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辻説法否定-組織型選挙の危険性

2012年12月14日 09:05

 マイクを握って政策や主張を訴えるのが選挙の原点―とくに新人にとっては―と思っていたが、「辻説法」を否定して、組織型の内向き選挙に徹する陣営もある。
 辻説法とは、選挙区内をくまなく回り街頭演説を繰り返すことだ。

 HUNTERの記者が集中的に取材しているのは福岡県内の選挙区だが、福岡7区の自民新人は、選挙期間中、一般有権者に訴えかけるための有効な手段を放棄して、集会オンリーの選挙を行っている。

 こうした「組織型選挙」が勝利しそうな今回の総選挙だが、日本の政治をダメにした原因が、実はこの組織型選挙にあることを忘れてはならない。

一般有権者無視―集会オンリーの選挙戦
 自民党を支えてきたのは個人後援会と業界・団体の組織だ。しかし、新人の候補者ともなれば、一般の有権者に訴えを行うために街頭演説が必須となる。顔を覚えてもらうためにも重要な活動のはずだ。

 だが、衆院福岡7区の自民新人陣営は、縁のない有権者には訴えの内容を知らせる必要がないとでも考えているのか、公示日の出陣式で挨拶した以外、いわゆる辻説法を行った形跡がない。出陣式とて身内だけの集まりだ。

 新人候補の事務所側は毎日どこかで演説していると言うが、追跡取材で確認できているのは、企業・団体の敷地内や駅前などに応援弁士を呼んで、動員した支持者に候補者が挨拶するという内向きの毎日だ。辻説法は一切行われていない。

 一般の有権者をなめているという点で、極めて質の低い候補者陣営と言えるが、昨年の福岡県知事選挙では、当選した小川洋知事がマニフェストも街頭演説も拒否するという戦術に徹し、有権者の批判を受けて終盤から渋々マイクを握るという醜態を演じていた。組織型も、度が過ぎれば有権者の反発を買う。

 ところが短期決戦、しかも局地戦となれば話が変わる。
 福岡7区は典型的な保守地盤で、自民前職は引退した古賀誠元自民党幹事長。その後援会や農業団体などの強固な組織が絶対的な強さを誇っており、辻説法などしなくても、新人候補の名前と顔が数日で周知されるのが現状だ。
 今回の選挙でも“関係者以外お断り”の選挙が繰り広げられており、候補者に対する直接取材さえ制限される始末。異常なまでの組織優先なのである。

角栄流・辻説法5万回―今は昔
 故・田中角栄元首相は、新人候補に対し、辻説法5万回、個別訪問3万軒をノルマとして課したといわれる。“選挙の神様”と言われた人だけに、大衆への浸透方法を熟知していたのだろう。

 こつこつと辻説法を重ねる候補者に好感が持てるのは確かだ。しかも、候補者本人の人柄や主張に、じかに接する機会にもなる。だが近年、道端に立って手を振るいわゆる「辻立ち」はしても、マイクを握って「辻説法」を続ける政治家は少なくなった。

 野田佳彦首相の駅前演説は有名になったが、定点での活動に過ぎず、田中元首相が新人に諭した辻説法とは少し形が違う。それでも、政策や主張を数多くの人に訴える姿勢は大切で、やらない政治家よりましというものだ。

 風頼みの傾向が強く、空中戦に頼りがちな民主党の議員ではあるが、街頭活動に熱心なのは悪いことではあるまい。同党の議員に欠けていたのは、「戸別訪問3万軒」という、足を使って土地に根を張る活動が不足した点なのだ。

 一方、自民党や公明党などの組織型選挙では、一般有権者は二の次、まずは細かく集会を開き、関係者を動員して組織内の締め付けを図ることがますます優先されている。
 基礎票を固めることに専念するのは当然ということなのだろうが、多くの有権者と距離ができてしまうのは事実だ。
 小選挙区制になってこのかた、辻説法を行う政治家が少なくなっており、角栄流も今は昔となってしまった。

 辻説法は、候補者と有権者をつなぐ大切な選挙戦術のはずだ。“紙爆弾”と言われる印刷物だけで政治家と有権者がつながる現状は、決して好ましいものではない。

組織型選挙の弊害
 後援会や企業・団体に依拠した選挙は、しょせん利害関係で結ばれた者同志の世界に過ぎない。ために当選後、政治家が利権組織の一員に組み込まれ、頼み事の処理に明け暮れることになってしまう。
 しがらみだらけの政治家が汚れていくのは必然で、政治とカネの問題の多くが、組織型選挙の延長線上において生まれたものであることも忘れてはならない。

 排他的な後援会、自己利益優先の業界・団体・・・。多くの有権者がこうした政治の在り方と距離を置くようになって久しい。
 無党派層の増加は、既成政党の堕落に加え、旧態依然の後援会型選挙が続いていることへの嫌悪の表れでもあろう。
 国会議員の存在が有権者から遠くなり過ぎているのは、彼らの視線が周辺の組織だけに向けられていることを有権者自身が知っているからなのだ。

 この国の政治を堕落させた原因は、組織型選挙にあったと言っても過言ではない。

組織型選挙の行く先は?
 今回の選挙の特徴は、候補者の公約や人柄が伝わっていないのに、投票先を決めている人が増えていることだ。

 急な解散だったため、遅れて公認が決まった選挙区では候補者の情報が有権者に伝わりきっていない。しかし、各メディアの選挙区情勢調査ではそうした自民党新人が軒並みトップに立っているのである。有権者が嫌っていたはずの組織型候補が、大半の議席を占める可能性さえある。

 選択の基準が「自民党だから」という安易なものなら、この国の民主主義は成熟どころか退化していると言うべきだろう。

 せめて辻説法を多用して積極的に選挙民と接触してもらいたいが、残念ながら自民党の候補者―とくに福岡7区の候補者―にはそうした思いが通じないらしい。

 自民党の公約が守られた場合、組織型選挙の行く末にあるのは「憲法改正」と「国防軍」ということになる。この選択が正しいとは思えないが・・・。



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