高島宗一郎福岡市長の就任からまもなく2年。当初、若い市政トップの登場に沸いた福岡市だったが、今日に至るまで、市民が「福岡が変わった」と実感する施策は打ち出されていない。
そればかりか、平成16年から続いていた市長と副市長の給与カットが、高島市長の判断で打ち切られていたことが明らかとなった。
市財政の悪化が懸念され、市民サービスの削減が検討される事態となる中、市長だけが事実上の“昇給”を行っていたことになる。
給与カット措置はどのような経緯で打ち切りになったのか―市への情報公開請求で見えてきたのは、満足な議論もせずに自分の“昇給”を決めた、さもしい市長の姿勢だった。
8年間続いていた市長給与カット
福岡市における市長・副市長の給与は、「福岡市特別職職員等の給与に関する条例」で次のように定められていた。
平成16年3月、当時の福岡市長だった山崎広太郎氏は、厳しい財政事情を踏まえて、改革への意思を示すため、特別職である市長・副市長をはじめ、管理職の局長・部長・課長まで5%~10%の給与カットを行うことを決める。
この時、市長ら特別職の給与カットを行うため制定されたのが「福岡市長等の給料の特例に関する条例」である。条文自体は、次のわずか1項に過ぎない。
《福岡市特別職職員等の給与に関する条例(昭和27年福岡市条例第7号。以下「給与条例」という。)第2条第1項の規定にかかわらず、平成16年4月分から平成23年3月分までの市長及び副市長の給料の月額は、同項に掲げる額から、市長にあっては同項に掲げる額に100分の10を、副市長にあっては同項に掲げる額に100分の5をそれぞれ乗じて得た額を減じて得た額とする。ただし、給与条例第3条第1項及び第4条第1項並びに福岡市特別職職員等退職手当支給条例(昭和32年福岡市条例第43号)第2条第1項の規定の適用については、この限りでない》。
これによって市長が10%、副市長は5%の給与カットが実現したが、条文にある通り《平成16年4月分から平成23年3月まで》の時限措置となっていた。
当初の給与カット期間は2年間だったが、平成18年、20年、22年(延長期間1年)と同条例を改正する形で延長されており、3期目を目指した山崎氏を破って平成18年に市長となった吉田宏氏でさえ、給与カットの姿勢を崩していなかった。
議論なしで給与カット打ち切り
ところが、同条例の期限だった平成23年度末を目前にした同年1月―即ち高島氏が市長に就任した直後、給与カット期間の延長に必要となる条例の再改正を止める判断が下される。
さして財政事情が好転したとは思えない時期に、どのような議論を経て給与カットを打ち切ったのか?
その過程を確認するため、福岡市に対し「福岡市長が給与削減を見送った理由と、方針決定までの過程が分かる文書」を情報公開請求したが、今月25日に開示されたのは、わずか2枚の文書に過ぎなかった。
下の文書は、そのうちの1枚「平成23年度以降における本市における給与カットの取扱いについて」で、作成したのは市職員の給与を所管する総務企画局人事部労務課である。(赤いアンダーラインはHUNTER編集部)
文書右上にある手書きの文字は、人事部労務課の職員が記入したものと見られるが、時系列順に説明に及んだ日付と相手が記録されている。
人事部長、局長、副市長の順に持ちまわり的に説明したのち、1月5日に高島市長に判断を仰いだ形だが、市内部で議論の場を設けることもなく、いきなり給与カットを止めるとの結論を出していたことが分かる。
開示されたのは、この1枚と「市長の給与について」(本稿後半参照)と記された市長給与額の減額前と減額後の収入を並べた表だけで、方針決定の決済文書や、市内部の議事録などはないという。
市として、市長給与カットの意義やこれを止めることでどのような影響か出るかという検討は、一切なされていなかったということだ。
高島氏の市長就任は平成22年12月7日。そのわずか20日後には条例打ち切りの方向で調整が図られ始めており、市長もしくは市長周辺の指示で“昇給”を進めた可能性が高い。
市としての姿勢が問われる重要な条例が、役人サイドの勧めで葬り去られるはずがないのだ。
市長指示の可能性
市長給与の削減は、歴代市長の決断によって始められ、継続されてきており、一部局の意見具申程度で左右される性格のものではない。
しかし、開示された文書には、「市長等の給料に関する基本的な考え方」として《その期間が長期にわたることは適当ではない》と明記されており、条例廃止を前提に話が進められたことは明らかだ。
市長の給与カットが長期にわたることに何の不都合があるのか分からないが、これでは歴代市長の政治的判断で継続されてきた方針が、役人の意見に基づき変更されたことになってしまう。 “越権”と言われても仕方のない格好だが、行政側が結論を導いたとは思えない。
給与カット打ち切りが検討された時期、副市長は退任が確実視されていた髙田洋征、靍川洋の両氏で、これほど重要な方針の決定に、無責任なかかわり方をするとは考えにくい。一連の流れは、どう見ても市長自身の意向が働いたと解釈すべきものだ。
そうなると前掲の文書は、高島市長の立場を守るため、作為的に《その期間が長期にわたることは適当でない》と書かせ、アリバイを作らせたと見る方が自然なのだ。
いずれにせよ、最終判断を高島市長が行ったのは事実で、市政の実態を無視したさもしい市政トップの姿が浮かび上がる。
さもしい市政トップ 腐ったミカンはどっち?
報道では市長の給与カット打ち切りばかりが報じられたが、前出の条例を見ての通り、副市長の給与も本来の額に戻っていたことになる。
これによって、市長の給与が年間156万円、副市長3人で年187万2,000円、計343万2,000円の人件費が増える計算だ(注:前掲の文書作成時は、副市長が2名だったため、年間削減額は市長と副市長2名の合計で280万8,000円となっている)。
8年間も続いた財政削減にかける市としての意思表示が、いとも簡単に放棄されたあげく、人員や経費の削減に苦労する市職員をよそに、市長、副市長の給与だけがアップする状況となっていたのだ。しかも、給与カット中止を、報道されるまでの2年間近く公表していなかったのだからタチが悪い。
こうした愚行が市職員の意識低下を招いているとしたら、方針を決めた市長の責任は重大である。
今年6月、飲酒が原因で相次いだ市職員の不祥事を受けた高島市長は、自らの給与1か月分を全額カットすると発表した。金額にして130万円だが、年間156万円もの“昇給”となっていた市長にとっては、大して痛くもない話だったのではないか。
マニフェストにもなかった二階建てバスと市役所ロビーの改装に約5億円の税金を投入するなど、現物が市長自身の視界に入る無駄の創出には熱心だが、子育てや高齢者への目新しい施策は何一つ実行されていない。
市民の暮らし向きには目もくれず、派手な演出ばかりにこだわる高島氏は、ついにタレントの尻馬に乗って仮想の区(カワイイ区)まで作ってしまう始末だ
実態のない行政区とはいえ、タダでことが進むはずはない。話をもちかけたAKB48の一人を区長に任命し、会見を開いただけで約1,000万円の税金がすっ飛んだのは事実。子どもの遊び同然の市政に、役人と大手メディアが踊らされ、市民が泣きを見るという構図だ。
部下には厳しく、自らには甘い高島市長。不祥事を起こした市職員を「腐ったミカン」と罵倒していたが、腐っているのはどちらだろうか。
下は、給料カットを継続するかどうかの判断を仰ぐため作成されたもう一枚の文書で、本来の市長給与、減額後、期末手当、年間収入、退職手当等の額を示したものだ。
“昇給”によって、高島市長の年収は2,318万950円となり、退職時には3,744万円を得ることになる。
一方、市では今後850億円以上の財源不足が見込まれており、81項目にわたる事業の見直し作業を余儀なくされる事態となっている。つまりは市民サービスの低下である。
観光だのバーチャル空間だのにかまけて税金を湯水のごとく使う市長が、自身の給与を引き上げ、市民サービスは削減するという現実・・・。
腐っているのは、まちがいなく市長さんご自身であろう。