昨年10月に滋賀県大津市で起きた中学生の自殺の原因が、同級生のいじめによるものだったことが判明して以来、改めて社会問題化した“いじめ”。
同様の悲劇が何度となく繰り返されてきたことは周知の通りだ。
大津市のケースでは、市教委や自殺した生徒が通っていた中学の隠蔽体質に厳しい批判が集中したが、身近ないじめの状況はどうなっているのだろう。
HUNTERが拠点を置く福岡市で、同市教育委員会に情報公開請求して入手した市立小・中学校におけるいじめの事故報告書から、“そこにあるいじめ”を検証する。
増加する福岡市内のいじめ
11日、文部科学省が平成23年度の「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」の結果を公表した。教育現場で起きた暴力行為、不登校、自殺などに関する各自治体ごとの調査結果を取りまとめたものだが、このうち全国の小・中・高校と特別支援学校において把握された“いじめ”は7万231件に上る。
文科省の調査結果は、各学校が所管する教委に提出した事案ごとの事故報告書等の内容を集約したもので、情報公開制度が確立している自治体では、各教委がこの報告書の部分開示に応じる場合もある。
HUNTERが入手した「いじめに関する事故について」と題する報告書は、福岡市内の市立小・中学校が把握したいじめについて、発覚したきっかけからその後の対応までをA4用紙1枚の定められた様式にまとめたものだ。
それによると、平成21年度から今年8月までに、いじめとして認知された事案の数字は次のような結果となる。
【平成21年】
小学校・・・10件 中学校・・・28件 計38件
【平成22年】
小学校・・・ 4件 中学校・・・45件 計49件
【平成23年】
小学校・・・13件 中学校・・・56件 計69件
【平成24年】(4月~8月)
小学校・・・ 6件 中学校・・・18件 計24 件
いじめの件数は年々増加しており、今年度も昨年を上回るペースで報告書が出されているといるという。ただし、この数字には私立小・中学校の報告事例が含まれていないため、市全体のいじめ発生件数は若干増えると見られる。もちろん、把握されていないいじめも多数あるはずだが、市内の学校におけるいじめが増加傾向にあることは間違いない。
いじめに関する事故報告が増加していることについて、福岡市教育委員会の学校指導課に聞いたところ、平成22年6月に川崎市の中学校において、同年10月には群馬県の小学校において、いじめが原因とされる自殺が相次いだことを受けて、文科省が新たな指導要領を定めて通知したこともその一因だと話す。
平成22年11月に大臣政務官から都道府県および政令市の各教委などに出された「いじめの実態把握及びいじめの問題への取組の徹底について(通知)」では、「いじめの問題への取組の徹底について(通知)」(平成18年・初等中等教育局長通知)や「『平成21年度児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』結果について(通知)」(平成22年・初等中等教育局児童生徒課長通知)を踏まえ、「アンケート調査」の実施や所管の学校におけるいじめの実態把握の取組状況を点検すること等を求めていた。
通知を受けた福岡市教委は、平成23年度から、毎学期の終わりごとに文科省が示した「いじめの問題への取組についてのチェックポイント」に従った確認を行ってきたとしている。その結果がいじめ事故報告の増加なのだ。
じつは、いじめによる自殺が社会的な問題として取り上げられるたび、翌年にかけてのいじめに関する報告が増加し、その次の年は減少するという傾向が続いてきた。福岡市の事情も同じである。
緊張感があるうちはいじめに目を光らせるが、時間が経つに従い、子どもを見守る目に弛みが生じている証であろう。これは報道も含めて社会全体が心せねばならぬことだ。
ただ、平成23年度から始めたという教育現場での細かなチェックが、いじめの発見につながっていることは評価に値しよう。
報告書のいじめは氷山の一角との声も
問題は、教育現場で把握できていない“隠れたいじめ”にある。
前述した滋賀県大津市の事件をはじめ、生徒が自殺した後にいじめが原因だったことが分かるというケースが大半で、学校から教委に対し報告書として提出されたいじめ以外に、極めて陰湿な事例があることを物語っている。深刻ないじめほど表に出ないということに注視すべきであろう。
福岡市で長く教員を務めたある男性はこう語る。「事故報告として市教委にあがるのは、何らかの形でいじめが表面化したケースだけです。いじめを受けた子どもの親御さんから学校に連絡ある場合もあれば、いじめを目撃した他の子どもが信頼する先生に耳打ちしてくれることもあるし、教員がいじめの雰囲気を感じて、子どもたちに話を聞いて発覚する場合もあります。
いずれにしても表沙汰になったケースだけですから、実際のいじめはもっと起きていると考えた方がいいでしょう。事故報告に記されたいじめは、氷山の一角と見た方がいい。いじめはすべて悪いことですが、むしろ発覚しないいじめの方がタチが悪いと見ています」。
1対多 加害者25名のケースも
福岡市教委が受けたいじめの事故報告は、たしかに氷山の一角なのかもしれない。だが、提出された事故報告書から身近ないじめの輪郭程度をつかむことは可能だ。
情報公開請求に応じて開示されるいじめの報告書は、個人情報保護のため事案の詳細が黒塗りになる。このため、いじめの実態を正確につかむことは難しいのだが、それでも確認できる記述の内容からは、暴力行為を伴うものや継続的ないじめが発生していたことが分かる。
いずれも許されない行為だが、報告されたいじめの8割以上が1人を多数でいじめていたものだったことに注目した。
いじめの加害者が4人から6人といったケースが多いのだが、10人以上で1人をいじめていた事例も多数存在し、ひどいものは加害者が25名という、中学校で起きた集団いじめも報告されていた。(下がその報告書の一部。青塗りはHUNTER編集部)
加害者が25名といえば、「クラスぐるみ」と言ってもおかしくない状況だが、このいじめに関する報告書からは別の問題も見えてくる。
次稿では、それぞれのいじめ事故報告書の内容を見ながら、いじめの実態と教育現場の対応状況について検証する。