昨年4月、鹿児島県指宿市にオープンした粒子線を使ったがんの治療施設「がん粒子線治療研究センター」をめぐって、運営主体の「メディポリス医学研究財団」に対し、これまで支出もしくは支出予定とされてきた約53億円の公費以外に7億円の補助を行うことが分かった。同財団への公費支出は60億円に膨れ上がる。
伊藤祐一郎知事の定例会見における説明をはるかに超える税金投入に、県民から疑問の声が上がっている。
(写真は、指宿市の「がん粒子線治療研究センター」)
公費支出約52億6,000万円
これまで、メディポリス医学研究財団に対する支出で、明らかになっていた補助金や公的融資の総額52億5,955万7,481円の内訳は次の通りだった。
【放射線利用・原子力基盤技術試験研究推進交付金】
平成18年度~平成23年 → 交付金総計:28億5,955万7,481円
【県単融資】
平成20年度~平成22年度 → 貸付総額14億円
【ふるさと融資】
平成20年度~平成22年度 → 貸付総額5億円
【企業立地促進補助金】
平成24年3月に交付額決定 → 交付金額5億円
研究補助に11億円
新たに支出が判明したのは、主として「放射線利用・原子力基盤技術試験研究推進交付金」を利用した平成23年度からの乳がん研究に対する補助金だ。
事業を所管する県保健福祉部地域医療整備課の説明によれば、乳がん研究事業への補助として、平成23年度から5年間で11億円が見込まれており、平成24年度は、同交付金と県の一般会計から約2億5,500万円が支給されるという。
前掲の支出総額はHUNTERの調べで判明した数字で、平成23年度に同様の形で支出された約3億8,000万円も含まれている。しかし、これまで県が公費支出の詳細を公表した記録はなく、研究補助にかかる11億円は伏せられてきた形だ。
24年度以降、乳がん研究への補助として7億円強が支出されることになる。
新たに分かったこの7億円を加えると、実際のメディポリス医学研究財団への公費支出額は60億円に上るということだ。
知事釈明と食い違う公費支出額
昨年8月、伊藤知事に、メディポリス医学研究財団の理事長で、同財団の中心である「新日本科学」(本社:鹿児島市)の社長・永田良一氏から、平成20年の鹿児島県知事選で100万円の寄附を受けていたことが発覚した。
報道を受けた知事は、同年8月5日の定例会見で釈明したが、この折に公表された会見資料(右参照。赤い矢印とアンダーラインはHUNTER編集部)には、がん治療センターの建設事業に関する補助金額しか記されていない。
融資の時系列的説明や5億円の「企業立地促進補助金」の存在などが伏せられた上、乳がん研究に対する補助金11億円についての記述は一切ない。
説明資料には《事業総額約92億円のうち約43億円を支援(残額は財団が負担)》としか書かれておらず、財団への支出実態とはかけ離れた数字が示されただけだ。
今回分かった研究補助がすべて実施された場合、公費支出額が知事の説明資料記載金額より17億円も膨らむことになる。
詳しい内容説明を避け、知事と財団との不適切な関係が浮き彫りになるのを防ぐ狙いがあったと見られる。
県民からも厳しい批判
膨らみ続けるメディポリス医学研究財団への公費支出に、鹿児島県民からも疑問の声が上がる。
「えっ、まだ補助金を出すんですか?11億?じょうだんじゃない。そもそもメディポリスは富裕層向けのがん治療施設でしょう。300万円もの治療費を負担できる人がゴロゴロいるわけではない。伊藤知事は、がん保険にさえ加入する余裕のない人の方が多いという状況を知らないんでしょうね。高級官僚上がりの政治家らしい姿勢です。原発マネーとはいえ、お友達が作った財団法人に湯水のごとく何十億円もの税金をつぎ込み、県民への説明が不十分というのでは疑惑を持たれてもおかしくない。知事選の時の献金はやっぱり公費支出に対する見返りだったんじゃないですか」(鹿児島市在住。公務員)
薩摩川内市在住の40代の主婦は、歪んだ県政の在り方が問題だとして次のように話す。「ここ(薩摩川内市)で行われている産業廃棄物の最終処分場建設でも、知事は住民の意見など聞かなかった。どう見ても知事の背後にいるのは植村組というゼネコンですよね。メディポリスをやっているのも知事のお友達でしょう。知事がやっているのは、自分の取り巻きのための県政で、県民のための県政ではない。こんな人にあと4年も鹿児島県を任せていたら、とんでもないことになる」。
巨額な公費支出が進められる過程で、財団理事長の永田氏から伊藤知事へ、選挙時の100万円を含む総額200万円の政治資金提供が行われていたのは事実だ。そして、メディポリス構想に関しては、さらなる問題点が浮上している。
次稿では、伊藤知事の会見での発言が「嘘」だったことを詳報する。