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問われる記者クラブの存在意義
「記者クラブ」検証 -2-

2012年8月16日 11:15

 九州7県の県庁記者クラブに行ったアンケート形式の質問取材で、記者クラブ制度の抱える問題点が浮き彫りとなった。

 記者クラブ加盟記者の意見集約に時間をかけざるを得ない硬直化した組織、多くの記者クラブで依然として続く排除の論理・・・。
 回答を得るまでの過程と、各クラブが示したアンケートへの答えによって、「開かれた記者クラブ」を標榜し、《記者会見はクラブ構成員以外も参加できるよう、記者クラブの実情を考慮に入れ努めていかなければならない》とする日本新聞協会の見解が、じつは建て前だけの話であることが証明された形だ。

 後述(17日配信)するが、特にひどかったのは長崎、佐賀、鹿児島の県庁記者クラブ。とても真実を追求する仕事に携わる人間たちの回答とは思えぬお粗末さだった。
 まずは記者クラブ制度の問題点を整理し、次いで各記者クラブからの回答を紹介しながらその現状を探る。

記者クラブ制度の問題点
 「記者クラブ」は日本特有の制度である。日本新聞協会加盟社かこれに準ずるメディアの派遣した記者によって構成されるため、雑誌はもとより海外メディアやインターネットニュースサイト、フリーランスの記者などは長い間、国や地方地自体の記者会見から排除されてきた。情報を独占的に享受できるという立場が既得権になっているということだ。

 結果、それを守るため、日本新聞協会が示している《記者クラブの機能・役割は、(1)公的情報の迅速・的確な報道(2)公権力の監視と情報公開の促進(3)誘拐報道協定など人命・人権にかかわる取材・報道上の調整(4)市民からの情報提供の共同の窓口―である》の中の最も重要な《公権力の監視》がおろそかになるという弊害を生んだことは否めない。

 スクープを偏重するあまり、取材対象の不適切な部分に目をつぶり、リーク情報を得ることに血道を上げるようになっているのである。行政機関にある記者クラブでは、特にその傾向が顕著だ。
 スクープと言っても役所がらみの人事や新たな施策を他社より早く報じるだけのこと。いずれは公表される事案ばかりなのだが、この一事に、抜いた・抜かれたと大騒ぎしているのが現状だ。滑稽というしかない。
 リーク情報の氾濫によって、読者や視聴者に知らされるのは権力側に都合のよい情報ばかりとなる。陰では役人を批判しながら、報じられる記事は役所の立場を正当化するものばかりなのだ。

 いくつかの事例を挙げてみたい。
 今年、福岡市役所が公表した市役所改装や2階建てバスの購入に関する記事では、市側の発表内容を詳しく報じながら、事業費の内訳や政策決定過程についての検証は皆無だった。
 それぞれの事業に数億円単位の公費が使われることや、財源が市債発行という借金に頼ったものであること、施策決定に市顧問となっていた市長の友人が関与していたことなどの問題点は一切報じられていない。これでは権力の監視機能を果たしているとは言えまい。

 鹿児島県庁の記者クラブはさらに末期的症状を呈している。
 「青潮会」などというもっともらしい名称を持つ同クラブだが、県が薩摩川内市で建設を強行している産業廃棄物最終処分場や、無駄な県営住宅(鹿児島市松陽台)の建設計画をめぐる知事の嘘や県民を無視した県政運営について、批判の矛先を向けようともしていない。
 いずれも数十億~100億の公費が浪費される事業だが、地元住民の根強い反対がある上、施策の決定過程は不透明なままだ。
 処分場建設をめぐっては、建設現場で脱法行為が横行しているほか、地場有力ゼネコンと知事との癒着が囁かれる事態であるにもかかわらず、真相究明の動きさえない。
 こうした姿勢が、後述するHUNTERの質問取材に対するトンチンカンな回答につながるのだろうが、鹿児島県庁の記者クラブが、日本新聞協会の「見解」にある『公権力の監視と情報公開の促進』など有名無実の状況にあることを明言しておきたい。

 税金の無駄遣いを批判する立場にありながら、施策の内容や政策決定過程を精査しようともしない記者クラブに存在意義を見出すことはできない。
 ネットメディアの進出にともない、各地の記者クラブから発信される記事が点睛を欠くものであることを、多くの国民が認識するようになったのは事実だ。
 記者クラブ制度の最大の問題点は、客観・中立を装って、じつは大本営発表を垂れ流す現状にこそある

記者の養成過程を問題視する声も
 大手メディアの報道姿勢に疑問符が付けられるようになって久しい。「関係者によると」といった書き出しで始まる記事に代表される、いわゆるリーク情報に頼る取材手法に問題があるのはもちろんだが、記者たちをそうした方向に向かわせた原因は、大手メディアの記者養成過程にあると指摘する声もある。

 ある古参記者は次のように話す。
「すべてのメディアがそうだとは言い切れないが、通常、新人記者は「サツ回り」と呼ばれる警察担当を振り出しに記者人生をスタートさせます。ここで覚えるのは事件・事故の取材手法や型にはめられた記事の書き方ですね。そして、見落とせないのが、この段階で「夜回り」と称される御用聞きをやらされることです。
 (新入社員には)入社直後に一定の教育を受けさせるのですが、現場に出たあとで多忙な先輩記者が手取り足取り指導するわけではありません。 
 取材対象であるはずの警察官から多くのことを学んだり、他社の記者の手法を見よう見まねで吸収したりするんですね。下手をすると聞けば何でも教えてもらえるというふうに錯覚してしまう。依頼心が強くなるんですね。
 こうなると記者にとって最も大切な探究心が失われてしまう。ネタを貰うのが当然、自分で物事を検証するということをやらなくなっていくんです。もちろん、捜査情報を聞き出すことに何の罪悪感もないですよ。
 こうした記者たちが、サツ回りを終えて役所の記者クラブに入るとどうなるか分かりますよね。役人に媚びてリーク情報をもらい、他社より1日でも早く記事にしようというさもしい根性が染み付いてしまうんです。記者クラブの存在を悪と決め付けるのは早計だと思いますが、こうした記者が寄り集まってしまえば記者クラブの存在意義が失われるのは当然でしょうね。
 いずれにしても、記者養成の在り方を変えない限り良い記者は育たないし、記者クラブへの批判がなくなることもないでしょうね」。

 重要な情報を得るためには、取材対象の懐に飛び込む必要がある(取引を行う場合もあるらしいが)。しかし、人間関係を築くのが下手なのか、あるいは元々の根性が腐っているのか、若い記者にやみくもにリーク情報だけを欲しがる傾向が強まってきたのは事実である。

 私事で恐縮だが、情報交換に訪れた若い記者の言葉にうんざりする機会が急に増えたのはここ5~6年ほどのことだ。
 「サツは動きますかね?」。人様から聞いた情報を自ら検証もせずに、司法当局が事件として扱うかどうかを聞いてくるのである。うちは警察じゃないよとあしらって帰すことにしているが、世の中を動かそうという心意気のかけらもない記者が増えたことに唖然とする思いだ。

 古参記者が話すように記者養成の過程に問題があるとすれば、メディアの信頼回復のためにも各社が真剣に取り組むべき課題ではないだろうか。
 記者クラブの存在意義が問われるなか、変わろうとしない大手メディアこそ守旧派なのかもしれないが・・・。

風穴は開いたが・・・
 こうした事態に風穴を開けたのが田中康夫元長野県知事(現・衆院議員。新党日本代表)である。平成12年、知事に就任した田中氏は「脱記者クラブ宣言」を行ない、会見をオープンにして話題になった。
 既得権を奪われた大手メディアの反撃はすさまじく、その後の知事批判が熾烈を極めたのは言うまでもない。既得権益の確保に汲々としてきたのは、政治家や官僚だけではないのだ。

 次のターニングポイントは平成21年の民主党政権誕生だった。
 同年5月、当時野党だった民主党の新代表に就任した鳩山首相は、代表就任の記者会見において、フリージャーナリストの質問に答える形で次のように明言した。
「私が政権を取って官邸に入ったら(会見を)オープンでやっていく」
「記者クラブ制のなかでは批判もあるだろうが、(会見には)どんな方も入っていただき、オープン性を高めていく必要がある」。

 会見をオープンにして、海外メディアをはじめ、フリージャーナリスト、雑誌も入れるというもので、会見フリーとそれによってもたらされる報道の変化が期待されたのは事実だ。ただし、政権奪取後も記者クラブ主導は続いた。

 政権交代が実現した当時、会見フリーを宣言した首相の言葉を確かめるためネットメディアの記者として首相官邸の広報に会見参加を申し入れたことがある。しかし、官邸の主である首相の意気込みとは裏腹に、広報担当者から返ってきたのは「記者クラブの幹事社に話をしてくれ」という一言だった。
 記者クラブ制度の旧弊を打破しようとしながら、当の記者クラブにお伺いを立てろという官邸の姿勢に呆れたことを記憶している。同時に、この国に染み込んだ記者クラブ制度の厚い壁を思い知った瞬間でもあった。

 その後、国の機関や政党の会見には記者クラブ所属以外のメディアの記者やフリーのジャーナリストにも多少の門戸が開かれたが、記者クラブ至上主義が現在も続いているのは確かである。
 ただ、記者クラブによる情報独占の構図にメスを入れたことは、民主党の唯一の成果と言っても過言ではない。不十分ながら、たしかに、風穴は開いたのである。

記者クラブに対する取材の趣旨
 それでは、地方分権の時代に、あまたある地方の記者クラブはどのような姿勢で“部外者”の会見参加に対応しているのか。?HUNTERの記者クラブに対する取材はここから始まった。

 参考にしたのは、記者クラブの存在を正当化せしめている「日本新聞協会」が公表した、記者クラブや会見に関する「見解」だった。正確には、「日本新聞協会編集委員会の見解」(2002年1月17日、2006年3月9日一部改定)である。

 その一部を抜粋する。
《ネット社会到来という時代状況を踏まえ公的機関が主催する記者会見を一律に否定しないことにした。しかし、公的機関による恣意(しい)的な運用を防ぐ意味から、記者会見を記者クラブが主催することの重要性を強調した。記者クラブは日常の取材活動の中で適切な会見設営に努力し、行政責任者などに疑問点、問題点を直接ただす機会の場をもっと積極的に活用して国民の知る権利に応えていくべきである。その際、当局側出席者、時期、場所、時間、回数など会見の運営に主導的にかかわり、情報公開を働きかける記者クラブの存在理由を具体的な形で内外に示す必要がある。記者会見はクラブ構成員以外も参加できるよう、記者クラブの実情を考慮に入れ努めていかなければならない》。

 一見もっとらしく記されたこの「見解」は、所々に逃げ道が用意されている便利なシロモノだ。しかし、この「見解」が記者クラブの拠りどころとなっている以上、いずれの記者クラブもその趣旨に沿った運営を行っているはず。九州7県の県庁で組織された記者クラブに質問を送付したのは7月中旬のことだった。

 HUNTERは、「記者クラブ」と一線を画し、一方的に流されたリリース情報を報じないことを運営方針に掲げているため、「記者会見」に参加することはない。従って、当サイトの記者が会見への参加を希望するものではなく、あくまでも現状取材の一環としての質問であることを断っている。その上での質問は、以下の4点だ。

  1. 記者会見の主催は記者クラブ、県のいずれでしょうか?
  2. フリーランスの記者をはじめ、貴記者クラブ所属ではないメディアの記者の会見参加を認めておられますか?認めている場合と認めていない場合、それぞれの理由も合わせてご回答下さい。
  3. 記者クラブ所属以外の記者が会見に参加する場合、質問することも可能ですか?質問ができない場合はその理由をご回答下さい。
  4. 貴記者クラブの運営に、どの程度の金額の公費が費消されているかご存知でしょう?ご存知でしたらお教え下さい。

 1~3の質問は、前述した日本新聞協会の「見解」と現状の違いを検証するため、4番目の質問は、半ば公的な存在とされる記者クラブに所属する記者たちが、どの程度の“意識”をもっているかを確認する目的で加えたものだ。

 7県の記者クラブすべてから回答を得たのは16日。もっとも早い回答は7月24日に長崎県庁記者クラブから送られてきたFAXだった。

つづく



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