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直方市 情報公開で説明拒否
旧駅舎解体に新事実も

2012年6月19日 08:55

gennpatu 114020075.jpg 保存を求める市民の声を無視してJR旧直方駅舎を"がれき"に変えた直方市が、駅舎解体に関する公文書の情報公開請求に対する開示の場で、記者や市民の質問に対する回答を拒否。説明責任を放棄した。
 さらに、不十分ながら開示された文書の記述から、向野敏昭市長が独断で旧駅舎保存を否定していたことも分かった。

 旧直方駅舎をめぐっては、方針決定過程が不透明だったことや、同市が平成18年に実施したJR直方駅周辺の整備事業に関する都市計画案の縦覧の際に提出された住民の意見書にねつ造の可能性があることが分かっており、歪んだ市政運営に批判の声が上がっていた。(写真は直方市役所)

説明拒否までの経緯
 HUNTERは昨年、直方市に対し駅舎解体に関する公文書の情報公開請求を行ない、入手した文書を検証。"方針決定時"の文書が不存在であることを報じた。その後の取材でさらなる文書の存在が明らかとなったことから再度の情報公開請求をした結果、前述した都市計画の意見書ねつ造が発覚した。
 この過程で、直方市側が公開すべき文書を勝手な判断で選別していることが分かったため、やむなく3度目の情報公開請求を行っていた。

 開示日の今月12日、立ち会った直方市の担当職員はこれまでの態度を一変させ、文書の内容についての質問に対する回答を拒否。公文書開示は実施するが、取材の場ではないから文書の内容については説明しないと言い出した。理由を尋ねたところ、本件が係争中であることから市の顧問弁護士に相談して決めたと言う。

 この日、公文書開示を受けたのはHUNTERの記者と駅舎解体に異議を唱えて訴訟を起こした原告市民ら。個別の情報公開請求ではあるが、同じ内容の請求だったため、そろって直方市に対応した。HUNTERに対する2度目の開示の折、事情に詳しい原告側に意見を聞くため同席してもらっていたという経緯もあった。
 市側は記者にも市民にも同様に説明拒否をしており、税金で雇った弁護士が市民の知る権利を阻害した形だ。これでは情報公開の意味がない。

無視された条例の趣旨
 「直方市情報公開条例」は、その第一条で次のように規定している。
《この条例は、住民主権とそれに基づく知る権利にのっとり、あわせて情報公開を総合的に推進するため、直方市の保管する情報を公開する制度の運営に関し必要な事項を定めることにより、市民の市政への参画と監視及び市民との協働を促進し、市の諸活動を担う公務員等の説明責任を確保することによって、公正で開かれたまちづくりの推進と民主的な市政の発展に寄与することを目的とする》。
市の諸活動を担う公務員等の説明責任を確保する》と明記しており、直方市の説明拒否は明らかに本条例の趣旨に反する。
 また、係争中を理由に情報公開を形骸化させることが許されるとも思えない。同条例第5条では《何人も、この条例の定めるところにより、実施機関に対し、その保有する情報の開示を請求する権利を有する》と定めており、相手が誰であろうと説明責任を果すことを求めているからだ。

 問題はまだある。直方市が、情報公開請求の内容などを第三者の弁護士に漏らしたことだ。市側は、請求者の氏名は知らせていないと釈明しているが、行政機関としての在るべき姿勢を逸脱している。
 同条例の規定に従えば、情報公開に関する事務遂行について実施機関(直方市)の諮問に応じて答申したり建議したりするのは、市が設置した「直方市情報公開審査会」なのである。弁護士にお伺いを立てること自体、条例に反していると解するべきだろう。

 ちなみに日本弁護士連合会は、国民の知る権利を確立するため度々情報公開のあり方について国への意見書や声明を出しており、最近では今年4月、「情報公開法改正法の今国会での成立を求める会長声明」の中で次のように述べている。《国会は、主権者である国民の情報主権の確立が重要であり、今後の行政のあり方を議論するために情報公開制度の拡充が必要不可欠であることを認識し、早期に改正法案を可決すべきである》。

 直方市の対応について、市民オンブズマン福岡の児嶋研二代表幹事は次のように話している。「情報公開条例は、市民に対する説明責任を果たすために制定されたものだ。直方市がどのような過程を経て施策を実行したのかを明らかにするためには、公文書を開示した上で、内容についてきちんと説明する義務がある。直方市の説明拒否は条例の趣旨を無視したものであり、裁判や取材への対応とは別次元の話だ」。

市長が旧駅舎保存を独断で否定
 ところで、今月12日の開示にあたってHUNTERが市側に求めたのは、この日初めて示された直方市とJR九州との協議議事録に記された市職員の在籍確認である。
 下の文書は、その1ページ目と2ページ目の一部だが、協議に臨んだのが担当課長を含む職員3名だったことがわかる。いずれの職員も12日の開示に立ち会っていなかったため、現在も担当課に在籍しているかどうかを確認したところ、いきなり直方市側が説明を拒否したのである。直方市側が隠蔽姿勢を露わにするなか、この議事録によって旧駅舎解体の方針決定過程に新事実が判明する。(議事録にある赤いアンダーラインなどの加工はHUNTER編集部)

gennpatu 1864410248.jpgのサムネール画像

 直方市側はこれまで、駅舎保存を断念する方針決定を下した時期や理由について詳しい説明を避けてきた。しかし、この平成20年8月7日の議事録には《駅舎保存運動について重要視している》知事(麻生渡福岡県知事。当時)に対し、向野市長が《(現物保存は)無理であると伝えている》と記されている。つまり直方市長は、市内部の議論も経ずに"独断"で駅舎の保存はできないと知事に明言していたのである。

 平成18年に直方市が都市計画内容を公表して以来、市には旧駅舎保存の陳情や要望が数多く寄せられていた。これに対し、市が正式に保存断念を確認したのは、平成22年11月の方針決済文書においてである。それまでの過程では、旧駅舎保存の是非について明確な意思表示をしないまま、開発事業の計画だけを進めていたのである。
 新たに見つかったJR九州との協議議事録は、市長の専横を証明する資料と言えそうだ。詳しい理由などを聞くため、向野市長に取材を申し入れていたが、18日までに、職員を通じて「担当課に任せている」として取材に応える意思がないことを伝えてきた。



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