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破綻した伊藤鹿児島県知事の釈明
「嘘の証拠」で問われる100万円の賄賂性
~メディポリス構想の闇~

2012年9月26日 07:55

 賄賂性が疑われる献金をめぐる伊藤祐一郎鹿児島県知事の釈明が、「嘘」だったことを証明する文書の存在が明らかとなった。
 HUNTERが鹿児島県に対し情報公開請求して入手したもので、疑惑の背景となっていたメディポリス事業に関し、関係者一同が基本的な考えを確認し、それぞれが署名したA3版の文書だ。日付は平成20年2月20日。そこには、県として応分の財政支援を行うことが明記されていた。
 鹿児島県指宿市で「メディポリス医学研究財団」が運営する「がん粒子線治療研究センター」事業への巨額な公費投入は、この文書なくしては成立しなかったものと見られ、平成18年~19年の時点で財政支援のフレームが出来上がっていたとする知事の説明に齟齬が生じている。

平成20年―知事選、疑惑の寄附、そしてメディポリス
がん粒子線治療研究センター(指宿市) 60億円に上る公費が投入されることになった「がん粒子線治療研究センター」(右の写真)に関する事業は、同財団の設立主体である「新日本科学」が、平成16年に旧グリーンピアの広大な土地と施設を購入したことに端を発する。

 同センターを中核施設に位置付け、平成18年に動き出したメディポリス構想において重要な意味を持っていたのは、「平成20年」という時期だ。
 鹿児島県知事選挙が行なわれたこの年、2期目の当選を目指していた伊藤祐一郎知事に対し、財団理事長で新日本科学社長の永田良一氏が100万円を寄附する。
 この件についての報道を受けた知事は、昨年8月5日に記者会見を開き釈明したが、ことさら同事業の公費支出の枠組み決定が平成20年より前であったことを強調していた。
 この点について、昨日の記事で知事の発言が事実誤認と嘘で固められたものだったことを詳報したが、同事業への巨額な公費支出を決定付けたのが「平成20年」だったことを証明する文書が存在していた。

 まず、メディポリス関連の公費支出のうち、平成20年に関する動きをまとめておきたい。 

【放射線利用・原子力基盤技術試験研究推進交付金】
平成20年 5月15日 平成20年度同交付金申請(財団→県)
平成20年10月24日 交付決定通知((県→財団) 最終交付額:5億2,365万円
【ふるさと融資】
平成20年 1月27日 借入れ申込(平成20年度分・財団→県) 
平成20年11月10日 県が(財)地域総合整備財団(ふるさと財団)に事前協議書提出
平成21年 3月23日 金銭消費貸借契約 貸付額:1億3,000万円
【県単融資】
平成21年 2月17日 借入れ申請(平成20年度分・財団→県) 貸付決定通知は2月20日
平成21年 3月30日 消費貸借契約 貸付額:3億6,400万円
【企業立地促進補助金】(交付金額5億円)
平成20年 8月 4日 補助金交付対象事業所指定申請(財団→県)
平成20年 8月 8日 県が申請内容が適性であることを決済
平成20年 8月11日 補助金交付対象事業所指定を通知(県→財団)

 「放射線利用・原子力基盤技術試験研究推進交付金」、「ふるさと融資」、「企業立地促進補助金」、いずれも平成20年の動きがいかに重要であったかが分かる。4億円近い平成20年度分の「県単融資」も、知事選の半年後にばたばたと事が進んでいる。

 前述したように、平成20年は伊藤知事が2期目を目指した鹿児島県知事選挙があった年だ。知事は告示直前の同年6月16日、マニフェスト「力みなぎる・かごしま 新たな未来への挑戦」を公表するが、この中でわざわざ《粒子線がん治療研究施設の整備促進を図るなど、がん対策を総合的・計画的に推進します》とうたっていた。1期目のマニフェストにはなかった項目で、新日本科学という民間企業が始めた事業を、知事公約にまで高めた形となっている。
 後年の放射線利用・原子力基盤技術試験研究推進交付金の決済文書には、この時の知事のマニフェストが添付されており、補助金追加の裏付けとして使われた形となっていた。
 知事選マニフェストに粒子線がん治療研究施設の整備促進が盛り込まれたことは、県民向けというより役所内での“お札”の意味合いが濃かったと言わざるを得ない。

事業の方向性決めた「合意文書」
 同年2月の合意文書、そしてマニフェスト・・・。こうした中で行われた永田氏の寄附について、知事は釈明会見で、平成20年がメディポリス事業にとって特別な年ではなく、公費支出の枠組みは平成18年、19年の早い段階で決まっていたと強弁していたのである。しかし、この主張は明らかな嘘だ。
 下が、メディポリス構想の核である「がん粒子線治療研究センター」建設事業を進める道具となった平成20年2月に交わされた合意文書である。(赤いアンダーラインはHUNTER編集部)

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gennpatu 1864410751.jpg この文書は、メディポリス医学研究財団が主体となって開かれた第2回メディポリス指宿「がん粒子線治療研究センター」産学官代表者会議の結果を受けて作成されたものだ。
 
 鹿児島市内で開かれた会議には、伊藤知事をはじめ指宿市長、鹿児島大学長、県医師会長、そして永田良一氏が参加。議題は、「メディポリス指宿「がん粒子線治療研究センター」施設整備計画について」と「整備計画の推進について」の2件だけで、協議の後「基本的な考え方への署名」が予定されていた。

 案内文書(左の文書参照。赤いアンダーラインはHUNTER編集部)に記された会議の所要時間がわずか30分であることから、協議そのものはセレモニーで、「基本的な考え方への署名」が最重要課題だったことがうかがえる。
 巨額な公費投入は、まさにこの日を境にとめどなく膨れ上がっていったのである。
 平成20年という時期を単なる通過点とした知事の説明は、メディポリス事業と100万円の寄附との関連性を否定するための方便に過ぎない。

問われる100万円の賄賂性 
 釈明会見での知事の発言はこうだ。《そもそも報道が正しくないと思っていますから。公職選挙法、政治資金規正法の解釈を完全に間違っているので、そういう意味においては返還する(返還しなければならないような)、違法性が全く生じない、道義的責任も先程言いましたように、今のフレーム、体系の中で、そういうようなスキームを今作って、われわれ政治家を動かさしていただいてるわけだから、まったくそういう道義的な責任もないということであるとすると、ありがたく友人から100万という公職選挙法上の寄附を受けた、そういう理解で私はいますので、これ以上の対応を取る必要がないし、取る気持ちも全くありません》。

 公選法や政規法の解釈を問うつもりはない。HUNTERが一貫して指摘してきたのは、問題の100万円に賄賂性があるのではないかという一点だ。知事が嘘の説明を繰り返したのは、収賄の構成要件を否定するためだったとしか思えないが・・・。



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