総選挙期間中、選挙用ビラに小川洋福岡県知事とのツーショット写真を使用した民主前職の氏名を明示し、「知事との写真 無断掲載」との見出しを打った西日本新聞。
他のメディアが“問題なし”と判断して記事化を見送ったことでも分かるように、前職側には違法性はもちろん、責められるような点は一切なかった。
今月8日の同紙朝刊の報道を受けた“被害者”―民主党の野田国義氏陣営は、同日のうちに西日本新聞編集局長あての抗議文を送りつけていたが、HUNTERが入手した抗議文と同陣営関係者の話、そして現場取材から、選挙妨害まがいとしか言いようのない記事が、強引かつ傲慢な取材手法から生まれたものだったことが明かとなった。
西日本新聞への「抗議文」
野田氏陣営の問題報道への対応は早かった。報道された8日の午前中には、事実関係と取材した同紙記者の行状を細かく記し、編集局長あてに「抗議文」を送っている。事実関係を正確に伝えるため、原文を掲載する。
抗議文野田国義陣営が、小川洋福岡県知事と野田国義が握手している写真を選挙用法定ビラに使用した件(以下、本件)について、平成24年12月8日付貴紙朝刊記事「福岡7区 知事との写真 無断掲載」に、以下の事実関係を示したうえで、強く抗議する。
【本件に関する事実】
- 本件写真は、個人的な目的を以て撮影されたものではない。
- 本件が公職選挙法を含め法令に違反する事実はない。
- 記事が指摘した写真は、福岡県知事選挙において民主党が小川洋知事を推薦すると決し、推薦状を交付した時に、関係者はもちろん、マスコミ各社も立会した場所で撮影されたものである。
- 本件写真について、小川知事側から使用目的などを限定されたことはなく、むしろ広く頒布する目的を持った印刷物等に使用されることを、知事自身が承知していたと思料すべきである。
- 本件写真は、これまでも野田陣営の後援会報などに掲載してきたほか、このほかの知事と野田の両人を対象に撮影した写真も、様々な場面で使用してきている。こうした事実がありながら知事側から抗議を受けたことは一度もない。
- 本件ビラには小川知事から推薦を頂いたと誤認されるような記述は一切なく、7月の豪雨被害に対する復旧・復興をはじめ、知事と「県南の浮揚」という重要かつ長期にわたる課題について話し合ってきたことを短く表現したものにすぎない。
- 以上の理由から、小川知事とは県南の浮揚を含め様々な政策課題について共同歩調をとってきており、本件写真を意図的に「無断掲載」したものではない。
【貴社の対応について】
本件については、12月7日夕に貴社の記者より取材を受けるまで八女の野田国義事務所側としては何も承知していなかった。
取材を受け、知事側からの連絡を受けたと貴社の糸山記者が指摘した者に確認したところ、当人は、何時であるか忘れたが、確かに知事側が「文書を送った」とする内容の電話をしてきたことを認めたため、その経過を糸山記者に取材時点で説明した。
この時点では電話を受けた者も事案の内容を十分に把握しておらず、送られたとされる文書も届いていなかった為、取材に対してリアルタイムでの対応を行っている。
当事務所としては、当然のことながら知事側の誰が、何時、何と言っていたのかを聞く必要があり、何度も糸山記者に尋ねたが、同記者は「うちの者が聞いた」の一点張りで、事実関係がはっきりしているからコメントしろとの傲慢な姿勢に終始した。これでは答えようがない。
文書を受け取ってもいない段階ではコメントのしようがないと何度も説明したが、「それで済むのか」と強要に近い言動が続いた。
西日本新聞社として、ある一定の方向性をもって記事作成を目指したのか、糸山記者及び署名記事を書いた庭木記者の判断かは定かではないが、何ら違法性がないにもかかわらず、ことさら「無断掲載」を見出しに付け、候補者名まで明記したことは、選挙結果に多大な影響を及ぼす可能性もあり、選挙妨害と言わざるを得ない。
この点については、法的な対応を視野に入れたうえで、厳重に抗議する。なお、貴社の糸山記者については、公示前の貴紙の報道や公示日当日の候補者紹介において、記者本人の恣意に基づく押しつけが見立っていたため、抗議していたことを付記しておきたい。
とくに、公示日当日の候補者紹介記事については、野田国義自身及び陣営事務所があずかり知らぬ「公約」を作成し、訂正を求めたところ、記述した言葉に異を唱えるなど報道としての一線を越えた言動がつづいてきた。今回の報道についても、貴紙もしくは一部の記者の見立てを野田陣営及び読者に押し付けているに過ぎず、この点についても強く抗議する。
以 上
写真使用―問題なかった
抗議文にあるように、問題のツーショット写真は民主党福岡県連の代表である野田氏が、昨年4月の福岡県知事選挙において小川知事に推薦状を交付したときの写真である(右が問題とされたビラの写真)。
この写真は、野田氏の後援会報をはじめ様々な印刷物で使用されており、知事自身も不特定多数の人に見られることを承知していたはずのものだ。もちろん公人である知事が、自らが写った画像をとやかく言うはずがない。
ところが西日本新聞は、他の印刷物に知事と野田氏の写真が使用されていた点に関しては、まったく触れていない。後援会報であろうが、選挙用ビラであろうが同じことのはずだが、なぜか選挙用ビラだけを問題視したのである。
政党所属の候補が作成できる選挙用ビラは、A4版7万枚、A3版4万枚の計11万枚だ。使用が許されるのは選挙期間中だけで、新聞折り込みのほか、街頭を含む演説会などでしか配布を許されていない。
こうしたビラは、すべての人の目にとまるわけではなく、宣伝効果は限定的。必然的に各陣営は後援会報やリーフレットなどを多数作成し、公示前に何度もばら撒かざるを得ない。いわゆる「紙爆弾」である。
福岡県内のある前職陣営は、公示前の段階で約20万枚の広報紙を全戸配布したと言われている。選挙用ビラを含めると30万枚以上の紙爆弾が撒かれたことになる。
野田氏の陣営では、日ごろから細かな広報活動を行なっており、知事との写真はこれまで何度も使用してきたものだった。知事側からはもちろん、マスコミ関係者から問題を指摘されたことなどなかったという。
野田氏側が写真使用を躊躇しなかったのには他にも理由がある。
野田氏は民主党福岡県連の代表で、知事が国に陳情を行う場合は、その段取りから案内までの一切を担当してきている。
何度も同じ時間を共有し、ビラにある県南地域の振興はもちろん、福岡県の未来について様々な形で意見交換し、深い信頼関係を築いてきたのだという。
写真使用を知事から抗議されるなど「夢にも思っていなかった」(すべての陳情に立ち会った前政策秘書)というのが実情なのだ。
法的にも、道義的にも何の問題もなかった写真使用が、選挙の時だけ問題にされたのである。しかも仲の良かった知事までが遺憾の意を表明している。
この点については後述するが、何らかの意思が働いたと見るのが普通だろう。
だんまり決め込む西日本新聞
抗議文は、野田氏陣営で広報担当を務めていた同氏の政策秘書を担当窓口として出されたが、陣営側に確認したところ、西日本新聞側からの反応はなかったという。
数日経っても抗議に対する応答がないため、二度にわたって同社の見解を求めたというが、事実関係について調査中というばかりで、正式な回答はなかったとしている。まずい状況となったため、西日本新聞社側がだんまりを決め込んだということだ。
担当記者も会社も低レベルであるが、能無し記者たちの取材手法は、じつに汚いものであった。
傲慢
7日夜に陣営事務所を取材した西日本新聞記者とのやりとりのなかで、野田氏の事務所側は何度も事実関係が分からないという点を説明したそうだが、抗議文にある通り、記者は、《事実関係がはっきりしているからコメントしろとの傲慢な姿勢に終始》、《『それで済むのか』と強要に近い言動が続いた》という。
野田氏側の担当者に当日の記者発言を記したメモを見せてもらったが、たしかに記者は問題となるような発言を繰り返していた。
とりわけお粗末なのは、取材記者が何度も発した「うちの者が聞いた」という言葉である。
やくざ組織ではあるまいに、「うちの者」とはいかがなものだろう。応対した陣営の担当者は、「うちの者とは誰のことか」と何度か聞いたところ、ようやく「うちの社の別の記者」と言い換えたという。
この記者、同じ会社の人間の言うことはすべて真実で、部外者の言葉は疑ってかかるべきものと思い込んでいるらしい。
報道の世界でいう“裏を取る”ということは、真相を確かめることに他ならない。はじめから自分達の情報や見立てが正しく、取材がそれに応じたコメントを取る目的だけに限定されてしまえば、報道の中立性や客観性が失われてしまう。
西日本新聞の記者たちの動きは、まさにその忌むべきパターンであったと言うべきだろう。
問題は、その後の問答だった。
陣営担当者が、「あなたの社の記者は、一体誰から知事側の話を聞いたのか。知事本人か、それとも知事の事務所か。こちらが事実関係をまったく把握していないなかで、それも明示せずにコメントしろと迫るのは傲慢ではないか。『うちの者』は誰からの示唆で動いたのか?」。
西日本新聞の記者は、何度聞いてもこの点については答えなかったという。次稿で詳述するが、答えなかったというより、“答えられなかった”というのが本当のところだろう。
事実関係が分からない中、誰が騒いでいるのかさえ明らかにしないというのなら、回答する義務はあるまい。強要に近い形の取材に対し、野田氏側の担当者が怒ったのは無理もない。
西日本新聞の記者は、「無断掲載」という点だけを強調する記事を仕立てるため、野田氏陣営から自分達に都合の良いコメントを取ろうとしたのである。強引な姿勢に立腹した陣営側は、この記者を追い返していた。
姑息
西日本新聞の姑息さは、このあと戦法を変えて必要なコメントだけを取りにかかったことである。
野田氏の事務所に直接取材をした記者が帰ったあと、県政記者クラブ所属であると名乗った別の記者が、電話をかけてきたという。
その記者は、陣営関係者の長い抗議をじっくり聞いたあと、「確認ですが」と物静かに語りかけてきたのだというが、選挙慣れした陣営関係者は、記者との一問一答をきちんと記録に残していた。すでに、「仕組まれた」と感じていたのである。
陣営関係者の記録を確認させてもらい、この時のやり取りを再現してみた。
西日本記者:知事との写真を法定ビラに使われていますが、知事の許可を取っていないことは間違いないんでしょうか?
陣営担当者:無断と言われれば無断でしょうが、少し違いますよね。何度も説明しましたが、断る必要のない写真なんですよ。そのことはさっきの記者さんにも説明したと言ってるじゃないですか。
電話取材はわずか数分間だったというが、この記者にとって、必要だったのはこの一瞬の会話だったのである。
このやりとりが、問題の記事中の《知事側の了解を得ていなかったことを認めた上で》という一文になるのだ。言い換えれば、この陣営側の一言を得るためにだけ、前後数分間、陣営側の主張を黙って聞いていたのである。
何とも姑息な手法だが、記事を書いたのはこの時の電話の主である県政記者クラブ所属の記者だった。
西日本新聞の強気を支えていたのは、小川知事側が「選挙に利用された」として野田氏側に抗議したという事実だが、7日の西日本新聞の取材時には、野田氏の陣営には抗議文など届いておらず、電話による抗議があったことさえ知らない状況だった。
知事側から抗議文が届いたのはその翌日だったが、HUNTERの記者はその後の数回にわたる野田氏側と知事側との電話によるやりとり、さらには西日本新聞社側との交渉の一部始終を、密着取材して確認していた。