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総選挙点描(上)
―老婦人の涙―

2012年12月18日 09:30

 師走の総選挙が終わった。違憲状態、突然の解散、政党の乱立など異例ずくめの選挙戦だったが、戦後最低の59.32%(総務省発表)という低投票率の中で自民が大勝、公明党と合わせて325議席を占める結果だ。
 衆議院の3分の2を得たことで、自民党と公明党による国会運営でのゴリ押しが可能となるが、待っているのは公共事業の大盤振る舞いを軸にしたばら撒き政治、そして憲法改正による国防軍の創設である。
 有権者が下した審判であることに違いないのだが、世論を誘導したのはマスコミである。
 報道に携わる人間達は、自民党や日本維新の会の公約に潜む危険性について、きっちりと伝える努力を怠ったのではないか?
 自省も含めて、取材で出会った場面から、この選挙を振り返ってみたい。

大勝受け改憲へ前のめり
 しらけムードの中、大騒ぎしたのは候補者陣営とマスコミだけだったが、もたらされた結果がこの国を大きく揺さぶるであろうことを予告しておきたい。
 自民党の公約の目玉が憲法改正と国防軍の創設である以上、国民の信任を得た形の安部晋三総裁はまっすぐに右寄り路線を突き進むからだ。
 
 案の定、安倍氏は17日の記者会見で、憲法改正に必要な発議要件を定めた96条の改正を先行させることを明言。衆・参それぞれの国会議員で3分の2以上とされる発議要件を「過半数」に変える方針を示した。
 安倍氏が改憲や軍備強化に向け、前のめりとなることは確実だ。公約への賛同を受けた形であるだけに、当然のことと思っているのだろう。
 こうなることを承知で、有権者は自民党を勝たせたということになる。

 一方で、憲法改正や国防軍といった自民党の公約に、戦争の臭いを感じ取った有権者が少なくなかったのも事実である。敗戦を体験した世代はどのような思いで一票を投じたのか。投票日当日、その疑問に答えてくれる場面に出くわした。

語り部
 投票日の早朝、民主党候補の選挙事務所を取材した。たまたま事務所を訪ねてきた95歳になるという老婦人と選挙スタッフとの話を聞いたが、なぜ自民党ではいけないのか、瞼をぬぐいながら懸命に訴える老婦人の姿に、心を打たれた。

 老婦人は、なぜ民主党の候補に一票を入れたのだろう。
「民主党は戦争反対でしょう。だからですよ。戦時中は大変だった。大切にしていた着物と交換してもらおうとお米を貰いにいったら、2升しか貰えなくて悔しい思いをしたことを覚えています。戦争とはそうしたものですよ。難しいことは分からないですけど、軍隊を作ることには反対ですから自民党はだめ。戦争は絶対にいけない」。

 戦争の語り部が少なくなっていくなかで、とつとつと話す老婦人の言葉は重かった。
「終戦直後、出征していた知り合い合いの男性が引き上げてきた時のことでした。その方は、フィリピンで戦って、負けて、小さな穴に隠れてアメリカの兵隊に見つからないようにしていたそうです。何も食べるものがなかったそうで、本当につらかったと言っていました。
『戦友の肉をかじって生き延びてしまいました。ひもじい、ひもじいとつぶやきながら死んでいった戦友に申し訳ない』そう言って涙を流されたその方の顔が忘れられません。だから戦争はだめ。絶対に軍隊なんか作ってはだめ」。

 終戦から70年近く経とうとしてるが、老婦人の瞼の裏には当時の一瞬がまざまざと映し出されているようだった。頬をつたうのは、右傾化する現状への嘆きの涙なのかもしれない。
 
 陣営のスタッフが出したお茶をすすり終え、腰を上げた老婦人は、最後にこう話した。
「(私は)父と相談して、空襲を避けて山へ逃げようと決めた日に終戦を迎えました。運が良かっただけですね。命はながらえたけど、それからの苦労は今の人たちには分からないかもしれない。食べ物がないつらさは、とくにねぇ。
二度と軍隊なんか作ってはいけない。子どもたちや孫たちに、同じ経験をさせるわけにはいかないでしょう。なのに、どうして日本人の多くが国防軍を作るなどという自民党に票を入れるんでしょう。悲しく悲しくて仕方がない。
一人暮らしの私には何もできないけど、一番に投票所に行って民主党に投票してきました。それだけ言いたくてここ(選挙事務所)に来た。これだけしかできないことがくやしい、くやしい、くやしい」。

メディアの責任
 自民党が公約に掲げた憲法改正と国防軍の創設。同党を勝たせ過ぎたことは、有権者がその公約を是としたことに他ならない。
 自民や維新に一票を投じた有権者は、軍事大国化で苦しむことへの責任を背負う覚悟があるのだろうか。そしてメディアは、自民党や日本維新の会の公約に潜む危険性をしっかりと報じてきたのだろうか・・・。
 もたらされた結果を見る限り、老婦人の涙に代表される声を伝えきったとは言い難い。



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