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原発安全協定の茶番
九電の認識は「通報連絡協定」

2012年5月25日 10:05

 福岡県が糸島、福岡の両市とともに九州電力との間に締結した玄海原発(佐賀県玄海町)に関する「安全協定」をめぐり、県の隠蔽姿勢が際立つ形となった。
 
 福岡県は、安全協定の交渉過程に関するHUNTERの情報公開請求に対し、九電との協議議事録などを非開示文書にあたるとして公開を拒否。さらに4回の協議のうち2回目、3回目の議事録を作成途中のまま放置していたことも明らかとなった。
 こうしたなか、同じの内容の情報公開請求を受けた福岡、糸島の両市が相次いで安全協定関連文書を開示。両市とも非開示文書はなく、福岡市は県が開示を拒否した協議の内容を記した会議録までオープンにした。
 
 また、公開された文書について検証したところ、安全協定そのものが、じつは単なる「通報・連絡」の取り決めであることを前提に交渉が進められていたことも分かった。

非開示への反論
 23日までに県が非開示とした公文書は次の4点だ。
・「九州電力との協定書協議(第一回)議事録」および「第4回協議」議事録
・「協定締結に当たり両市との調整等を検討する事項について」
・「平常時の連絡項目の取り扱いについて」
・「協定締結に当たっての九電の考え方に対する対処方針」

 県は、一連の文書が「福岡県情報公開条例」に規定した非開示対象に該当すると主張しており、その理由として挙げているのが《機微にわたる内容が含まれている上、記録の正確性について相手(注・九電のこと)の確認を得ていない。これを開示すれば相手との信頼関係を損ない、今後の法改正等に応じた協定見直しの際に適切な協議が困難になるおそれがあるため》というもの。
 即日意義申立てを行ったが、本稿で反論しておきたい。
 
 まず、県が九電への未確認を非開示の前提にしたことについてだ。国や自治体の情報公開においては、対象文書に民間企業などの経営に関わる事項が含まれている場合、当該企業に意見を求めるのが通例である。今回の事例も交渉相手である九電に開示の意思を確かめなければ、最終的な判断を下すことはできなかったはずだ。

 時間的な余裕について言うなら、情報公開請求から開示・非開示の決定までは、通常の2倍である30日もかかっている。この間九電側に協議内容を確認することは容易だったはずで、これも言い訳にはならない。
 つまり《確認を得ていない》というのは県の怠慢か、あるいは故意だったかのどちらかということになる。もし九電と相談した上での非開示決定なら、そろって隠蔽したという極めてタチの悪い話となり、非開示を決めた理由も虚偽だったことになる。

 次に、作成途中のまま放置しているという九電との2回目、3回目の協議の議事録についてである。
 県は、「未完成」(県側の表現)の議事録は公文書ではなく、従って開示・非開示を判断する対象ではないと強弁している。しかし、4回の協議を経て安全協定に至っており、県民への説明責任を果すためには「未完」では済まされないものだ。もちろん、不十分とはいえ、職員が職務の一環として作成した文書である以上、これは間違いなく「公文書」なのである。

 県民の生命・財産に直結するという事案の性質や、電力行政に関する世論の動向を考えると、協定の作成過程を非開示にすることは到底許されるものではないと考えるべきだろう。

 隠蔽に走った県の姿勢を、市民オンブズマン福岡の児嶋研二代表幹事は厳しく批判する。
「県民が求めているのは、原発の安全協定という生命、財産に関わる重要事項に対する信頼性だ。その交渉過程を隠すことは、県自らが協定の意義を失わせているに等しい。
 作成途中の議事録については、どのような形であろうと県職員が職務の一環として作成しているうえ、前後の経緯を考えても組織として共有していることは明らか。紛れもなく公文書のはずだ。福岡県は、かつて職員のカラ出張問題で封筒の裏書も公文書であるとの判決を受けている。まだ懲りないのかと言いたい」。

【参考】
*「福岡県情報公開条例 第7条」
《実施機関は、開示請求があったときは、開示請求に係る公文書に次の各号に掲げる情報(以下「非開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該公文書を開示しなければならない》
*「同条第1項第4号]
《県の機関又は国、独立行政法人等、他の地方公共団体、地方独立行政法人若しくは地方三公社が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの》

福岡、糸島は非開示なし
 県と対照的な対応を見せたのは、ともに協定に参加した福岡、糸島の両市だ。24日、情報公開に応じた両市は、安全協定に関するすべての文書を開示。福岡市に至っては、県が隠蔽した九電との協議内容について、4回分すべての記録を開示したのである。
 
 福岡市が開示した議事録は、協議の内容や質疑応答をまとめたもので、担当職員の記憶に基づき作成されたという。完全な議事録とは言えないものの、九電と各自治体とのやり取りがかなり詳しく記録されていた。
 
 以下、福岡市が開示した協議の議事録を参考に「安全協定」の検証を進めていく。

協定の実態は「通報・連絡」の取り決め
 gennpatu 233.jpg福岡県をはじめ協定に参加した福岡、糸島の両市がそろって開示したのは、九電から提示された文書の数々である。
 
 その中に、3回目の協議が開かれた今年1月18日に九電が示した「安全連絡協定の協定項目について」というタイトルの文書がある。(右の文書参照。赤いアンダーラインはHUNTER編集部)
 書かれているのは玄海原発の運転状況に関する情報を提供することの意義や、協定の主旨についての九電の認識なのだが、タイトルや文中にあるとおり「安全連絡協定」という名称が使用されていたことが分かる。

 九電側の認識は、原発の運転状況についての情報を迅速に提供するという取り決めを結べば、《万が一の場合に重要な「異常時の連絡」に関する担保が得られ、福岡県民の方々の安全確保と安心にもつながる》(文中の記述)のだという。
 
 協定を結んでやるからありがたく思えという、傲慢な姿勢が如実に表れている文書だが、協定そのものが「連絡」のみに主眼を置いていたことを表している。
 安全とは名ばかり。じつは《原発の運転状況や事故の情報をどのように流すか》程度の取り決めに過ぎないものを、大騒ぎして見せただけのことだったのである。まさに茶番だ。

 県民を愚弄する協定の実相を示す記述が、福岡市が開示した議事録に残されていた。(赤いアンダーラインはHUNTER編集部。議事録中の九=九電、福=福岡市、県=福岡県)

gennpatu 231.jpg

 第3回目の協議で、福岡市の担当者が「安全連絡協定」という九電の案に疑問を呈したことが記されており、九電は、当初「通報連絡協定」としていたものを「安全連絡協定」に変えたと説明している。内容とは関係なく、協定の名称で世間をごまかそうという発想だ。 

 協定内容を「通報連絡」に限定し、原発再稼働などに口出しされることを頭から排除しようとしていた九電の思惑がうかがえる。

 さらに、このやり取りからは、協定書の文案が4者(九電、福岡県、福岡市、糸島市)で練り上げられたものではなく、九電が提示したものに修正を加える程度のものだったことも読み取れる。主導したのは「福岡県」である。

つづく



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