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原発・討論型世論調査 報じられないマスコミへの評価

2012年8月27日 10:30

 政府は今月22日、今夏に行われたエネルギー政策についての「討論型世論調査」の結果を公表した。
 結論は、2030年の電力に占める原発の割合を「0%」「15%」「20~25%」 とする三つの選択肢のうち、0%支持が46.7%と最も多かったというもの。
 大飯原発再稼働を経ても、国民の意識が「脱原発」に向いていることを示す一つの証左となったのは事実だが、この調査結果に関して、詳しく報じられていない部分がある。
 エネルギー問題についての情報の信頼度を問うた結果で、国や電力会社と並んで、マスコミが発信する情報への信頼度が低下していることが明らかになっていた。

調査への疑問―選択肢に「即廃炉」なし―
 調査は、大学教授らで構成された「エネルギー・環境の選択肢に関する討論型世論調査 実行委員会」によって実施され、政府が提示した2030年までのエネルギーと環境に関する三つのシナリオのうち、同年の電力に占める原発割合「0%」「15%」「20~25%」のどれを選択するかというもの。(調査結果→

 7月7日から22日にかけて、全国の20歳以上の男女を対象にした無作為抽出による世論調査(有効回答数6849)と、その回答者のうち8月4日~5日に都内で開催した討論フォーラムへ参加した286名に対して行った2回目のアンケート調査を柱として結果をまとめており(最終的なデータ数は285)、学習や討論を経て、国民の意見がどう変化したかを計3回のアンケートを通じて、把握するという仕組みだ。

 調査が原発に関する国民の意識を問うた意義は認めるが、選択肢を18年後の「2030年」時点に絞った設問に、定期検査後も休止している原発すべてを再稼働させず、そのまま廃炉にすべし、という選択肢が含まれていないことには大いに疑問が残る。
 調査で示された三つの選択肢では、2030年まで原発の運転を認めることになってしまい、これでは「再稼働反対」という国民意見は無視されたも同然である。

 「0%」の増加に政府や電力会社が困惑しているとの報道が目についたが、調査結果は2030年までの原発稼働を容認してもらった形で、むしろ喜んだ政府関係者の方が多かったのではないだろうか。原子力ムラによる“まやかし”が、依然として続いているということだ。 

報じられないマスコミ不信
 原発依存度に関する調査結果以上に興味を引いたのは、原発を含むエネルギーに関する情報の信頼度に関するアンケート結果だった。

 設問には《電力を含むエネルギー問題について、次の情報は、どのくらい信頼できますか。それぞれについて「全く信頼できない」を0、「大いに信頼できる」を10、「ちょうど中間」を5として、1つ選んでください》とあり、最終的な数字は次のようになっている。<注:( )内は左から1回目、2回目、3回目の結果>

  • 「政府の情報」(2.58→2.68→2.45)
  • 「電力会社の情報」(1.96→1.75→1.72)
  • 「原子力問題専門家の情報」(4.06→3.77→4.11)
  • 「マスコミの情報」(3.55→3.42→3.38)
  • 「NPOやNGOの情報」(4.85→5.28)(注:2回目と3回目だけ実施)
  • 「インターネット上の情報」(4.11→4.40)(注:2回目と3回目だけ実施)

 福島第一原発の事故後、国や電力会社の嘘や隠蔽が次々と暴かれる事態となっており、両者への不信感が増しているのはは当然だ。むしろ、まだ信用する人がこれだけいることに驚くばかりだが、注意すべきなのはマスコミ不信が顕在化していることである。
 10段階のなかの3.38という数字は、電力会社や国に次ぐ低さであり、ネット上の情報より信頼がないという結果となっている。

 調査報告では、国、電力会社、専門家、マスコミのどの情報に関しても、《信頼できるという意見が「全く信頼できない」を上回るものは存在しなかった》と明記しており、事態は深刻だ。
 マスコミへに対する信頼度の低さが深刻というのではない。マスコミ不信についての報道が皆無に近かったことが「深刻」なのだ。

 目についたところでは、西日本新聞が8月26日付朝刊の「原発報道 中立の建前が揺らいでは」の中でこの調査結果に触れ、《だが、討論型世論調査では、マスコミの情報の信頼度は決して高くなかった。マスコミの中立性、公正さに対する疑念が見て取れる。国民的議論が大詰めを迎え、本来、新聞が果たすべき役割は大きいはずだ。信頼回復のため、ここで中立・公正の立場と役割を再確認したい》と述べ、警鐘を鳴らしている程度だ。それでも、メディアに向けられた冷たい視線を意識した記事としては評価に値しよう。

 すべての報道をチェックしたわけではないが、マスコミ不信についての調査結果を大きく報じた記事が少なかったのは事実だろう。
 自分たちの都合の悪い話になると、とたんに大人しくなるこの国の大手メディアを象徴する現象ではあるが、じつは、こうした大手メディアの姿勢こそが、報道への不信感を増幅させている要因となっており、そうした意味で“事態は深刻”なのである。

問われる報道の使命
 「日本の原発は安全」とする主張は、政・官・業・学にわたるいわゆる原子力ムラが作り上げたものであるが、大手メディアが加担したからこそ成立した虚構だ。
 このことに対する反省もないまま、国や電力会社の発表を垂れ流す報道に信頼を求める方が無理なのかもしれない。

 原発再稼働がらみの報道では、立地自治体の首長たちを追いかけまわすばかりで、きちんと背景を描こうという動きは少なかった。
 HUNTERはこれまで、玄海原発がある佐賀県玄海町の歪んだ町政の実態や、川内原発(鹿児島県薩摩川内市)を抱える鹿児島県の知事や市長、直近では大飯原発のある福井県おおい町長の杜撰な政治資金処理などについて追及してきたが、いずれの自治体でも大手メディアが先に関連文書を確認したというケースはなかった。
 原因が意図的な不作為なのか、能力のなさなのか分からないが、読者や視聴者に知らせるべき情報が届かなかったのは事実で、これでは報道としての使命を果たしたとは言えまい。

 先月、大飯原発再稼働後のおおい町を訪れてみたが、過剰とも思える警備のため、原発施設に近づくことさえできない状況だった(下の写真参照)。
 マスコミ関係者の姿はほとんどなく、一時的に大騒ぎするこの国の報道機関の在り方を象徴する風景だった。

大飯原発1  大飯原発2

 今回の調査結果公表が、マスコミの使命について、原点に立ち返って考える機会になることを願うばかりだが・・・。



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