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陽子線がん治療・保養施設に「動物実験用サル」を大量飼育
メディポリス指宿・新日本科学に問われる倫理観

2012年10月 5日 10:10

 陽子線を使ったがんの治療施設「がん粒子線治療研究センター」を核にした鹿児島県指宿市の一大保養施設「メディポリス指宿」の敷地内に、動物実験用のサルを大量に飼育する設備が存在していることが明らかとなった。
 メディポリス指宿には、同センターのほか結婚式場や温泉を完備した宿泊施設もあり、県内外から訪れる人が絶えない。いわば生命の輝きを売りものにしている施設内に、殺処分を前提にした実験用動物を飼育している形。構想全体との整合性が問われる事態だ。
 60億円もの公費支出に支えられた同施設だが、事業を所管する鹿児島県の担当課は、実験用動物繁殖施設の存在を知らなかったとしている。

メディポリス指宿
 メディポリス指宿は、旧グリーンピアが所有していた広大な敷地と建物を利用し、最先端医療として脚光を浴びている陽子線によるがん治療・研究に加え、温泉付ホテルでくつろぐことを目的とする巨大な保養施設だ。
 がん粒子線治療研究センターの運営団体である「メディポリス医学研究財団」(永田良一理事長)と鹿児島県、県医師会、指宿市、鹿児島大学などが協同して行うプロジェクトでもある。

 メディポリス医学研究財団を実質的に運営しているのは、一部上場企業「株式会社新日本科学」(本店:鹿児島市)。理事長である永田氏が社長を務める会社である。
 プロジェクト自体は、平成16年7月に初期投資額230億をかけて建設された旧グリーンピア指宿を、新日本科学がわずか6億円で取得したところからスタート。平成18年からは、計画の軸に粒子線を使ったがんの治療施設を据えることを目指す動きが加速し、同20年に関係機関トップの合意を得て、現在の形による事業展開が進められてきた。
 先月、がん粒子線治療研究センターに関する財団への公費支出が60億円に上ることが、HUNTERの調べで判明したばかりだった。

がん粒子線治療研究センター  宿泊施設「天珠の館」
(写真、左が「がん粒子線治療研究センター」、右は宿泊施設「天珠の館」)

動物実験用サル 1000匹の飼育施設が
 メディポリスの中心企業「新日本科学」は、一部上場企業でありながら、鹿児島県以外の地域ではあまり知られていない。同社の主業務は「前臨床試験受託事業」、要は薬の開発段階における「動物実験」を主業務にしている会社だ。
 今回分かったサルの飼育施設は、同社が建設・整備したもので、メディポリス指宿の入り口から車で数分の場所、木立の奥に一般客の目を逃れるような形で16棟が並んでいた(下の写真参照)。

ゲート  小屋

近づくとサルの叫び声
サル 飼育施設に近づくと、いきなりサルの甲高い叫び声。風向きによって獣特有の強い臭いが流れてくる。金網越しに見えたのが冒頭と右のサル。尻尾の長さや風貌、同社の有価証券報告書の記載などから、動物実験用の「カニクイザル」であると見られる。

 新日本科学は、前臨床試験といわれる薬の実験用に犬・ラット・サルなどを使用しているが、年間数百~1,000匹単位のサルを輸入していることを公表しており、メディポリスの飼育施設はそうしたサルのためのに建設されていた。
 同社ホームページの沿革には、平成19年に「メディポリス指宿(鹿児島県指宿市)内に霊長類繁殖育成センターを設置」と明記している。

実態知らぬ県―市民からは「非常識」との声も
 メディポリス事業のうち、がん粒子線治療研究センターに関する事項を所管する鹿児島県保健福祉部地域医療整備課に確認したところ、サルの飼育施設が存在することなど聞いていないと明言。動物実験用のサルが飼われていることなど、まったく知らなかったとしている。 

 複数の指宿市民にも聞いてみたが、温泉に行ったことはあるが、サルの飼育施設には気付かなかったという人ばかり。あるご婦人は次のように話す。「人の命にかかわる場所に、実験用のサルを飼っているなんて信じられない。サルは実験後に殺されるわけでしょう。非常識ですよ。動物の命も同じ命。指宿市民に隠れて、そんなことをやっていたなんて・・・」。

 別の50代男性会社員は次のように指摘した。「風光明媚と観光が売りものの指宿市に、動物実験用のサルをたくさん飼育するための施設があるなんてとんでもないことです。命の洗濯をするための土地にはまったくそぐわない。指宿市や県は知っていたのでしょうか。新日本科学は、もっともらしいことを言っておきながら、指宿市民を騙したのではないですかね。結局は自分の会社の利益につながることを目論んで、メディポリスをやっているんでしょう。何十億もの税金を使ってやる事業じゃなかった」。

動物愛護団体からも厳しい意見
 尊い動物の命を守るため、25年以上にわたって活動を展開してきた「NPO法人動物実験の廃止を求める会(JAVA)」は、指宿の事態についてこうコメントしている。
 『動物実験の廃止を求めている当会としては、いかなる場所であろうとも、動物実験にかかる施設は造るべきではない考えています。
 動物実験は、動物に酷い苦痛や恐怖を味あわせた後、殺処分するという非常に過酷な行為です。市民、ホテルの利用者からしたら、楽しむために利用する施設の近くで実験用サルが飼育されたり、そのサルが実験に使われ殺されることを知ったら、大きな衝撃を受けるに違いありません。
 また、施設から流出する恐れがある化学物質による汚染など社会に与える問題も考えられます。施設がある以上、ホテルに訪れる観光客や近隣住民、ホテルに勤務する従業員の心身に与える悪影響も心配です。
もし市民に十分な情報を与えず、意識的に隠ぺいしていたとしたら、悪質ということになります』。

問われる倫理観 
 新日本科学は、そのホームページの中でメディポリス構想について、こう説明している。
 《深刻化しつつある生活習慣病の蔓延、加速する超高齢化社会を背景として、健康に対する関心は年々高まっています。
 このような環境のもと、行政、医療機関や研究機関、企業・団体等がそれぞれに健康に寄与する活動を行っていますが、メディポリス指宿構想では、健康に関わる医療、研究、産業の分野を包括的に取り組み、「南九州から世界に向けて"光"を放つ医療」を基本コンセプトとし、健康への強い社会的ニーズに総合的に応えることができる医療産業都市の構築を目指しています。
 その舞台となる『メディポリス指宿』は、総敷地面積が103万坪(東京ドーム約77個分)という壮大な規模を有しており、風光明媚な景観と豊かな大自然に恵まれた施設です。
 具体的には、「予防医学」、「高度先端医療」、「こころのケア」、「創薬研究」の4つの分野を柱とし、それぞれの分野で活動の中心となるセンターを順次開設してまいります》。

 サルの飼育施設建設についてまったく触れられていないことは言うまでもない。
 同社に問われているのは、60億円という巨額な公費が投入されたメディポリス事業と、動物実験用サルの飼育との整合性であり、鹿児島を代表する企業としての倫理観なのではないだろうか。

 同社に確認取材をお願いしてみたが、出稿までに連絡をもらうことはできなかった。



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