なりふり構わず消費増税に向かって突き進む野田政権。本音は同じの自民党。各党の増税推進派が立脚しているのは、"カネがなければ国民から取り上げる"という安易な考え方だ。
消費税1%につき約2兆円の税収増になることは事実だが、肝心の所得税と法人税が増収に転じない限り、この国の財政事業が好転することはない。デフレ脱却こそ喫緊の課題なのだ。
無定見な政治家を操っているのは霞ヶ関の官僚である。彼らの狙いは、増税によって不足する収入を補い、既得権を温存することにある。
増税をめぐる与野党の駆け引きが続くなか、総務省による常識を超えた無駄遣いの実態が明らかとなった。
1冊38万円
「諸外国情報通信便覧」と記された右の1冊。制作に費やされた税金は38万2,200円である。
平成21年、総務省は「財団法人マルチメディア振興センター」(当時。現在は一般財団法人)との間に「諸外国における通信・放送・電波利用情報の収集・分析・公開事務等」の請負契約を結ぶ。契約金額は9,555万円。入札の形をとってはいるが、いわゆる一者応札で同法人が落札していた。
マルチメディア振興センターは、平成2年に「財団法人テレコム高度利用推進センター」という名称で発足。同8年に「財団法人新世代通信網利用高度化協会」を統合して現在の法人名となったが、典型的な天下り法人として知られる。
事業内容は、《インターネット等のマルチメディア通信に対応する ネットワーク及びその利用に関する調査研究、技術開発、実用実験、情報の収集及び提供並びに普及啓発等の事業》(同法人ホームページより)となっているが、旧郵政省の流れをくんでいることから省庁再編後の総務省と関係が深く、毎年同省から多くの業務を委託されている。
HUNTERが総務省への情報公開請求で入手した同契約の「仕様書」によれば、委託された業務は、指定された地域の国や国際機関の通信・放送に関する情報を集め、和文に翻訳して総務省の主管課が指定した各署にメール送信するというもの。
その最終的な「成果物」が右の「諸外国情報通信便覧」で、250冊を納品するよう定められていた。契約金額が9,555万円であるから、1冊あたりの単価は38万2,200円となる。「部内資料」と記されているとおり、外部に出ることはない。
後述することになるが、業務の内容はインターネットに詳しい学生なら十分に対応が可能。さらに基本データは「使いまわし」だったことが分かっている。国がインチキ商売を率先して行わせているのだ。
インチキ商売の仕組み
下の3冊は、平成19年から20年にかけて総務省がマルチメディア振興センターに同様の業務を委託して納品された成果物である。
タイトルと一冊あたりの単価は次のようになる(順番は左から)。
・「諸外国情報通信便覧」(平成19年度版)→13万3,875円
・「主要国情報通信便覧」(平成20年度版)→27万900円
・「諸外国情報通信便覧」(平成20年度版)→19万3,200円
タイトルを見て分かるとおり、対象国が違うだけで、業務内容自体は変わらない。総務省の役人が自分で収集できる程度の「情報」とやらを、数千万円の税金を使って天下り法人の仕事に仕立てているだけのことなのだ。
それぞれの業務委託における対象国は、「アジア・大洋州」、「北米・中南米」、「欧州」、「中東」、「アフリカ」の各地域の国を変えただけ。従って同じ内容の業務委託でありながら、数千万円単位の業務が複数回にわたって同一法人に委託される仕組みとなっている。
データ使いまわしの実態
前述した「基本データの使いまわし」については、あまりのお粗末さに言葉を失う。
下の左側が「主要国情報通信便覧」(平成20年度版)における米国についての記述。右側が冒頭で紹介した「諸外国情報通信便覧」(平成21年度版)の同じく米国に関する記述である。
異なっているのは掲載ページと幹部欄の内容、個別の数字など年ごとに変わる部分だけ。あとはまったく同じだ。掲載されたほとんどの国の記述が同様の手口によるもので、ところどころ申し訳程度に変更されているに過ぎない。年度が変わる度に、データの更新部分をいじるだけなのだ。
杜撰な仕事だったらしく、同じ組織図を使った各右ページの「組織」の記述では、平成20年度版で《委員会並びに7局(Bureau)と11室(Office)によって構成》となっていたものが、平成21年度版では《委員会並びに7局(Bureau)と10室(Office)によって構成》に変わっている。正解は10室なのだが、これでは数十万円の価値がない。
国民への詐欺
総務省は、毎年こうした天下り法人への業務委託を繰り返しているのだが、その手法は国民に対する詐欺と言っても過言ではない。
国家・国民のために存在すべき中央省庁が、天下り法人のためにムダな仕事ひねり出し、立派な装丁で一冊数十万円の内部資料を作らせているのである。税金詐取以外の何ものでもない。
これでも「増税やむなし」と言えるのだろうか。
総務省の天下り法人への業務委託について、シリーズで検証を行っていくが、今回報じた一冊数十万円の内部資料は、その入り口程度の話である。