政権交代前の平成21年春、民主、自民の両党内で「世襲禁止」が議論された。その後、民主党はマニフェストに企業団体献金の廃止と世襲禁止を明記したが、自民党内ではうやむやに―。
先ごろ行われた総裁選挙に出馬した5人が、いずれも世襲議員だったことでも分かるように、自民党の体質は変わっていないと見る方が自然だろう。
地盤、看板に加えカバンと呼ばれる「政治資金」まで引き継ぐ世襲に、問題が多いことは確かだ。とくに、先代が残したカネをそっくり相続する場合には、税法上の問題がつきまとう。
改めて、引退もしくは引退が噂される議員の政治資金について検証した。
安倍総裁が“相続”した7億円は・・・
引退議員の政治団体のカネに注目が集まるのは他でもない、自民党の新しい“選挙の顔”となった安倍晋三氏が首相時代、亡父から引き継いだカネで追及されていたからである。
総裁に返り咲いた安倍氏は、かつて亡父である安倍晋太郎元外相から地盤を引き継ぐと同時に、巨額の政治資金も“相続”していた。
故・晋太郎氏の政治団体が保有していた政治資金は約7億円だったことが明らかとなっているが、すべてが晋三氏の政治活動を支えるために費やされてきた。
もっとも保有金が多かった故・晋太郎氏の政治団体「緑晋会」は、代替わりから数年後に「東京政経研究会」と名称を変更、現在に至っている。
平成22年末の時点では、同団体の繰越金が約2億5,000万円まで減っており、“遺産”を使い続けてきたことが分かる。
こうしたカネが、相続税法上の課税対象資産ではないかと疑われていたのだが(安倍氏の政権放り出しでうやむやになったが・・・)、引退や死亡によって残される政治資金の扱いについて、様々な議論があるのは確かだ。
相次ぐ長老議員の引退
次期総選挙を前に、長老議員の引退表明が相次いでいるが、その方々の政治資金について調べてみた。
主な引退議員の政治資金の動きを確認してみたが、いずれもとうに峠を越えた方々のせいか、ここ数年、資金管理団体を使ったカネの動きは少なかった。
平成22年末時点での保有金は、首相や幹事長経験者でもかつてのような巨額な資金は動いておらず次のような状況だ。
昨年から現在までに収入・支出が大きく変化する要因は見当たらず、巨額な遺産が残されるわけではなさそうだ。
同じ引退議員でも、消費増税への道筋をつけたとされる与謝野馨元財務相の政治資金は豊富だ。
与謝野氏の資金管理団体「駿山会」は、平成22年末の時点で3億1,525万7,951円を保有しており、毎年の支出額が7,000万円~9,000万円ほどであることから、億単位の政治資金が残ることが予想される。
もっとも、平成22年末の保有金3億円のうち約2億円は、与謝野氏が自民党を離党した同年に、支部長を務めていた自民党支部から駆け込み移動させたカネである。
政党のカネを与謝野氏個人の財布(資金管理団体は政治家の財布である)に入れていたわけで、そうした意味でも駿山会のカネが今後どのように処理されるのか興味深い。
注目される古賀誠氏の6億円
引退がらみで現在もっとも注目されている政治家は、古賀誠元幹事長であるといわれる。
総裁選では、自らが率いてきた古賀派「宏池会」内の谷垣前総裁に引導を渡し、“若い候補”を支援して失敗。派閥は雲散霧消した形となり、領袖の座を明け渡さざるを得なくなった。
永田町関係者の間からは、次のような話まで聞こえてくる。「古賀さんは自分が派閥の代表を辞めると言ったら誰かが止めると思っていた。案に相違して派内は冷やか。引き止める人間などいなかった。古賀さんは墓穴を掘ったんだな」(衆院議員秘書)。
古賀氏が派閥の代表を辞した直後から、福岡県内で流れたのが同氏の「議員引退」の噂。そして、もっとも注目されているのが、巨額な政治資金なのである。
下は、古賀氏側が福岡県選挙管理委員会に提出した平成22年の政治資金収支報告書の一部だが、翌年への繰越金は約6億円に上る。
毎年、政治資金パーティで億単位のカネを集めては“資産”を増やし続けてきた古賀氏だが、政治家としての去就より、6億円という途方もない遺産の行方に注目が集まっているのである。
蓄えられた巨額なカネが、身内以外の人間に引き継がれることはないというのが大方の見方だが、そうなると億単位の資金はどうなるのだろう。
古賀氏の政治資金をめぐっては、違法性が疑われる杜撰な処理が続いてきたことを度々報じてきたが、今度ばかりはどさくさまぎれに個人の懐に―ということなど許されない。
次の総選挙までは古賀氏自身が立候補せざるを得ない状況とされるが、存在感の薄くなった同氏の保有する政治資金の額だけがひと際目立っている。