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民主・「公認申請書」の問題点

2012年11月28日 08:10

 すったもんだの末、民主党がTPPに対する総選挙での対応に一定の方向性を示し始めた。
 衆院選マニフェストにTPP参加推進を盛り込むものの、各候補者が反対しても公認を取り消すことはないという。
 これまで、選挙区内に農村部を抱える同党候補は、TPPについて農業団体から意思確認を迫られる一方、公認申請書に明記された誓約内容を遵守しなければ「公認」を取り消すという党の強硬姿勢に悩まされていた。
 選挙を前に、党内対立を回避する形で落ち着きそうな格好で、胸をなでおろした候補予定者は少なくない。
 騒ぎのもととなった公認申請書のコピーを入手したが、いったん提出させ、後から厳しい注文をつけるという詐欺的な内容である。
 こうした手法で政治家個々の主張を制限することが、許されるとは思えないが・・・。

問題の「公認申請書」
 下が問題となった「公認申請書」である。報道では「誓約書」などとされていたが、それは後半の部分を指したものだ。

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 誓約の文章はこうだ。
《一、民主党の党議を踏まえて活動すること》
《二、民主党公認候補としてふさわしくない行動をとった場合には、民主党公認候補及び総支部長としての権利・権限を返上するとともに、それまでに供与を受けた便宜の一切を弁済すること》

 いずれも当たり前のような記述に見えるが、政党の公認申請書としては異例の内容だ。
 まず、民主党の《党議》とやらが何を指すのか判然としない。TPPに関するものか、原発に関するものか、はたまた増税にまつわる議論のことを言っているのかまったく分からない。

混迷民主を象徴
 これまで主要課題について民主党内の意思が完全に一致したことはなく、執行部側が強引に事を運んできただけである。
 党議を踏まえろというが、例えばTPPについては党内での十分な議論を経ておらず、いまだに民主党としての方針決定には至っていない。消費増税を軸とした社会保障と税の一体改革法案の扱いをめぐっては、前原誠司政策調査会長(当時)が一方的に議論を打ち切り、手続きを踏んだと強弁しただけ。原発に関しても、党内議論が終わったとは言い難い状況なのだ。
 《党議を踏まえて》という言葉を額面通りに受け取れば、『何を言っても自由』というのが実態に近い。 

 次に、《民主党公認候補としてふさわしくない行動》というのが、法令違反にあたるハレンチ行為を指すのか、公約に反する主張を述べることまでを指すのかさえ明確ではない。
 個々の政治家には、選挙区内の地域事情や、個別の主張があってしかるべきだ。さらに、政治的自由が担保されなければ、広範な意見を汲み取りながら国政に有権者の声を生かすことはできない。
 公認申請書に署名を求める段階で、厳守すべき政策を提示していたのなら別だが、民主党執行部は何の説明もなしに、各議員の事務所に公認申請書を送り付けている。大半の議員は、難しいことを考える暇もなく申請書を提出しており、頃合を見計らって純化路線を打ち出した野田首相の手法は、詐欺的と言われてもおかしくあるまい。借金の契約書に署名・捺印をとった後で、勝手に借用金額を膨らませたようなものなのだ。 

再生目指すには
 民主党では、党の方針を決めるにあたって、自民党のように総務会で了承し議論を集約するといった明確な仕組みを確立してこなかった。意思決定の過程を不透明なままにしてきたことが混乱を拡大させ、党内分裂を招く原因となったことは否めない。

 親小沢と反小沢の対立が激化する中で、重要課題の方針決定と小沢一郎氏(現・国民の生活が第一代表)への対応をリンクさせてきた野田執行部の政治手法もお粗末だった。親小沢は反TPP・反消費増税。反小沢がTPP、消費増税推進である。
 このため、党執行部の姿勢に反発して離党者が続出。平成21年の政権交代時に300を超えていた衆院の議席は、解散前後で一気に過半数(240)を割り込んでしまった。

 民主党が政党として幼稚であったことは明らかだが、とどめがこの公認申請書のあこぎな使い方である。
 誓約部分の最後にある《供与を受けた便宜の一切を弁済すること》は、別れ話に激昂した男が“渡したプレゼント、全部返せ”と言っているようなもので、滑稽でさえある。

 小泉元首相による郵政選挙の再来を狙ったのだろうが、それなら公認申請の時点で守るべき事項を明示すべきだった。
 どうやら玉虫色で事がおさまる気配だが、一連の騒ぎが民主党の支持率を下げたことだけは確かだ。
 
 政治家には活動や主張の自由が担保されるべきで、そうでなければ有能な議員は育たない。再生を余儀なくされる民主党にとってもっとも重要なのは、“大人の政治家”を育てることのはずだ。



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