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玄海・川内 原発トラブルからの一考察

2012年5月 8日 10:05

 平成11年、茨城県東海村でJCO(株式会社ジェー・シー・オー) が臨界事故を起こし、作業員2名が死亡したほか、600名を超える被曝者を出した。
 さかのぼれば、2度にわたって原子爆弾を投下され、ビキニ環礁における米軍の水爆実験では第五福竜丸が死の灰を浴びている。
 放射能被害の恐ろしさを世界中のどこの国より知っていていたはずの日本に、なぜか54基もの原発が作られた。地震列島であることを承知の上で、だ。

 原発を否定できる経験を持ちながら、その怖さに目をつぶってきた国民が多かったのは、国や電力会社、さらには大手メディアによってもたらされる情報を信じたからに他ならない。
 「日本の原発は安全」。政・官・業・学のいわゆる"原子力ムラ"がカネにあかせて垂れ流した虚構を崩壊させたのは、東京電力福島第一原発の事故だった。
 それでもなお、電力不足を喧伝する記事や、原発再稼働に前のめりとなる政権の姿を見ると、覚醒は不十分であると言わざるを得ない。

 しかし、福島同様の惨事を招く可能性は、原発が存在し続ける限り消えることがない。改めて九州電力が公式に認めた原発トラブルを一覧表にまとめてみると、私たちの暮らしが危険と隣り合わせだったことが分かる。(注:記事中の一覧表にある「発生年月日」とは、九電がトラブルについて公表した日である)

玄海原発 ― 際立つ1号機のトラブル
 玄海原子力発電所で起きたトラブルについての公表は、昭和50年に1号機が営業運転を開始してから今日までに合計35回。1号機で23回、2号機で8回、3号機で3回、4号機1回となっている。
玄海原子力発電所のトラブル 中性子の照射を受け続けたことで脆化(ぜいか。もろくなること)が懸念される1号機だが、トラブルの回数自体が際立っており、もともと欠陥施設ではないかとの疑念が膨らむ。古いタイプの原発とはいえ、このトラブルの多さは尋常ではない。トラブルによって手動もしくは自動で原子炉が停止した回数は3回。2、3、4号機がそれぞれ1回ずつであることを見ても、同機の危険性を危惧する声が間違いではないことを表している。

川内原発 ― 重大事故も
 玄海1号機の営業運転開始から遅れること9年。昭和59年に稼働しはじめた川内原発だが、2基の原発で合わせて19回ものトラブルが発生している。原子炉停止に至ったトラブルは2回で、平成22年には大事故を引き起こしていた。
川内原子力発電所のトラブル 事故は同年1月、九電と協力企業の作業員計7名で、タービン建屋内の配電室にある配電機器の保守・点検を行なっていた際に発生した(注:九電の資料では事故発生日を2月22日としているが、これは事故内容を公表した日付。事故自体は1月29日に発生した)。
 分電盤を点検するため、1人の作業員が電気を地中に逃がすアースを取り付けようとしたときに火花が発生。本人を含む3人が重症、4人が軽傷を負い、アースを取り付けようとした協力企業の作業員はその日のうちに死亡している。

 事故が発生したのは配電室という中枢施設だ。原子炉を正常に機能させるには、コンピュータ制御を含めた電気系統が不可欠。その電気系統のいわば心臓部が、配電室なのだ。
 福島第一原発で、津波による電源喪失が大惨事を招いたことを考えると、川内原発1号機での死傷事故がいかに重大なものであったのか分かる。

原発の議論―主題は「命」のはず
 玄海、川内のそれぞれのトラブルは、九電によって公表されたものだ。いずれも何らかの形で報道されていたことになるが、人々の記憶に残っているものは少ないはずで、それこそが"日本の原発は安全"とする虚構の上で思考停止状態になっていたことの証でもある。 
 福島第一以後、こうしたトラブルが発生していたら、大騒ぎになっただろうことは容易に想像がつく。報道もまた、神話とやらに酔いしれていただけなのだ。

 やっと現実に向き合う状況になったというのに、幼稚な政権の下、原発再稼働に向けての動きは止まっていない。
 だが、福島第一だけでなく、身近な原発で何が起きてきたのかもう一度見直してみると、電気を得るためにどれだけ危険と付き合ってきたのかよく分かる。

 電力が不足するか否かという問題と原発再稼働の是非を結びつける議論が行われているが、率直に言って主題が違っているとしか思えない。
 必要なのは、子どもたちや孫たちの世代を守るためにはどうすべきかという議論であり、そうなると主題は「命」のはずだ。決して「電力の需給」ではない。
 身近な原発のトラブル事例が、主題を変えた議論を求めていると考えるが・・・。



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