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市民の声 黙殺する鹿児島の行政
ちらつく霞ヶ関の影

2012年10月26日 10:00

 鹿児島県の役人は、少数意見を徹底して黙殺することが義務付けられているのだろうか。

 薩摩川内市で建設が強行されている産業廃棄物の最終処分場と並び、伊藤祐一郎知事のゴリ押しばかりが目立つ鹿児島市松陽台町の「ガーデンヒルズ松陽台」における県営住宅増設問題で、鹿児島市役所までが住民の声を無視する姿勢に転じていたことが分かった。

 県営住宅増設計画の裏には、霞ヶ関官僚のネットワークもちらついており、住民自治を本旨とする地方自治体の行政運営に暗い影を落としている。

鹿児島市 市民の直訴あっさり却下
 22日月曜、鹿児島市松陽台町の町内会長らが、鹿児島市に対し要請を行った。要請の内容は、県が同町「ガーデンヒルズ松陽台」で強引に計画を進める県営住宅増設について市の慎重な姿勢を求めたもので、具体的にはわずか3点に過ぎなかった。

  1. 住宅購入時の約束を守るよう、市として県を説得してもらいたい。

  2. 地域住民の思いや声を第一に、行政運営を図ってもらいたい。

  3. 27日の説明会をいったん白紙に戻し、地域住民と話し合いの上で日程を設定してもらいたい。
  要請といっても市側に渡された文書には「お願い」と書いてあり、身近な自治体にすがらざるを得ない苦しい状況を表している。しかし、後述するが、頼られた鹿児島市側は素っ気ない態度に終始しただけでなく、地域住民に冷やかな言葉まで浴びせていた。

ガーデンヒルズ松陽台
ガーデンヒルズ松陽台 「ガーデンヒルズ松陽台」は、平成15年に県住宅供給公社が販売を開始した住宅団地だ。「商業施設ができます」などといった勧誘文句を並べて、約11haの予定地に戸建用地470区画を販売する計画だったが、売れたのは170区画程度(平成23年2月までの実績)だ。

 そこで浮上したのが「店舗等用地」などと説明してきた3区画の土地に加え、ガーデンヒルズ松陽台で最大の面積を占める区画約5.6 ha(右の写真)を、すべて「県営住宅」にしてしまおうというものだった。
 税金投入で公社の穴埋めを行うというじつに安易な発想だが、驚いたのは松陽台の住民。県や住宅供給公社からは事前に何の相談もなく、いきなりの記者発表だったとされ、怒った住民が反対運動に立ち上がったのは言うまでもない。

 以来、3度にわたって戸建住民の8割を超える反対署名を集め、鹿児島県や鹿児島市などへの陳情などを行ってきたが、伊藤祐一郎知事や鹿児島市長は一顧だにしなかった。

 県住宅供給公社の甘言に乗せられ戸建用地を購入した住民は、詐欺的商法に引っ掛かっただけでなく、十分な説明と計画見直しを求める声さえ満足に聞いてもらうことができなかったのである。

突然の説明会開催―住民の都合は無視
鹿児島市役所 傍若無人な県の計画に市側も同調し、県営住宅増設の前提となる都市計画変更に向けて動き出していたが、そのための説明会開催を町内会に通知してきたのが約2週間前。突然の話に困った町内会長は、「住民の都合も聞かないうちに、勝手に説明会の日程を決めるのは理不尽」と抵抗し、事情を知った市議の仲介でこの日の「直訴」に及んでいた。(右の写真は鹿児島市役所)

 しかし、応対した古木岳美副市長は「計画どおりに進める」として要請内容を完全無視。「県営住宅のどこが悪い」とばかりに町内会長らを問い詰める始末だったという。やり取りの中で、“住民エゴではありませんよ”と語りかけた町内会長に「住民エゴとしか思えない」とまで言い放っていた。
 この副市長、権力をかさに少数意見を圧殺する小役人の典型である。

 なぜ住民の声を聞かないのか?―HUNTERの取材に応じた鹿児島市都市計画課は、方針通り説明会(今月27日)を実施し、その後は市原案の作成→市原案の縦覧→市案策定→縦覧→都市計画審議会の開催→都市計画の正式変更と、予定通りに作業をすすめることを明言。今年度中に市としての作業を終わらせる構えだ。
 住民とじっくり話し合おうという姿勢は微塵もなかった。

 同課の職員に、住民説明会の実施は地元側と相談して決めるのが筋で、住民自治の観点からもそれが重要ではないかと聞いてみたが、方針を変えることはできないとの一点張りだった。
 動き出した役所の通例で、立ち止まることは許されないとでも思っているのだろうが、説明会の日程を勝手に決めて、“出て来い”と言わんばかりの行政の手法が、地方分権の時代に合致しているとは思えない。

役所の拠りどころは「捏造アンケート」だった
 県や市が計画変更の拠りどころのひとつとして挙げているのは、県が議会に対し示した関係住民の声を集計したとする捏造アンケートの結果だ。

 昨年6月、松陽台町の町内会は、これまでの経過を詳細に記した後、県側の唐突な計画変更や説明不足、不誠実な対応等を列挙し、計画の撤回を求める陳情書を鹿児島県議会に提出した。この際、松陽台町129世帯中111世帯が陳情書に賛同する旨を署名している。

 提出された陳情書は、同年11月に開催された県議会・企画建設委員会で採択・不採択について審査に付された。この折、陳情に反対する立場の県が議会で報告したのが、松陽台住民らの県営住宅増設に対する意思を確認したとするアンケート結果である。

 それによると、松陽台地区計312戸のうち、「賛成、理解、特に意見なし」が256戸となっており、住民の8割以上が建設計画に賛同しているかのような結果となっていた。全面反対はわずかに19戸、計画に意見ありとするものですら37戸に過ぎない。
 松陽台町が提出した建設反対陳情に添付された署名世帯の数「111」とはかけ離れた住民の意思である。

 捏造ではないか?―HUNTERの取材に応じた県建築課住宅政策室は、県議会で報告したのは戸建住宅だけを対象とした調査結果ではなく、松陽台地域にある市営住宅や県営住宅の住民の数を加えていると回答。さらに、市営住宅分の数字は戸別訪問して聞き取った数字だが、県営住宅については自治会役員会の話をまとめただけであることを認めていた。杜撰というより意図的な数字の操作と見る方が自然だ。

 前述したように、県営住宅増設計画に反対している松陽台町の住民は129世帯中111世帯、つまり9割近くを占めている。
 県が議会で報告したのは、意思表示していない人たちの数字を勝手に組み入れて分母を大幅にふくらませたあげく、都合のいい解釈で反対住民の声までねじ曲げたアンケート結果だったのである。
 あたかも反対住民が少ないかのように見せかけるための幼稚なトリックだが、社会一般ではこれを「捏造」という。しかし、この捏造された数字が、現在に至るまで県営住宅増設強行の拠りどころとなっているのである。
 詐欺的商法で土地を売りつけた上に、民意の動向を示す数字まで騙ったということだ。鹿児島県庁は犯罪者集団といっても過言ではあるまい。

さらに続く姑息な手法
gennpatu 1864410816.jpg 県の姑息な手法は、捏造アンケートだけには止まらなかった。
 ガーデンヒルズ松陽台における県営住宅増設計画は、前述した鹿児島市の都市計画変更を前提としており、手続きに瑕疵があったり、県民の反対が強くなれば頓挫する可能性もある。そこで県が求めているのは松陽台県営住宅増設の待望論だ。

 そのため県は、県営住宅増設のさらなる根拠を集めるため、汚い手法を用いていた。
 右の文書は、今年8月に鹿児島市内にある県営希望ヶ丘団地の住民に配布された「希望ヶ丘団地建替事業に伴う入所者移転について」に添付された『移転申込書』の記入例である。(黒塗りと赤いアンダーラインはHUNTER編集部)

 赤いアンダーラインで示したように、“希望移転先”の第一番目には、建設されるかどうかも決まっていないはずの「松陽台(新規)」と記されている。二番目も「松陽台(既設)」という念の入れようだ。
 県は老朽化した団地の住民の意識に「松陽台」をすり込んで、既成事実化することを狙ったのである。

 県営住宅増設の必要性を補強するためには、“県民の要望”が必要だ。そのため、別の県営住宅住民に松陽台への移転希望を提出させようと画策したというわけだ。
 結局、希望ヶ丘団地住民の反発を受けて「記入例」撤回に追い込まれたというが、捏造アンケートの件といい、このドタバタ劇といい、県の手法は悪辣としか言いようがない。 

伊藤県政の焦りを露呈
 もともと松陽台の県営住宅増設は、希望ヶ丘団地など老朽化した住宅施設を移転させるという名目で計画されたのだが、松陽台が市街地から遠いなどの理由で反対が続出。古い県営住宅は現地建替えにするとして方針転換した経緯がある。

 県は、HUNTERの取材に対しても「既設団地に住みたい方々を無理に松陽台に移転させることはない」と断言していたほどだ。それが一転して強制移転を迫らねばならないほど追い込まれたということは、松陽台県営住宅増設の必要性が不足しているということに他ならない。
 伊藤県政の焦りが露呈した形でもあるが、なぜ県はこれほどまでにムダな公共事業の実現に躍起になるのだろう。

霞ヶ関支配
 必要性に乏しい県営住宅大増設計画には、「霞ヶ関」の影がちらついていることを県民の多くは知らない。

 ガーデンヒルズ松陽台における県営住宅増設を決めた伊藤祐一郎知事は総務省出身の天下り。事業を所管する県住宅政策室の室長は国土交通省からの出向だ。そして、松陽台町内会の鹿児島市への直訴をすげなく突っぱねた古木岳美副市長も、じつは国土交通省からの出向組なのである。
 公共事業の創出だけを生きがいとする輩が、地方自治体の幹部として行政運営を仕切ることでムダが次々と生み出されるという寸法だが、ガーデンヒルズ松陽台の県営住宅増設がそのうちの一例であることは疑う余地がない。

 住民自治ともっとも縁遠い霞ヶ関の官僚がネットワークでつながり、ムダな公共事業を乱発するためのシステムを構築する鹿児島県の姿は、この国の縮図と見ることもできる。

 ガーデンヒルズ松陽台の開発計画変更に関しては、誰がいつ決定を下したのかについての公文書上の記録さえ存在していない。



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