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福岡市 県警OB72名に人件費2億円
本年度急増 市内部からも批判の声

2012年6月 6日 11:00

 高島宗一郎市長による市職員への飲酒禁止で物議をかもした福岡市が、退職した福岡県警の警察官を嘱託職員として大量に受け入れている実態が明らかとなった。

 市職員の削減が進む一方で、県警OBの再就職だけが増加。今年度、嘱託職員の職にある県警OBは72名、人件費総額は2億円を超えている。

 デフレ不況の中、就職難にあえぐ市民をよそに常識を超えた市政運営がまかり通っていたことになる。パフォーマンスに夢中な高島市長だが、事態を黙認していたことは明らか。改めて市政トップの資質が問われそうだ。

現状
gennpatu 233392435.jpg HUNTERが福岡市への情報公開請求で入手したのは、平成20年度から同24年度までの5年間で、市の嘱託職員として任用された県警OBの人数と人件費の年度別の数字だ。(右の文書参照
 それによると、平成20年度から22年度まで60~61人だったの嘱託員の数が、平成23年度から上昇。同年度に64名となった後、今年度から一気に8名増え72名となっている。

 8名増えたことに伴い、支出される人件費は2,570万4,000円増加。県警OBへの人件費だけで2億円を超えることになる。市関係者によれば、福岡市政はじまって以来の事態だという。

背景
 今年度、県警OBの市への再就職が8名も増えたのは、市役所内部の組織改編が絡んでいる。
 福岡市は今年4月、暴追運動の強化などに対応するため、市民局内に「生活安全部」を新設。初代部長に現役警察官を招くとともに県警OB5名を嘱託で生活安全課に採用した。通常、新設課を外部の人間ばかりで構成することはなく、これまでの福岡市では考えられない人事だという。
 これとは別に今年度新たに3名の県警OBが嘱託になっており、昨年から数えると県警OBだけが11名も増えたことになる。

 県警OB採用数が増加に転じた背景には、県警OBの副市長就任がある。高島市長の人事だったが、疑問視する声は少なくない。
 ある市職員は次のように話す。「なぜ県警OBを副市長に就任させたのか分からない。すでに現役警察官が出向してきているのに、OBを使う理由は見当たらない。安心・安全のまちづくりのためと言うが、警察の仕事と市の仕事は区別されている。納得できる説明もなかった」。

 別の市職員も現状を嘆く。「市役所の中に警察ができた。違和感を持つ職員は多い。いっそアメリカみたいに福岡市警を創設したらどうか。その方がよほど分かりやすい」。

副市長―「長い目で見て」 
 現状について、県警OBの大野敏久副市長に話を聞いた。
 大野副市長は、「治安を守るためには警察、行政の連携が必要」とした上で、「県警OBを招いて良かったと言われるような仕事をやっていく。どうか長い目で見て下さい」と話す。
 治安は警察の仕事ではないかと問うてみたが、「『啓発』の重要性を理解してもらいたい」という答えが返ってきた。
 県警OBの再雇用が多すぎるとは思わないかとの質問に対しては、明確な回答はなかった。

就職難 
 犯罪が多発する今日、現場を知る県警OBは市にとっても市民にとっても心強い存在である。捜査で培った能力を、市政の中で生かしてもらうことに異議を唱えるつもりもない。
 しかし、長引くデフレ不況の中、大学生の就職難、リストラ、再就職の困難といった現象が社会的な問題となっていることも事実だ。
 「72名、2億円」という数字が、市政運営上適正と言えるのかどうか。一部の組織から大量にOBを受け入れることが市民からどのように見られるのか。大いに議論の余地がありそうだ。

市長の責任
 問題は、こうした事態を黙認してきた高島市長の市政運営にある。
 県警OBへの人件費だけで2億円を超えるという現状には、前述のとおり市内部からも疑問視する意見が多いが、事情を知った市民からも厳しい批判の声が上がる。

 リストラ経験を持つ市内城南区に住む50代の会社員の話。「なぜ県警OBだけが厚遇されるのか!高島さんは、民間企業の厳しさなどまったく理解していないんだろう。リストラされたら最後、再就職など簡単にはできない。どれほどの人が苦しんでいるのか分かっていない。市役所の改装やら下らないことばかりやっているが、いいかげん地に足の着いた市政をやってはどうか」。

 主婦の主張も同様に手厳しい。「パフォーマンスばかりで足下が見えていないんでしょう。若いから仕方がないでは済まされない。飲酒で事件を起こした職員も悪いけど、市長は飲酒禁止やら腐ったミカンだのと騒いでいるだけ。何の解決にもならない。これって(県警OBの再就職)、天下りでしょ。能天気よね」(中央区30代主婦)。

提言
 大野副市長が話しているように、福岡の治安が悪化しているのは事実だ。多発する暴力団犯罪、引ったくり、性犯罪・・・・。
 現場の警察官は治安維持に懸命となっているが、追いつかないのが現状。しかし、それと県警OBの市への再就職を増やすこととは別の問題である。

 あえて提言するなら、命がけで市民生活を守る警察官の待遇改善や、警察予算そのものの増額をすべきである。



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