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無法地帯-伊藤鹿児島県政の腐敗
知事選・写真データ流出で調査義務放棄

2012年11月 6日 09:20

 今年7月の鹿児島県知事選挙にからみ、県が保有する写真データが現職の伊藤祐一郎知事陣営に大量に流出していた問題で、県が内部調査さえ行っていなかったことが明らかとなった。

 政治資金規正法や地方公務員法に抵触する可能性が指摘される事態でありながら、事実関係の確認義務を放棄し、開き直った形だ。

 背景にあるのは、伊藤祐一郎知事にすべての権限が集中する異常な権力構造。県を無法地帯にした元凶が、傲慢な姿勢に終始する県政トップであることは疑う余地がないが、こうした状況を容認している県議会や県政記者クラブにも厳しい視線が向けられている。

県有財産 無償で提供
gennpatu.jpg この問題は、今年6月の知事選告示前に同陣営が配布していた後援会報および選挙に伴い公表された伊藤候補のマニフェストに使用された大量の写真を、県側が無償提供していたというもの。
(右は後援会報の表紙。一部加工はHUNTER編集部)

 今年4月に発行された伊藤氏の支援団体「いとう祐一郎後援会」が作成した後援会報は、『伊藤祐一郎知事8年間の歩み』と題する60ページを超えるカラーの印刷物。使用された写真は290枚に及ぶ。
 写真の大半が知事の公務を記録したもので、県の広報課や庁内各課が管理している立派な県有財産である。

 県関係者への取材からも、次のような事実が確認されていた。

  • 県職員と報道関係者しか立ち入ることのできないない公式行事の写真が数多く存在する。
  • 後援会報やマニフェストに掲載された写真のほとんどは県職員でなければ撮影できないアングルのものが多い。職員自身が現場に居合わせた写真もある。
  • 後援会報にある「知事と語ろ会」には、報道関係者が来ていなかったケースが多く、明らかに県職員が写したもの。
  • 今年2月ないし3月に、県庁内部で「知事が写っている行事の写真」を集めるようにとの指示があった。

 知事側に対し、組織的に公務の写真データが提供されたことは明らかだ。

法的問題
 県職員が、政治活動に使用されることを承知で写真を集めて提供した場合、政治資金規正法が禁止する地方公共団体の公務員による地位利用の寄附集め、あるいは「政治活動に関する寄附への関与」が疑われることになる。
 同法が規定する寄附とは、《金銭、物品その他の財産上の利益の供与又は交付》であり、写真のデータは《物品その他の財産上の利益》に該当すると見られるからだ。
 
 さらに、地方公務員法上の疑義も生じる。政治活動用に利用されることを知りながら写真を集め知事側に渡した行為は、明らかに「政治的行為の制限」を定めた同法の規定に抵触する疑いが濃い。
 
 法的問題はまだある。地方自治法は、地方公共団体が行う「寄附又は補助」について《普通地方公共団体は、その公益上必要がある場合においては、寄附又は補助をすることができる》と規定しているが、政治家個人の後援会活動やマニフェスト作りは公益とはまったく無縁。同法に背く寄附だったことは明らかなのだ。

内部調査せず
gennpatu 1864410829.jpg 今年7月、この問題について報じた際、伊藤陣営と県に事実関係の確認を行っていたが、選挙期間中のせいか要領を得ない話に終始していた。
 このため、改めて情報公開請求の形をとって内部調査の状況を確認したところ、県が出した回答は『文書不存在』。つまり、違法性が疑われる事案について、何の対応もしてなかったことが判明した。右がその「不存在通知」である。

 本件については、鹿児島県内の市民団体も県に対し真相究明を求める文書を提出していたが、こちらについてもまったくの無反応で、調べるとも調べないとも言ってきていないという。取材にも県民の疑問にも答えないということだ。

 ある県庁職員は次のように嘆く。「知事か知事周辺が写真を集めるように指示したのは確か。公務中の写真を政治目的で提供したことは歴然としており、選挙の公平性を損なったばかりか、法に抵触する事態。新聞かテレビが報道していれば大問題に発展したのだろうが、青潮会(県政記者クラブ)は知らぬ顔の半兵衛を決め込こんだ。知事との癒着だ。県議会も存在する意味がない」。

いずれも「知事の指示」―腐敗する県政
 鹿児島県では、薩摩川内市の産廃処分場(「エコパークかごしま」)、鹿児島市松陽台の県営住宅増設と、いずれも地元住民から上がる反対の声を黙殺して、県の暴走が続く。そして、写真データ流出問題。
 共通しているのは、誰が、いつ方針を決めたかを証明する公文書がなく政策決定過程が極めて不透明なことと、事業推進において違法行為や手順無視が横行していることだ。

 一連の愚行について県職員などに取材を進めると、必ず飛び出すのが「知事の指示」という一言だ。
 県庁内部は、「何をするにも知事の意向を聞かなければ事が進まない。会合で出す食事の内容まで知事の指示を仰ぐ」(県職OB)という状態で、まさに伊藤独裁。勝手に処分場の場所を決めたのも知事なら、県営住宅増設も知事の独断なのだ。

gennpatu 1864410853.jpg 『絶対権力は絶対的に腐敗する』という格言がある。
 平成20年の知事選。同県が主体となって60億円もの補助金・貸付金を出す「財団法人メディポリス医学研究財団」の理事長から、知事が寄附金として100万円を受け取っていたことが明らかとなった。贈収賄が疑われる事実であることは間違いない。
 腐敗は目に見える形で進んでいると言わざるを得ないが、県政トップが作り出す無法状態を、県議会と県政記者クラブ(青潮会)が黙認する異常な状況だ。

 鹿児島市に住む公務員男性の話。
gennpatu 233392462.jpg「鹿児島県は無法地帯ですよ。知事の意向で何でも決まる。県職(員)の友人に聞いたが、県議会や記者クラブは知事のご威光を恐れて、厳しい質問や取材を一切行わないそうです。戦前・戦中の日本と同じですね」。

 産廃処分場建設反対運動に共感するという、薩摩川内市在住の女性もこう語る。
「知事の横暴は目に余る。原発に加え産廃処分場まで薩摩川内に造るなんて許せない。事業の進め方も不透明でしょう。県議会や薩摩川内の市長も同罪。一番腹が立つのは、県の言い分ばかり報道するマスコミ。地元の声を申し訳程度に入れて、あとは役所の主張が正しいかのように報道している。偽善者集団です」。

 明治維新は薩摩(鹿児島)が主役だったが、現在もっとも「維新」の断行が求められているのは鹿児島県である。



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