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僭越ながら:論

あやしい民主主義
―新聞報道への警鐘―

2012年12月12日 11:00

 政党乱立、師走、極端な右傾化―なにもかも異例となった総選挙だが、大手メディアによる報道もこれまでにない形が目立っている。
 頻繁な世論調査に公示直後の情勢分析、いずれも数字や記事が有権者の思考や行動に多大な影響を与えることは確かだ。世論操作の度が過ぎると、国の進むべき方向性を誤らせるということを、この国の大手メディアは学習してこなかったものらしい。
 選挙における勝敗の帰趨まで、すべて報道がリードして世論を形成する形となっている現在の有様が、果たして健全な民主主義国家と言えるのだろうか。
(写真は、12月6日の西日本新聞朝刊の紙面)

世論調査の多用に隠された意図
 衆議院の解散から公示までは、読売新聞に代表される頻繁な世論調査による民意の誘導に辟易させられた。争点の整理など二の次で、比例区の投票先に関する数字だけを大見出しで報道することに違和感を覚えたのは筆者だけではあるまい。

 1億人を超える有権者の声を、わずか1,000人程度のアンケート対象者の回答で一括りにする乱暴な手法によって生み出されたものが世論であるはずがないが、新聞の見出しの打ち方はそれを可能にする。
 『自民25%維新14%民主10%』。これは、11月26日の読売新聞朝刊1面の見出しだが、民主党の退潮、自民党の大躍進を強烈に印象付けたものだった。民主党は、極右の親分とでもいうべき人物が代表になった維新にさえ及ばないというのだから、びっくりだ。

 トレンドは「右」、多数派は「自民党」―こうなるとこの国の国民は止まらない。選挙区ごとの情勢調査においては、候補者が決まっていないか、もしくは決まってすぐの選挙区で、なぜか自民党の候補が民主候補を圧倒する数字をたたき出してしまう。何はさておき、“自民党の候補なら無難”ということなのだろう。懲りない方々の多さにも、いささかうんざりだ。

 カネに飽かした世論調査の多用に、国内の意見を右に向けようとする意図があったとしたら、そのメディアに報道を名乗る資格はない。そうした意味で、選挙前の読売新聞の論調は、自民党の政権復帰を後押ししているとしか思えないものばかりだった。この新聞の劣化は覆うべくもない。

 原発推進、自主憲法制定を社是として掲げてきた新聞社としては当然のことなのだろうが、一方で「公平・公正」だの「客観報道」だのと叫んでいるのだから、どこかの政党を公約違反で咎めるのは理不尽というものだろう。

公示後2日で情勢予測の愚行
 今回の選挙報道で一番驚いたのは、通常なら選挙中盤で実施される選挙区情勢調査を公示直後の2日間で済ませ、ご丁寧に順位付けまで終わってしまったことだ。まるで競馬の予想紙である。

 選挙が始まってわずか2日では、有権者が候補者の人柄や公約を吟味できているとは思えない。例えば福岡1区、同2区、同6区といった選挙区では、公示直前に自民党の公認が決定。大半の有権者が候補者の名前さえ覚えていないという状況だった。もちろん、各世帯に届けられる「選挙公報」も配布されていない。
 この段階で、なぜ自民党の候補者に高い評価を与えることができるのだろう。

 メディア報道の影響の大きさは、前線の記者たちはもちろん、各社のデスクや編集幹部なら百も承知のはず。重ねて述べるが、選挙が始まってすぐの段階といえば、候補者の公約はもちろん、経歴や立ち位置が十分に有権者に理解されているわけではない。にもかかわらず、公示日とあくる日に有権者に電話アンケートをして、その結果を大々的に報じることが許されるはずはない。

 選挙区内における数百規模のサンプル調査結果をあたかも大勢のごとく報じる行為は、公職選挙法に抵触する可能性もある。同法は、《新聞紙、雑誌の報道及び評論等の自由》について次のように規定しているのだ(一部省略)。
《この法律に定めるところの選挙運動の制限に関する規定は、新聞紙又は雑誌が、選挙に関し、報道及び評論を掲載するの自由を妨げるものではない。但し、虚偽の事項を記載し又は事実を歪曲して記載する等表現の自由を濫用して選挙の公正を害してはならない》。

中学生の鋭い指摘 
 選挙取材の合間に話す機会を得た福岡市内の男子中学生が、こう聞いてきた。
「おととい始まったばかりで、もう選挙の結果が出てしまうんですね。投票してもいないのに、結果が出るのは何故ですか?」

 説明するのにいささか骨が折れたが、何とか納得してもらいほっとしたところに来た次の言葉がふるっていた。
「新聞の調査で結果が分かるんなら、選挙なんてやらなきゃいいじゃないですか。それが国民の声なんでしょう。違うというのなら新聞は嘘を垂れ流していることになるじゃないですか」。
 お説の通りというしかない。どうやらこの中学生、大手メディアの矛盾をきちんと見抜いている。

問われる有権者の眼力 
 選択の理由が、「自民党だから」というものなら、「小泉チルドレン」や「小沢チルドレン」を生んだ過去の失敗と何も変わらぬ事態を招くだけのことだが、今回ばかりは苦笑して終わりということにはならない。
 自民や維新が憲法改正を前面に押し出し、「国防軍」だの「核兵器」だのと叫んでいる以上、低レベル報道によって導かれる先は「軍事国家」なのである。
 チルドレンが招いたのは政治不信だったが、軍事おたく集団が招くのは“戦争”であるということを忘れてはなるまい。

 人間の心理とはいい加減なもので、周りが右と言っていれば、なんとなく「そうか、右でいいんだ」と思いがちなものだ。へそ曲がりが「いいや、自分は左だ」とわめいたところで、大勢からするとしょせん少数派でしかない。
 一般的にいう「世論」とは、比較的多数の意見を捉えたもので、わずかでも数的優位があれば『これが世論だ』と決めつけられてしまう。

 選挙区ごとの情勢調査で「自民優位」の結果が見出しに躍るだけで、流れが出来上がっていくのは確かだ。大手メディアの報道ほど狡いものはなく、『4割の有権者は態度を決めておらず、流動的な要素も残されている』などという一文が申し訳程度にくっついてはいるが、これはただの逃げ道に過ぎない。敗れた候補者から訴えられないようにしているだけのことなのだ。

 今回の選挙で問われているのは、有権者の眼力であると度々述べてきた。民主主義とは、メディアが作り出した数字が形作るものではないということを本稿で述べた。
 その上で、16日の投票日、選択の結果が、次代の子どもたちの目から希望の光を奪うようなものであっては決してならないということを付け加えておきたい。



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