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「腐ったミカン」に一言
福岡市 緊急事態の背景

2012年5月23日 09:50

福岡市役所 高島宗一郎福岡市長による市職員への飲酒禁止令が物議をかもしている。立て続けに起きた市職員らの事件に飲酒が絡んでいたことが前代未聞のお達しにつながったようだが、かなり方向が違っていると言わざるを得ない。
 「酒飲むな」「腐ったミカン」などと、部下である職員をあしざまに批判しているが、組織のトップは高島氏自身だ。メディアの前で市民の代表を演じて見せてはいるが、事の本質にふれる発言は皆無。責任転嫁のそしりは免れまい。
 高島氏の出した飲酒禁止令で状況は変わるのだろうか。

語られぬ事件の背景
 結論から先に述べるが、高島流パフォーマンスでは市役所の意識改革は進まない。断言しても良い。もちろん、深酒の挙げ句、事件・事故を起こした職員に非があるのは当然だが、付け焼刃の方策で解決できる問題ではないからだ。

 第一に求められているのは、綱紀が乱れていることの原因究明である。
 事件を起こした職員が公務員としての自覚を欠いたのは事実だ。しかし、逮捕されたある職員を知る元上司は、「有能だった。なぜこうした事件を起こしたのか分からない」と首を捻る。
 職務の上で追い詰められてはいなかったのか。人間関係で悩んではいなかったのか。そうした背景を検証することなく、「腐ったミカン」で片付けていいはずがない。

 じつは近年、うつ病になる市職員が増加しており、事態の深刻さを指摘する声が上がっていた。背景にあるのは、人員削減がもたらした多忙や、社会環境の変化だ。しかし、この問題に対処するため市内部で議論したという話など聞いたことがない。
 市のトップである高島氏が事態を把握していたとも思えない。知っていれば不祥事を受けての会見などで言及するはずなのだ。

 公務員も人間である。心の奥に葛藤を抱える職員もいるだろうし、市の方針に疑問を持ちつつ、職務に追われるケースもあるだろう。不祥事の裏にどのような状況が存在するのか、まずはそれを知ることの方が大切だ。冷静さを失ってわめき散らす高島氏は、何が必要なのか分かっていないということになる。
 原因や背景を理解せぬまま、"言うことを聞かないなら連帯責任で禁酒しろ"というのは、幼稚すぎる処方箋と言うほかない。

軽率な「腐ったミカン」発言
 事件を起こした職員たちは、刑事上の責任と公務員法に照らした責任の両方を問われることになる。しかし、職員にも家族はいる。高島氏の「腐ったミカン」発言は、事件を起こしてしまった職員ではなく、その家族を傷つけてはいないか。
 事件の詳細な経緯が分からない状態で感情的な発言を繰り返すのは、あまりに早計というものだ。
 
 犯罪行為は法が裁くのであって、市長が裁くのではない。ましてや、逮捕された職員の周囲まで否定するような発言は適切とは思えない。事実、この発言を知った職員からは、「そこまで言うか」という怒りの声も聞こえてくる。この点、筆者も同感である。

 ちなみに高島氏は市長選挙の折、家族と写った写真を印刷物に使用して良きパパ、良き夫を演出して見せておきながら、市長就任から数ヶ月で離婚している。しかし、子どもへの影響を理由に報道を押さえ込んだうえ、離婚の事実さえ公表しようとしていない。自分本位の姿勢には呆れるばかりだが、この程度の人物が下す命令に、重みがあるはずがない。高島氏には、人を引っ張るにあたって重要なのが「人格」であるということを肝に銘じてもらいたい。

職員処分
 飲酒がらみの事件が続いたため社会的な問題に発展しているが、市の職員の不祥事による「懲戒処分」は、最低でも毎月1回程度は起きている。これまで情報公開請求で入手した資料や市側への確認で分かっているだけでもここ5年間における懲戒処分の件数は次のとおりとなる。
平成19年度・・・15件
平成20年度・・・21件
平成21年度・・・10件
平成22年度・・・23件
平成23年度・・・15件
 このほか、懲戒には至らなかったものの、訓戒や厳重注意といった"服務上の措置"を下された事案がこの何倍か記録されている。 高島氏は、こうした市の実態を知っていたのだろうか。

重い市長の責任
 立て続けに飲酒がらみの事件が起きた今回の事態は、間違いなく市内部に組織としての弛みがあることを示している。原因のひとつにストレス社会の現状があるのは前述したとおりだが、市トップによる放漫経営が職員のやる気を奪っていることを忘れてはならない。

・市役所1階ロビーの改装と西側広場の整備工事に3億3,000万円。
・2階建てバスに1億5,000万円
・「こども病院移転計画調査委員会」、「アイランドシティ・未来フォーラム」、「屋台との共生のあり方研究会」等の費用に約2,300万円

 どれも高島氏の"思いつき"ではじまった事業であり、費消された税金の額だ。市内部で議論を積み上げた末の施策ではなく、喫緊の課題でもなかった。
 こども病院、人工島といった市政の重要課題を他に丸投げして、結論だけを利用する手法に市トップとしての「覚悟」は微塵も感じられない。その証拠に最大の課題である人工島問題は、先行きに光さえ見出しきれていないのだ。
 これで職員のやる気が起きるはずもなく、「この人について行こう」という声など市役所のどこからも聞こえてこない。

 市政私物化の例はまだある。高島氏は、市長選挙を手伝ったという友人の広告代理店社長を、市の顧問に据えて月額30万円以上の給料を与えてきた。論功行賞を税金で賄った形だが、こうした市長が職員の信頼を得られるわけがない。
 市職員の意欲を著しく低下させているのが高島氏自身の身勝手な言動だとすれば、職員を罵倒してショック療法とやらを施そうとも、抜本的な対策には程遠いということになる。
 市民の暮らし向きには目もくれず、目立つことばかりに夢中となる高島氏だが、その姿を一番冷やかな目で見ているのは、実態を知る市職員なのである。

 犯罪自体は憎むべきものだ。公務員としての自覚が足りないという状況があるのも確かだ。しかし、飲酒を禁止しただけで解決する問題ではないということを理解すべきである。
 市に求められているのは、原因や背景を徹底的に検証し、職員に不祥事防止策を考えさせることである。積み上げた議論の先にしか良案はない。そして、その土壌を築くのが市長の役割でもあるのだ。

 最後に、高島氏に問うておきたい。
個々の職員とじっくり語り合ったことがあるか?
その家族に思いを向けたことがあるのか?
まじめに職務を遂行する職員たちをねぎらったことがあるか?
職員と共に苦楽を共にする覚悟があるか?
 あなたの答え次第で、市役所が再生するか否かが決まる。



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