本新聞 12月8日朝刊より 総選挙期間中の今月8日、西日本新聞朝刊の社会面に、「知事との写真 無断掲載 野田国義氏 法定ビラに」との見出しをつけた記事が掲載された。(右が、西日本新聞12月8日朝刊の問題の記事)

 その内容は、福岡7区で再選を目指して立候補していた民主前職の野田国義候補陣営が、選挙運動用の法定ビラに小川洋福岡県知事とのツーショット写真を許可なく使用し、知事側が野田氏側に抗議文書を送ったというもの。
 意図的な無断掲載であり、悪質であるとの見立てに基づく記事だ。そうでなければ活字にはなっていない。

 『まだ文書が届いておらず、内容を確認した上で対応を協議したい』との野田氏陣営のコメントの前段には、《知事側の了解を得ていなかったことを認めた上で》と記し、同陣営が悪いことをしたと認めたかのような書きぶりである。

 記事の本筋はここまでで、逃げ道を作るため、最後の数行に法的問題はないという付け足しだけは忘れていない。三流記者の常套手段である。

 新聞記事は「見出し勝負」と言われるほど、活字の大きい部分が重要視されるのは周知の通りだ。多くの読者は、見出しに惹かれて記事を見るが、この段階で報じられた内容についての心証が形づくられてしまう。当該記事に接した読者が、野田氏が悪いことをしたかのような印象を受けたのは想像に難くない。
 事実、野田氏の選挙事務所には何本もの問い合わせ電話があり、なかには「がっかりした」という批判も寄せられたという。

 記事を最後まで読み通せば、違法性が問えない事案であることが分かる組み立てになってはいるが、記事全体は野田氏側が知事との写真を用いたことが「悪い」というトーンで貫かれている。
 法的問題はないということを記した最後の数行にしても、あたかも公職選挙法に穴があるかのごとき文章で締め括っているのだ。
 ここまでくれば、民主・野田氏を窮地に追いやる意図が見え見えである。西日本新聞は、当該記事が野田氏の選挙に不利に作用することを承知で掲載に踏み切ったということになる。

異例の報道―なぜ?
 選挙中、違法でもない行為について候補者名を見出しにまで掲げて報道することは極めて異例だ。
 候補者側の不祥事であれば、記事が選挙結果に少なからず影響を与えるのは当然であり、どうしても報道に踏み切らざるを得ない場合は、実名ではなく「民主前職」あるいは「民主前職の候補者」などと、ぼかした表現にするのが普通。下手をすると、訴訟ということも考えられ、影響を考えれば慎重にならざるを得ないはずなのだが、今回の記事は一線を越えて活字になった。

 事実関係を知っていた読売、朝日などの各紙は記事にすること自体を見送っており、野田氏側に対し取材さえ行っていない。知事とのツーショット写真を使用することに、違法性・ニュース性がないと判断したからに他ならない。

 それではなぜ西日本新聞だけが、突出した行動に出たのか?関係者を取材したところ、徐々に記事の背景が浮かび上がってきた。

自民県議が本会議質問で二の矢
 下は、記事が掲載された4日後の12月12日、自民党県議団の控え室から発信されたFAXである。
 野田氏陣営が法定ビラに知事との写真を使用したことを、同県議団所属の桐明和久議員が一般質問で取り上げたこと、さらに知事がどのような答弁を行ったかが記されており、ご丁寧に知事が写真掲載の事前相談を受けていないことや抗議したことを示すくだりには、アンダーラインまで引いてある。

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 本会議で、特定候補の法定ビラの問題を取り上げ、一緒に映った知事の政治姿勢を糾弾するることは、形を変えた選挙運動としか思えない。もちろん、知事とのツーショット写真におさまった野田氏の当選を阻む目的であることは言うまでもない。ちなみに質問した桐明氏は、野田氏が主地盤とする八女市選出の県議、しかも野田氏の同級生だという。
 地元八女市の有権者が、野田氏に悪い印象を持つよう、巧妙に仕掛けが施されているのである。

 ただし、「知事の衆議院選挙に対する姿勢について」と題した本会議での桐明議員の質問では、野田氏の実名は一度も出ていない。ビラを大きく引き伸ばしパネルに貼り付けて見せたが、野田氏の顔は黒く塗られていたのである。

 人権侵害、選挙妨害、二つの点でしっぺ返しを食らうことを予想してのことだったとされるが、本会議で質問することの重大性を認識していた証左でもある。選挙妨害ギリギリの質問で、野田氏に新聞報道に次ぐ二の矢を放ったつもりだったのだろう。

 質問のなかで桐明議員は、6日の時点で地元の人間からビラを入手したとして知事の見解を質している。なぜか新聞報道のことについては触れていない。
 野田氏攻撃は、新聞報道⇒議会質問という流れで行われたのであるが、この議会質問が報道されることはなかった。
 それを見越したのか、上の文書が福岡7区の関係各所にFAXされたのである。文書では、議会質問にはなかったはずの野田氏の名前が強調されている。

権力の犬 
 報道各社がビラ問題を取り上げなかったのは、早い段階でニュース性がないと判断したことに加え、8日の西日本新聞の記事を受けた野田氏陣営の反応が早く、報道各社にこの問題をめぐる一連の経緯を記した同紙への抗議文を配布していたからである。

 そして、HUNTERが入手した抗議文の内容と関係者への取材から、西日本新聞と自民党県議団の動きが連動した形となっていたことが明らかになっていく。
 見えてくるのは、権力に対する番犬としての使命を忘れ、ネタをもらって喜ぶ低俗記者たちの姿である。「権力の犬」の実態については、次稿で詳報する。

つづく



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